去る日曜日のこと。ずっと前に和解が成立した労働訴訟のお客さまから連絡があったのです。
…このブログを読んでいる、と(゚◇゚)ガーン
二枚目の焼き芋の写真をちょうどその日に準備していたのですが(前回記事参照)、たまには仕事の話をします。
この記事は現時点ではごく一部の同業者さん向けです。
ですが、ひょっとしたら来月以降の相続登記義務化を巡る一連の申請に対処する一般の方に適応するかもしれません。表題の件。
天にまします(←我々と同じ地平にはいない気がするし、建物があるのはわかるが中に何者がいるかよくわからない点では教会や神社に似てる気もする)法務省では我々下々の者どものために、各種登記申請をオンラインでおこなうことができるありがたいソフトウェアを無料公開しております。それが申請用総合ソフトであります。
その申請用総合ソフトでは、申請データを送信する申請人または代理人の実在性を確認するために各種電子署名=マイナンバーカードに搭載されている電子証明書や、僕はまだ取得していない司法書士用の電子証明書を用いることが標準的な使用方法、らしいのです。
ここまで読んで「ならば下々の者どもには関係ないではないか面倒くさい」と思うのはいささか早計というものです。
上記のめんどくさ…いえ、原則的な方法に加えて、この申請用総合ソフトには4年前からまことに斬新な、我が国の実情に即応した革命的新機能が実装されたのです。
これは簡単にいうと、『申請用総合ソフトで作成した登記申請書をいったんお家で印刷し、これまでどおりにハンコを押して添付書類といっしょに郵便や持参で法務局に提出するが、実は申請データも電子情報処理組織に送信される(ので、法務局担当者はそっちを見ればいい)機能』です。
この形態で行われる登記申請を、QRコード付き書面申請と言っています。
申請用のソフトの無料提供は登記申請のオンライン化が始まった約19年前からあったことを考えれば、これが申請用総合ソフトにおける最も大規模なシステム変更と断言できます。偉大なる法務省は令和の御代に入っていよいよ、我が国における捺印制度と印鑑産業の保護に向けて力強く前進を始めたに違いない、と僕は確信しているところです。
見かけは紙の申請書、だけどデータは先に登記供託オンラインシステムに飛んでる、そんなQRコード付き書面申請。僕の事務所では数少ない=昨年は1件しか来なかった会社設立の登記申請をこのシステムでやったその期間に全国的システム障害を発生させて申請にストップをかけてくれる、そんなお茶目な一面も持っています。よりによって出張先でその一撃を食らったときには遠慮無くブログのネタにさせていただき、この偉大なるシステムを『デジタルとアナログの狭間、主流派と非主流派の空隙、IT革命からデジタルトランスフォーメーションへの過程をさまようような登記申請形態』と申しました。
司法書士開業から20年になるのに事務所そのものが何かの狭間や過程をふらふらしている僕にとってはまことに居心地のよい申請用総合ソフトとQRコード付き書面申請。口にするのも恐れ多いことながら、ソフトの機能にささやかな不満があったのです。
申請用総合ソフトは当然ながら、書面またはデータで登記申請書を作るのが主たる機能です。
このため不動産登記にあっては申請対象の不動産を入力せねばなりません。物件の所在などを直接入力する・地番などで検索した結果を取得するといった機能に加えて、『QRコード読込』という機能が実装されています。
これは、法務局で発行される登記事項証明書や登記情報提供サービスで入手できるpdfに表示されているQRコードをバーコードリーダで読み込ませることで、直ちに物件の情報をソフトに取り込む機能です。
通常は登記申請のまえに登記事項証明書か登記情報を取得しますから、それを反映させれば物件の情報を手で入力する必要がありません。
しかし、この機能を利用するには周辺機器を買わねばならないのが原則です。
想定される機器=USBなどで接続されるバーコードリーダはAmazonを探せば数千円で流通しており、それを買って作業が楽になった、という同業者さんのブログも見かけます。
そうではありますが。
一般市民にそんなものを買えと、偉大なる法務省が考えているはずがありません。僕はそう確信しています。
なにしろ法務省は、オンラインの申請をするソフトにわざわざ紙の申請書に印鑑押して郵便で送れる機能を実装するほどの偉大な役所なのですから。
-文章の一部、または大部分に冗談が混じっているし以下の文章もそうだ、ということはどなたも当然お気づきである、という想定でお話をすすめます-
申請用総合ソフトとバーコードリーダの説明によれば、バーコードリーダはWindowsに対して、みずからをキーボードの一種と称して振る舞い、読み取った文字形式のデータを送りつける、そういう周辺機器です。
いっぽう、今やそのへんのスマホでもふつうにQRコードを読み取り、内容である文字データを表示してくれる機能は持っています。
当然、登記情報提供サービスで手に入れられるQRコードにも読み取りまでは対応しています。Windowsでも、そうした単純な読み取り機能をもつソフトは無料で提供されています。読み取った結果をクリップボードにコピーすることまでは可能です。
と、いうわけで。
Windowsに対して、キーボードをエミュレートするデバイスやソフトが無料・安価で入手できればなんとかなるんじゃないか
と僕には思えたのです。最初はUSB接続のキーボードエミュレータが1650円、といったものに飛びつきかけたのですが…たぶんそっちも可能です。カメラを装備したパソコンAをバーコードリーダにしてキーボードエミュレータの入力側を接続し、別のパソコンBにキーボードエミュレータの出力側を出力すれば完成するだろう、と。これはこれでブログのネタとしては楽しそうです。
純粋にソフトウェアとして動作するキーボードエミュレータをさらに探したところ、本当にあったのです。
INASOFTの『キーボードシュミレータ』がこれにあたります。無料です。
そちらのウェブサイト、作者さんに寄付をするシステムがうまく機能していないようです。ウェブサイト内の広告を適当に踏んであげるとよいのかもしれません。このソフトを作られた方に敬意を表しつつ、説明を続けます。
以後はこの、キーボードシュミレータをインストールできている想定で説明します。
キーボードシュミレータの機能は『ソフトの起動時に表示されている入力用のウィンドウにオペレータが入力した文字列や特殊記号を、所定の時間的間隔で、キーボードからのデータとしてWindowsに送信すること』にあります。データの送信先は、送信の時点でアクティブなウィンドウになっているソフトになります。この点は普通のキーボードと同じです。
というわけで、どこかのよくわからん官庁が作ったよくわからん申請ソフトが存在するとしたら、そしてそのソフトが一応はハードウェアであるQRコードリーダじゃなきゃダメ、などと小生意気なことを抜かしているとしたら、そいつをだまくらかすことは可能なのではないか、と僕には思えてくるわけです。
そうしたわけで、動作を確認しつつ設定を調整します。上記の表現はあくまで一般的なものであり、具体的には偉大なる法務省が作成頒布する素晴らしい申請用総合ソフトでの利用について述べていきます。
まずキーボードシュミレータの入力ウィンドウに、スマホのカメラで登記情報から読み取ったQRコードのデータをコピー&ペーストします。
このデータは、Fから始まるF3192319230001abcde20230605といった全27桁の文字列です。
この例でabcde、の部分は0から9の数字が5桁入っている、と考えてください。
データの構成として、1923は登記所コード、ここでは津地方法務局管内のある支局を指します。F3-登記所コード4桁-不動産番号13桁-データの取得年月日8桁、がデータの主な内容ですが、全27桁を残らず申請用総合ソフトに送ってやらないとエラーを吐いてきます。
送信を一定時間内に終えないとエラーを吐く、ということもわかっています。
ふつうのキーボードからFとEnterを含む28回の打鍵を正確に3秒以内に完了できるような特殊技能があったら申請用総合ソフトの反応がどうなるか試してみたいのですが、僕にはできませんでした。
また、申請用総合ソフトの解説によればバーコードリーダから送られるデータの最後にEnter,Tabその他の終了を表す符号がくっついている必要がある、とのことです。僕はReturnを加えました。
これらを考慮した結果、キーボードシュミレータの設定は以下のようになりました。
- QRコードの内容は半角文字で入力(コピー&ペースト)する
- 『特殊入力』で表示されるVK_RETURNを末尾に付加する
- 『Enterを入力しない』『TABを入力しない』にチェックする
- 入力ボタン押下後の秒数は初期値5秒、繰り返し回数は初期値1回のまま
- 入力文字の間隔が長すぎるとエラーになるので要調整。僕の環境では100ミリ秒とした
スクリーンショットは申請用総合ソフトで『QRコード読込』ボタンを押下した直後のものです。
ここでキーボードシュミレータに適切なデータを(abcde、の箇所が数字であるデータを)入力し、『入力開始』のボタンを押し、5秒以内に申請用総合ソフトのほうの『QRコード読込』のウィンドウをアクティブにすると
エラーがでます(゚◇゚)ガーン
普通のキーボードで、文字入力の設定を確認せねばなりません。
- 漢字変換システムが立ち上がっていると全角に相当する文字列が送られ、エラーになります。
- 普段使っているキーボードのCAPSキーを押しておかないと、データの最初のFが小文字で送信され、これまたエラーになります。
…これに気づかず絶望しかけました(わらうところ)
上記のことまで設定できていれば、データが送信され申請用総合ソフトの側に、該当する不動産が表示されます。表示された不動産は当然、申請書データに取り込むことができます。
なおもエラーが出る、という場合は、いちどブラウザをキーボードシュミレータの出力先に(アクティブウィンドウに)してみましょう。
検索語を入力する部分にFからはじまる半角27桁が入力され、最後にEnterの信号が送られていればその文字列を検索語とした検索が始まる、という動作になります。Enterを含めた入力内容の当否がわかります。
最後に、キーボードシュミレータの入力ウィンドウを複数行使って複数物件入れたらどうなるの?と思ってしまった同業者さんがいるかもしれません。きっと登記で忙しくお過ごしと思います。やっかみ半分で説明を続けます(笑)
試したところ、行末で指定時間(たとえば5000ミリ秒)待機させて複数物件の送信を続ける設定、とさせた場合は失敗しました。最初の一件しか取り込みません。
キーボードシュミレータで、一行(一物件)ごとにメッセージボックスを出して待機させる場合は、OKボタンを押す都度入力と物件データの取り込みが進んでいきます。こちらは問題なく複数物件を送信できました。
QRコードのデータ形式として、不動産番号がわかっていれば取得日時はダミーでよく、冒頭にF3をくっつけて4桁の登記所コードをセットすればいい規則はわかっているのだから…たとえばワークシートで事前に整理された不動産番号13桁の一覧から(QRコードを読ませるのではないが、QRコードを読み込む入力経路を使って)半自動的に多数の物件データを申請用総合ソフトに送信することができそうです。
ですのでこれをうまく使うと、大量物件を迅速に確実に処理するシステムができてしまうのかもしれません。Pythonでプログラムを自作できればなおよいだろう、とも思えます。
※やってはいけないと考えますが、不動産番号と物件の所在地番を無料で総当たり的に確認していくシステムも理論上は作れることになります。すでにそうしている人はいそうだ、と考えました
お話を場末の零細な事務所に戻します。
これで我が事務所においても、少なくとも物件を手入力することに伴う間違いを最小化できる仕組みがタダで手に入った、とはいえます。これを司法書士20年目の最終日の明るい話題、にしましょうか。
3月22日付で、当事務所は司法書士登録20周年を迎えます。
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