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AIの助力で作る死傷病報告の略図

体育音楽図工。中学校時代の三大脅威科目でありました。だいたいこれらは5段階中の2か3、通信簿ではそういった数字を集めていた記憶があります。そんな僕にごくたまにやってくる職業生活上の脅威…とまでは言いませんが、表題の件。

労働者の休業日数4日以上の労働災害を発生させた事業主は、所轄労働基準監督署に遅滞なく事故の概要を報告せねばなりません。これに用いるA4一枚の書式が労働者死傷病報告、です。そしてこの死傷病報告の用紙では事故発生状況を文章で説明させるほか、略図を記載するスペースが設けられております。

この死傷病報告は社会保険労務士が作成できる書類なので、僕が図を書かねばならないことになるのです。

想定作業時間4時間報酬24000円の死傷病報告作成業務のうち2時間が略図の作成に費やされる…ということはないのですが、とにかく今でもこの部分の作業に、スッと入っていけないものを感じていました。

でも今回は違うのです。今回作りたい略図は直線で構成される設備(これは僕でも書ける)と労働者1名(人の絵は簡単には描けない)、という内容。このうち人の絵の部分を生成AIで作れるのではないか、と思ったのです。Canvaの『マジック生成』の機能なら、プロンプトを日本語で入力できます。

試行錯誤の過程。

20240530-223234

確かにこのサービスで、自分でちゃんとイラストを書いたりフリー素材を探すよりは楽な作業で所望の画像部品を手に入れるところまではできる、とわかりした。素晴らしい。

ただ事故の全容を再現するまでは行かない、あるいは適切なプロンプトの構成や表現を極める必要がありそうです。これも折りに触れて使えるようにしておいたほうがいいように思えてきたところです。

ところで。

絵心のある人、デザイン能力の高い人からすれば笑ってしまうようなレベルの出力物、に思えるのかもしれませんが…しれませんがね。

厚生労働省作成、死傷病報告の略図、記載例をお見せします。
(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000560235.pdf)

20240601-002721

休業見込み1ヶ月の労働災害の報告書の略図がこれでいい、ということになっているのです(キッパリ)

これは図化が下手な社労士である僕を救うものではあるのですが…思ってしまったのです。

きっと社労士の業務支援ソフトに生成AIを用いた死傷病報告略図作成機能が、向こう数年以内に搭載されて。
こんな悩み自体が一掃されて。
それと同時に社労士業務の価値も落下するんだろうな、と(゚◇゚)ガーン

歓迎か謝絶か自分でもよくわからない回答(もちろん労働紛争労働者側)

零細企業の支配権奪い合いだの怪しいコンサルタントにくっついての山林林業関係業務だのに取り組んではおりますが、少ないながらも労働紛争労働者側からのお問い合わせは入ってきます。先日のお問い合わせは不当解雇に関するもの。

送信内容を一見する限りでは解雇に正当性はない、薬にしたくてもない、そういうものではあります。

ではありますがそういう判断を口にしてはならぬ、というのが弁護士ではない当事務所の法律相談の恐ろしいところであります。理由はかんたんで期間の定めのない労働契約における地位確認請求訴訟は地裁のみが管轄する=簡裁での事案に決してならない以上、必然的に業法3条1項7号にいう法律相談圏外、になるから。

このあたり、業界団体連合会のウェブサイトの労働トラブルCase4は不当解雇の相談のようになっているにもかかわらず上記限界に一言も言及していない、という点に卑怯くささを感じます。

そういう記事にかぎって僕がもってる資格名を明示しない僕も意図的に卑怯な記事をもちろん書いてるわけですよ。どんな法律なんでしょうね業法3条って(笑)

ではこの資格で許された、地方裁判所への提出書類作成およびそれに関する相談ってなんなんだ、というのは方々で言われているとおり、弁護士が可能な選択肢の推奨や請求の当否といった法的判断は…やっていいことにはなっていないわけです。

この制限を僕なりに解釈して、労働紛争労働側からのたとえば不当解雇に関する対応措置の相談の場合は

1.労働者がみずから手続きを選択しており

2.その手続きでする法的主張の骨子をみずから決定できている

ことが審査により確認できた場合には裁判書類作成なり関連相談なりを受託する、ということにしています。

これを不当解雇に関する初動の相談での一般的な回答にすると、以下のようになります。


 

(メールを受信した、という挨拶の直後に)
 さて、せっかくのお尋ねですが本件は解雇の効力(有効か無効か)を争うものになっています。
 この相談で、特に労働審判について法律面での助言ができるのは弁護士だけです。当事務所は弁護士の事務所ではないので、つぎのような質問にお答えできません。
 
・問題の解雇が有効か無効か
・労働審判の申立をしたほうがいいか
・そのほか適切な手続きがあるか。成功の見込み

以上、簡単にいうと今聞きたいことはほぼ全部不可、となるはずです。
これは弁護士法・司法書士法の制限に服しているためですのでご容赦ください。

先にお伝えすると、『あっせん』の申立てはほぼ無駄と考えて差し支えありません。そうした実情があります。

当事務所の相談は、弁護士等への相談でご自身の解雇が無効だと知り(または、自分でそう主張すると決めて)、解決金を得るための手続きとして労働審判手続きを選んだあとの段階で機能します。

言い換えると、選択する裁判手続きと主要な法的主張を自分で決めた人が、その主張を申立書類に反映させる相談は司法書士として行うことができる、ということになります。
この場合は弁護士を代理人にする必要はなく、費用面ではお見込みの中にギリギリ収まる対応が可能かと思われます。

ただし解決金額はお見込みよりずっと低くなります。
法的判断ではなく私の経験としてお伝えすると、在職○ヶ月以内の不当解雇を労働審判手続きにかけて解決金額が月給●ヶ月分を超えた事例は、当事務所にはありません。

不本意とは思いますが上記のことをご承知おきいただければ今後も相談や申立書作成のご依頼を受けることは可能です。よろしくご検討ください。

なお、以後の回答は無料ではできかねますのでご了承ください。


で、表題のような感慨をいだいてしまうわけですよ。返信したメールを読み返すと。

ちなみに今回、上記の返答をお送りしたところ音信不通とあいなりました。

そう、普通はそうなるはずで、上記のような回答文をぶつけられてへこまなかったごく一部の人たちがここに来るのです。それが弁護士ならざる代書人の、裁判書類作成業務およびその相談というものだ、と僕は解釈しているのです(苦笑)

厳しい、かもしれませんが業法と弁護士法の解釈を素直に受け入れると上記のようにならざるをえません。
労働紛争の世界ですと近年は同業者も手を染めるようになった退職代行なんか僕から見たら非弁そのものです。このほか倒産型債務整理や相続紛争に割り込む家族信託なんかもちょっとどうかな、と思えてしまう面は実はあるんですが、弱者救済に邁進している諸先生方に『ところでその破産って方針、誰が決めたんですか?』とか聞いたらたちまち業界外へ放逐されかねませんので…反貧困をかかげる方々は敬して遠ざけるのを基本方針としているところです。労働側で賃金請求訴訟を起こしたら会社の破産までの時間稼ぎ的な移送申立てとか、連合会でご活躍のセンセイがなさったのを見たことあったりしますけど。

反貧困のご活動は尊敬してるということにしておきます。
僕は今後もやらないと言ってしまうのは、事務所にもよるはずですが関与の状況が仕事として綺麗じゃないことを…反対側で見せつけられることがあるから。家族信託も、そうした『制度利用者とその支援をする士業に困らされている人』の情報が入るようになってきつつあります。次のテーマはこれだよな、とあくまでも反対側で予感しているところです。

※逆に、手続きの利用を推奨する側では向こう何年か盛り上がれるんだと思います

債務整理についてはときどき免責に対する異議申立て書類とか作ったりその前提として同業者さんが作った破産申立書類の謄写を拝見していたりしますけど…それはもちろん依頼人がそういう申立てをすると自分で決めたから、ですから。

それ以外のいろんな手続きへの対抗措置についても依頼人が手続きと方針を決めたら地裁家裁への裁判書類作成で受託する、ってだけですから(遠い目)

言い放題な就業規則の納品説明-飲食店編-

今日中に文案を送る、と連絡したメールにこう付け加えました。でも日中はムリです、と(苦笑)

そんな就業規則の案がさきほどようやくできまして、これからささやかな晩ご飯にするところです。見切り品半額の串カツ1本焼き鳥3本が待っています。ビールも冷やしてあります。

我ながら身も蓋もないな、と思ったのが書き終えたメールの説明文です。起案には結構時間がかかっています。

僕の見解を記しただけなので守秘義務には反しないでしょうし、僕がごくまれに発生する使用者側社労士の仕事でどう振る舞っているか覗いてみたい、という方もいらっしゃるかもしれませんのでメールの送信内容の一部を転記します。


こんばんは。長らくお待たせしました。表題の件、添付ファイルを二つ送ります。
 
 一つは本則の案、もう一つは本則から服務規程(第1●条)だけ抜き出して整理した案です。
 
 特徴としては次のようになっています。
・パート(ほか非正規従業員全部)と正社員を合わせたものにしました。
・正社員とパート等は賃金の払い方で分けました。正社員は月給、パートは時給か日給を想定しています。(第●条)
・正社員は原則として無期雇用契約としますが、採用直後は期間の定めを置ける想定です。(第●条3項)
・パートは今後全員、有期雇用にして(第●条3項②)更新のつど賃金を見直します(第5●条の次)。
・休職は特に私傷病について期間を明確化しました。
・服務規程は『バイトテロなど、会社が吹っ飛ぶほどの凶行』『そうでなくてもクビにできる可能性が若干ある非違行為』『一発ではクビにできない不都合』の3グレードに分けています。(以下、第1●条)
 一発解雇が難しいものは丁寧に指導していかないとクビにできないのが裁判実務なので、書面による指導そのものを制度化して条文に入れました。
・上記の凶行は特に入社時に誓約書を書かせて禁止する想定です。ただし禁止事項を10個も20個も並べても覚えられませんから、誓約書に書かせて禁止する行為は数件が限界と考えてください。
・上記2項の関係で、細々とした服務規程はなるべく整理統合しています。飲酒運転や特定の客に無償で料理を出すことは明示的な禁止事項としました。
・顧客情報の漏洩、それと関連するSNSの利用は規定を厚めにしました。(第●0・●3条)
・副業は可としました。当然ながら勤務時間内には不可としています。(第2●条)
 【重要】現在でも注意しなければなりませんが、たとえ無届けの副業でも、労基法上はよその会社で働いた労働時間と御社で働いた労働時間は通算され、1日8時間・週40時間を超えた側に残業代の支払い義務が生じます。
  ですのでそうした副業は明示的に禁止しています…が、こうやって書いておけば(以下一文、省略。ここはさすがに言えません)。
・休日労働の定義の関係で、1日のはじまりを午前0時にしない想定をしています。(第2●_1条)
・残業の可否を承認制にするのは、残業代を払わない理由としては姑息=訴訟になったら負けるので、その代わりに上司が中止を指示できる規定を追加しました(第3●条4項の次)


さすがに条文そのものはお見せできないのですが、ある程度なじんだ(使用者側の)お客さまにはこんな調子で話をしています。厳しいのか優しいのかの判断は読み手の皆さまごとに、異なるかと思いますよ(遠い目)

ここで公開しなかった箇所等にご興味のある使用者側の方の相談は…お受けする場合は1時間税別6千円としています。相談やその後のご依頼を受けるかどうかはお約束できませんが、多少怒ったり厳しい言葉を口にすることはあってもその後すぐに御社の敵に回って労働者側で裁判書類を作ったりすることはありません。お約束できるのはこれだけです。

週末の、就業規則三点盛り

君が行く 道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさん 天の火もがも

(万葉集 狭野弟上娘子

あ、そんなに色気のある話じゃありません。以下は例によって零細な代書人事務所の風景です。

木金土日と4日間、普通のしごとに戻って過ごしています。オトナの事情で突っ込まれてきた27日締め切りの寄稿は今日夕方になって原稿を東京に送り、7月末から8月初めの大きな仕事はあと2つ。

就業規則を作れというのです。

よりにもよって、この僕に(苦笑)

一件はほかの司法書士事務所さんからのご紹介、もう一件はリピーターのお客さま、ということで義理や人情にしたがって受託したものであり、決して積極的に使用者側に魂を売ったわけではありません。あともう一件、やっぱり紹介で転がり込んできた案件で就業規則の検討を余儀なくされたものがありまして、この週末は就業規則を三つ並べて味わうことになりました。

  • 弁護士がコピペで作った就業規則。
  • 社労士が補助金狙いで作った就業規則。
  • 素人が見よう見まねで作った就業規則。

三つまとめてたたんで焼き滅ぼす地獄の業火が僕にも欲しい(笑)初代ドラゴンクエストならば『ギラ』とか言ったでしょうか。

上記の…というより世の多くの中小零細企業の就業規則は概して納得できない、控えめに言ってもいったん焼き滅ぼしたほうがいい仕上がりでして、一言で言うと使用者がおかしくなる可能性を一切想定しておりません。どこかの分断国家の北半分にでも持って行けばよく機能しそうだ、とは思います。そうでなければ綿花やら天然ゴムのプランテーションでだったら、会社が承認しなけりゃ労働者は退職できない、なんて就業規則があってもいいだろう、とは思います。

ちなみにクライアントにも、上記より若干はっきりした表現(御社には奴隷制があるのですか?)で既存の就業規則の瑕疵を指摘しました。

なにしろリピーターさんなので(しかも、いったん僕を裏切って余所の就業規則を採用しちゃった経緯があるようで)多少辛辣なことを申し上げても離れられない程度の絆はできています。

いいですよねぇ、き・ず・な(悪い笑い)

冗談はさておいて、上記の…というより世の多くの就業規則で不満なのは、その事業場に特有の服務規程、あるいはそれにリンクした懲戒規程がないこと。従業員は健康第一明朗闊達に勤務すべし、なんて曖昧模糊たる条項が転がっているだけか、そうでなければやたらに網羅的で、あとから労働者をひっかける(で、労働者側が地裁で無効だと主張すれば会社側代理人ごと吹き飛ばせる)ような規程しかありません。

自転車を運転するときには必ず手信号を現示せよ、バナナはおやつに入らない、なんて規定が60箇条あるとか、そういうの(乾いた笑い)

僕が就業規則を作るに当たっては、その事業場ならではの『労働者に、やってほしくないこと』を周到にリストアップさせてそれを取り込むようにすることと、あとは程度問題として懲戒に至らないが好ましくない労働者を指導するための規程を潜り込ませるように心がけているところです。就業態度に難がある労働者が解雇無効を争う訴訟でしばしば争点になる、『労働者への、会社側からの指導の有無・頻度・具体性』こういったところを記録に残せるようにしよう、と。周知するつもりもない就業規則に無意味な服務規程をあれこれ並べるよりは、指導そのものを制度化したほうがよほどうまく機能するのではないか、と考えているのです。

まぁ逆にいうと、使用者側が駄目な奴で適切に労働者を指導することがないならば、使用者側に不利に作用しますように…という狙いも込めた就業規則でもあるわけですが。

そもそも契約自由、労使対等の大原則のなかで有効に存在しうる就業規則なんてそんなもん、だと思っています。

要は労働者を本当にクビにできる就業規則なんだけどね、と放言したら僕が焼き滅ぼされる側に回りかねませんが、企業秩序の維持をまじめに考えればそのようにも機能する就業規則を作らねばなりません。裁判例からも比較的かんたんに労働者をクビにできる(解雇有効との判断がでやすい)類型はいくつかあって、そうしたものを厳選して服務規程に取り込んだり入社時に誓約書を書かせたりする必要はあると思っています。ともあれ今月いっぱいは、どっぷりと使用者側で過ごすことになりそうです。

ブラック社長 of The Year 甲乙つけがたい候補の件

事務所の東の丘も、最後の秋色といった感じです。

 

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乗り切れるか未定ですが、とにかく冬が始まろうとしています。

さて、今年も印象深いお客さまとどうしようもない社長に会いました。特に社長の方が、事務所創業以来の度外れた奴が出てきています。しかもほぼ同時に。

一件目は規制緩和の副産物というべき社長です。

記録ではこの人が初期に作った会社、発行済株式総数5株資本金5円、とか言ってます。

その後どんどん会社やらNPOやらを作り、ついには同じ名前の法人を複数持って現在に至っています。

すずき産業株式会社(A)は平成28年設立で所在地名古屋市緑区、同(B)は29年設立で名古屋市天白区、といった具合に。カッコ内は社名に含まれません。

この場合、労働契約を含めて対外的には同じ会社名(と、上記いずれの所在地でもないレンタルオフィスの住所)を示して取引に入ればだいたいごまかせる、ということで

設立初期の消費税どうしてるんだろう

あ、これは労働紛争には関係ないですね(遠い目)

労働者を含む債権者側で注意する必要があるのは、これをやられると訴訟で被告にする法人がどれになるかわからなくなる、ということです。法人格は一応、複数存在はしているわけですから。

今回は全容を解明するためだけに、登記情報を11件・TSR-VANの有料情報を3件取得することになりました(涙)

どうやって対処するかはヒミツですが、そういう人もいる、という話です。

二件目には社会保険労務士が関与している、という発言が社長から出ています。真偽は不明です。

こちらは一件目と比べれば不正額は1桁少ないものの、労働訴訟として見た場合にはわかりやすい邪悪さを持っています。ありもしない減給処分を毎月数ヶ月間継続して労働者におこなっていたと主張し、それを理由の一つにして賃金未払いはない、と言ってきました。

この訴訟、勝ったらこっちが作った準備書面を晒してやりたいと思っているところです(怒)

この外道二人には共通点があります。

馬鹿発見器の使用が頻繁で、実際に馬鹿っぽいトピックスを多く挙げています。

  • 意識高い系の人々の集まりで飲み過ぎて二日酔い、とか
  • 会社にゲーム機を備え付けた、とか

そういうのをしきりにつぶやいていらっしゃる。

LINEを含むSNSやグループウェアのサービスを複数使いたがる、という点も共通です。

ひょっとしたら、中小零細企業への就職に際してこの点は労働者側からのシンプルなチェックポイントになるかもしれません。

社長のTwitterが馬鹿っぽい会社は、本当に馬鹿な会社だ、と。

2020.12.20修正

続 真剣かつ合法的に行う労働法律相談のツンデレ化

前回記事の続きの執筆にあたり、用語の意味を再確認します。

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…あれ?普段やってることと一部似ているような気が(汗)

上記引用元のページで確認したプロトコルにしたがって、見出しを設定していきましょう。45歳男性の司法書士が用いるにはかなり痛い表現なんですが、司法書士の法律相談権の辺縁をさまようこの記事にはひょっとしたらよく合っているのかもしれません。

1.べっ、別に地裁の手続きなんか推奨してるワケじゃないんだからねっ!

前回記事では、

  • 期限の定めのない労働契約における解雇が不当であるかどうかを司法書士が法律相談で判断できない→対応する手続きが地裁での地位確認請求になるから
  • 一方で有期雇用契約では一定条件下で法的判断OK→簡裁での賃金請求訴訟になってしまうから

そうしたお話をしました。

だったら簡裁での訴訟を勧める、などと当事務所が言うわけがない、というところから今回の記事が始まります。

理由はシンプルで、過払いバブル突入時あたりから簡裁の質が特に大規模庁で劣化してきていること。これに尽きます。司法委員も裁判官も訴状なんか(時には、答弁書なんか)読まず、ひたすら和解を勧めてくるさまを当事務所では簡裁判事の町内会長化と呼んでいるところです。

これへの対応策として、労働紛争では労働審判手続きの利用が考えられます。

ただ、労働審判が地裁での手続きであるがゆえに司法書士はこの手続きの利用を法律的な判断として推奨することができず(そんな手続きがあるらしい、と言ってみることは情報提供にとどまるから可、ってやつです)、まして労働審判手続を使った場合の勝敗の予測やら目的達成のための主張立証について助言するわけにもいかない、ということになっています。

これをクリアするために当事務所では何をするかというと、まさに情報提供ですが

2.少しは、自分で(以下略)

さすがに上記引用元の表現のまま言い切ったら語弊がありすぎるので相談室ではもう少し優しい表現を用います。

つまり、ご自身でお調べいただける、ということを知っていただきます(遠い目+棒読み)

今回提示した参考文献は以下の三冊です。せっかく来てくださったお客さまですから、その方の住所地の図書館にあった書籍を選んでみました。これを読んでいただきます。

  • 労働審判を使いこなそう!  典型事例から派遣・偽装請負まで
  • すぐに役立つ労働審判のしくみと申立書の書き方ケース別23
  • 労働審判・個別労働紛争解決のことならこの1冊

注意してほしいのですが、一般的な意味でこの三冊がいいというわけでははくて「最寄りの図書館で、しかも貸し出し中でない書籍の中でのベスト」だと考えてください。

対応が思わしくない方には、法的判断を示せるほうの手続きについてだけ思い切り否定的法的見解を出すこともあります。

3.こ、こんな貧弱な書証で簡裁に訴訟なんか起こしたら一瞬で負けちゃうんだからっ!

選択肢として簡裁通常訴訟があり、こちらについては司法書士が法律相談できる範囲におさまってるわけですから、こちらでは主張立証の問題点を指摘して全然かまいません。

…だったら労働審判を選んだらどうなるかはいえません、というところにツンデレのツンたる所以が…というより制度上の大問題があるわけですが。

とりあえずこうして脅かして、いえ警告しておけばたいていのお客さまは労働審判のほうへ流されていきます。進んでか嫌々ながらかはさておいて、自力で情報収集を始めてくださる、と。

そうでなければ当事務所の外に流れていく、ということになります。

4.ろ、労働審判を選んでくれる…の?

お客さまには上記の準備をしていただいて、ようやくツンからデレへ移れる段階です。

具体的には参考文献の読了を待って打ち合わせを設定し、どういった手続きを選んだのかお知らせいただいたうえでそれが労働審判ならば、手続きの特徴等を理解しているかについて簡単な口頭試問を実施します。

そうまでやってようやく労働審判手続申立書の作成を受託しようか、ということなんですが、この段階を端折って労働審判を推奨するためにこのブログを書いている…ということはありません。

今回、お客さまはご自身で適切な選択をされました。何を選んだかはヒミツです。


本日時点で11月21日の出張相談ご希望はありませんので、明日19日からの東京出張は20日までにすると思います。

よほどいい…たとえばお客さまがすでに労働審判の利用と当事務所への書類作成依頼を決めている不当解雇事案とか、まぁそういった相談があれば21日に都内での出張相談を設定するかもしれません。お問い合わせは電話ではなく、当事務所ウェブサイト備え付けの送信フォームをご利用ください。

真剣かつ合法的におこなう労働法律相談のツンデレ化

残業代の計算をしているうちに、晩ご飯の買い物に出る時間になりました。

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請求額は余裕の安全圏=僕(司法書士)が法律相談可能な金額におさまっています。言いたいように言い、やりたいようにやれるということでこれもまた結構なことです。

夜から、そうでない別事案の打ち合わせが入っています。

いえ、じつは『そうである』事案です。請求額140万円に満たない、簡裁通常訴訟の訴状案をお客さまにお送りしました。今日はこちらの話です。

以下、守秘義務に反しないよう一部の事実を改変します。

さて、久しぶりに僕は司法書士として、「こんな解雇は無効だ」という法律的判断をおおっぴらに口にできることになりました。

久しぶり、になってしまうには理由があります。

一般的な正社員の不当解雇事案の場合、それを無効と判断して法的措置をとろうとすると、究極的には地位確認請求訴訟を起こすということになります。

  • 社長はクビだと言ったけど
  • その解雇通告は無効だから
  • (労働契約は終了していないので)
  • 引き続き労働契約は続いているため
  • 労働者にはそうした立場=労働契約上の地位を有していることの確認を、訴訟で求める利益がある
  • それで勝ったら復職できる。なにしろ労働契約は終わってないわけだから。

と考えます。そうやって労働契約が続いている(けど出勤を拒否された)からバックペイ、あるいは続いている労働契約をあらためて合意解除するための解決金を求めて交渉する、というのはこの先のはなしです。

そうすると、地位確認請求ってのは民事訴訟ではおカネに換算できない請求とされている関係上、第一審は常に地方裁判所であって簡易裁判所ではありません。

ですので司法書士が法律相談できる範囲を簡易裁判所での手続きに限定した司法書士法3条1項7号にひっかかり、こうした事案で法律的判断を=司法書士として解雇は無効だと考える、といった判断を示したらアウト、ということになります。

・・・だったら慰謝料だけ100万円請求したい、ということで法律相談を挑まれたらどう受けるか、ですが、これは(単に解雇が不当だというだけでは慰謝料請求が認められない実情に鑑みて)「相談は受けられるだろうが、実務に精通した担当者としては『やめとけ』と回答するのが正解」ということになるでしょう。

上記のようにならない不当解雇事案がたまにあります。

賃金額と経過期間と相談時期が上手い具合になってしまう、有期労働契約で発生します。

説例です。賃金額は月給20万円、始期1月1日、終期10月31日の有期労働契約があるとします。

本件労働契約で不当な解雇の通告が6月末日の勤務終了時になされたとします。

労働者がただちに(たとえば、7月中に)法的措置をとる場合、上記で述べたのとおなじ手続き=地裁での地位確認請求にならざるをえません。まだ契約期間が続いている以上、その後に復職して(所定の期間満了まで)働ける状態を作る、というところまでが裁判手続きで可能な対応だからです。

ですので説例の事実関係下で解雇直後の7月に司法書士のところに法律相談にこられた場合、解雇の有効無効を判断して口にしてはならぬ、ということになります。地裁での手続きについては、法律相談できないわけですから。

では、仮に6月末日に解雇通告された労働者が10月末日までなにもせず過ごし、11月1日に法律相談にきたらどうなるでしょう?

11月1日の時点で本来の雇用契約の終期が過ぎています。この場合は解雇が無効だと、可能な請求は『経過した期間に対応する賃金の支払いを請求する訴訟』になります。

  • 社長は6月末でクビだと言ったけど
  • その解雇通告は無効だから
  • 労働契約は解雇の時点では終了していない、けど
  • 10月末日に期間満了で労働契約が終わったため
  • 労働者には、11月1日の時点では契約上の地位を有していることの確認を求める利益はない
  • 代わりに、7月1日から10月末まで社長のせいで働けなかった事実に基づいて賃金請求ができる

こんなリクツになります。当然、実際やってみて請求を通したこともあります。

説例では賃金額月額20万円、不当解雇により働けなかった期間4ヶ月、ということで請求可能な賃金額は80万円です。

この80万払え、という訴訟の管轄は当然、簡裁でいいので…司法書士が法律相談をしてよく、その相談で一番肝心な部分はもちろん解雇が不当かどうか、ということになります。

これだけでも十分ひどい…上記説例では10月末日を境に相談担当司法書士の対応がツンからデレにいきなり変わる、それが法律だという話なんですが、当事務所ではさらにツンデレなやりとりが続きます。次回の記事で説明します。

訴訟は、みずもの

○裁判所はみずもの

某月某日。

某簡裁の賃金請求訴訟、第一回期日を終えたお客さまが期日後の打ち合わせにやってきました。

…青菜にたっぷりと塩をかけ、さらに20分ほど煮込まれたような状態で。

なんでも裁判官から圧迫面接(正確には、原告不利な和解勧試)を受けたとか。

請求はシンプル、証拠は完備、訴状も当然適切に作られた事案だったのに(汗)

当然ながら、次の準備書面を作ります。

某月某日+α日。

某簡裁の賃金請求訴訟、第一回期日を終えたお客さまから連絡が入りました。

…こちらは予定通りというべきでしょうか、闘志旺盛を通り越して余裕綽々、の領域に入っていそうです。

裁判官は被告の対応に失笑気味だった、という報告が入っているのですが。

こちらの証拠、確かなものはなにもなかったのにもう心配する必要はない、と(笑)

こちらも裁判官の指示は出ています。次の準備書面を作ります。

○お客さまもみずもの

某月某日+β日。というより、今日ですが。

某簡裁の賃金請求訴訟。準備書面作成は着々と進んでいます。次の週ぐらいに完成させればいいですよねー、と悠々書面を作って昨日、第二案をお客さまに送付しました。

一晩おいてお客さまから確認の連絡があったのですが、付記事項があります。

実は締め切りが来週明けだと裁判所から指示を受けていた、と。

…愕然

とりあえず郵送での書類送付をPDFにすれば2日短縮できるからどうにかなる、とは思うのですが。なんとか準備書面は作ります。以下に続きがあります。

○もちろん僕も、みずもの

この事務所の予定はだいたい、向こう1週間ぐらいのものだけが決まっています。今週明けの時点で11月の予定といったら週末の会食が1件のみ、そんな感じ。

で、今週になって電話相談来所相談依頼中の打ち合わせがわらわらと入り、月の後半の出張と打ち合わせも決まり、11月12日に希望日を出していた温泉宿への出張が11月3日に変わったところへ予期せぬ準備書面締め切り日の提示を受けました、と(苦笑)


ほんとうはみんな、こんなことじゃ困るよね、という話ではありますが。

冒頭2件の訴訟には一つ差があります。

お客さまが余裕だらけだったほうは被告の答弁書にミスがあったわりに提出が早く、僕がすでに準備書面を出して反撃を終えておりました。

お客さまがメンタルダウンにおちいったほうは被告の答弁書が直前に提出されており、検討不足な裁判官が社長の口車に乗った、ということらしいのです。

こちらの答弁書もよく読めばミスだらけなんですが、とにかく第一回期日ではそうだった、と。

大規模簡裁ほどこうした当たり外れ・運みたいな要素で対応を変える裁判官が混じっている気がして、労働紛争労働側で少額訴訟を選ぶのに勇気が必要な状況です。

上記3件はいずれも、請求額だけで言えば少額訴訟が選択可能な簡裁通常訴訟なんで、とにかく不利な和解だけは受け入れずに帰ってきてくれればあとは僕が書面でなんとかする(ようにする)わけですが、そうした支援がなければ裁判官の対応に絶望する本人訴訟の当事者の方もいるだろうと思います。

本件はお客さまの許可を得て、もう少し詳しく書くつもりです。

あともう一つ。

当事務所の裁判書類作成業務委託契約には、お客さまが対応を誤ったために当事務所が緊急の作業を行う必要が発生した場合、所定の特急・急行料金(最低3万円)を請求できる規定を設けています。

今回は郵送での出荷をPDFに切り替えればなんとかなるので適用しませんでしたが、まさにこういう事態(裁判所が締め切りを示しており、お客さまがそれを僕に伝えない)に発動可能な条項ではあります。

そのかわり、お客さまにはプリンタのインクをたーくさん消費することになるはずですがそこは我慢してもらうとしましょう。

今回は、そうした書証を準備していたのです。お客さまのために(遠い目)

労働関係訴訟追跡調査実施の可能性を考える(第10次開廷表調査のまえに)

東京大学社会科学研究所は今年、裁判所の協力を得て労働審判制度についての意識調査を実施しています。

8年前にも実施されたこの調査は、労働審判手続の利用者にアンケート用紙を配って回答を募り、8年前の調査では労働者/使用者にインタビュー形式の取材を試みたものでこの結果は単行本として刊行されました。

これとは別に、非売品としてインタビュー部分だけ国会図書館に所蔵されています。

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この調査の大きな特徴として、労働審判手続の解決金額を集計して平均値・中央値の統計をとっていることが挙げられます。事件類型別に細分化されているわけではなく調査の対象が地位確認請求=解雇・雇い止めに偏っている感じはします。

ただ、この調査で出てくる数値は不当解雇事案で素人が書き散らしたウェブサイトのみから情報収集している労働者の妄想を吹き飛ばすに充分な破壊力をもっており、今回の調査にも期待しています。単行本化には2~3年かかるのかもしれませんが。

こうした調査を完全に民間在野の側で実施するのはまずムリです。

理由は簡単で、結果を追跡すべき事件の存在を知ることがムリ、または、それ自体にひどく手間がかかるから。特に労働審判は事件の存在そのものが公開されていません。公開データで事件の存在を知ることができるのは通常訴訟・少額訴訟だけです。

そうした手間をかけて集めたデータが当事務所には、270件ほど蓄積されております。

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さて、今年も開廷表調査の季節になりました。

当事務所では毎年この時期、2週間または4週間の期間を定めて名古屋簡裁・地裁・高裁の開廷表を調査し、労働関係の訴訟を把握しているのです。

…ついでに言うと、ご同業あるいは隣接士業の諸先生方が原告になったり被告になったりした訴訟なんかもときには調査票の余白に書き留めていたりしますが。

そろそろこのデータを使ってなにかの研究を世に問うことができないかな、と思っているのです。今年の業界誌の論文募集には間に合いませんけど(笑)

まず可能なのは把握している訴訟の記録を片っ端から閲覧して、事案ごとに請求額に対する認容額の割合を統計化すること。労働審判での調査は先行研究があるわけですから、むしろ訴訟のほうで取り組んで両者の結果を突き合わせると興味深いかもしれません。

僕の調査で把握された訴訟のなかには順当に中小零細企業の事件も混じっています。

先日のブログで、ある雑誌には東京地裁(主に大企業)の開廷表が連載されていると申しました。そちらで把握できる大企業の労働関係訴訟の記録と比較して、たとえば地位確認請求での解決金の多寡を比べられるのか、こうした調査も可能ではあります。

公開絶対不可と承知していますが、やってみたいのは訴訟代理人に関する黒いリストの作成です。手抜きな準備書面作成や低レベルな和解をした地裁代理人の名簿を作っておいて当事務所相談室内で随時参照するのは悪くありません。

お客さまがおびえるかもしれませんが(遠い目)

…いずれも研究費は数万円で済むはずなんですが、日常業務の片手間にやるには少々荷が重いのです。かかる費用よりは時間に耐えられません。

相続登記のご依頼がもう少し増えたらそんな大規模自由研究もいいね、といい加減な約束を子供にする親のように先延ばしをしてもう何年か経ちました。おそらく今回の調査で保有データが300件を超えるはずです。

第10次=偶数次の調査である今回は、調査期間を4週間取ることにしています。

自信がある(ない)から、完全成功報酬制

閉架式の国会図書館にも数年がかりで慣れてきて、名古屋市の図書館でも資料を『まず検索して、取り寄せてみる』ことを繰り返すようになってきました。オンラインで検索して予約し、最寄りの図書館で借り出し、モノによっては借りた1分後に返す(笑)と。

そんな流れで入手した本が2冊あります。テーマは『代筆』です。


 

上は行政書士さんが書いた本。この方、誰かから誰かに送る『手紙』の代筆を業務とするのだそうです。

参考になることはなかったのですが、自分のサービスを高く売るための文章は書ける著者だ、ということはわかりました。

下は上記の行政書士さんがこれを読んで手紙代筆業務に携わることを決めた、という小説。(両者のレビューを読み比べると、どこか笑えてきますのでお試しください。下の本に触発されて上の本ができてしまったことは、悲劇なのかもしれません)

下の本はあくまで小説ですが、気になるくだりがありました。

売れない小説家でありながら生活のために手紙を代筆する主人公、依頼のなかには成功がおぼつかないものがあります。

そんなとき彼は「自信がないから」成功報酬制を採用するのです。成果が挙がったら報酬を払って欲しい、という条件を設定して受託する、そんな情景が複数出てきます。

行政書士でも司法書士でもないあの士業の残業代請求代理では、これと真逆な発想が一般化しています。『自信があるから』完全成功報酬制をとるのだ、と彼らはこぞって言うのです。

ほかにも相続税還付や商標登録や助成金請求・探偵業なんかで『自信があるから』成功報酬制を取ると豪語するウェブサイトはあれこれ出てきます。

一方で自信がないから成功報酬制を採用すると言うウェブサイトはいまのところ発見できませんでした。

ただ、僕はこの『自信がないから』成功報酬制を採用する、という考え方にシンパシーを感じるのです。当事務所が注力する労働紛争労働側の少額請求、という分野は一年単位で区切って集団でみれば勝ち負けの傾向がほぼ一定ですが、個別の事案では『絶対確実に回収できる』と言えるものはありません。

相手が会社なら破産申立すればよく、個人なら自殺して遺族が全員相続放棄すれば相手は確実にこちらの作戦行動をストップさせられる=ミッションキルを実現できる手段を企業側だけが持っている、労働側からの労働債権回収はそうした戦いですから。

そうしたわけで僕としては『集団としてはだいたい勝てるが個別の案件でみた場合常に自信がない』と考え、だいたいの場合それを口にしてはただでさえ多くない依頼人をさらに減らしているところです(苦笑)

この考え方を採った場合は将来得られる結果はあくまで未定(だって、受託側には自信がないわけですから)と考えて、依頼人とはリスクとリターンをを分け合うのが成功報酬制の本質、ということになります。

では自信があるから完全成功報酬制、という人はどう考えているのでしょう?

保険会社が加害側についている交通事故被害者側での受任のように鉄壁の支払能力をもった存在を相手取るなら、これは単に報酬の後払い、とみていい気がします。回収可能性という点まで含めて、結果はまさに見えきってるわけですから。

残業代請求ではどうでしょう?

回収可能性、という点では相手取る会社が大きいほど上記の(受任者には)理想的な状態に近づきます。

ただ、受任に際しておこなう個別の勝敗予測という点では案件ごとに相当なばらつきがでてきます。この部分でも『自信がある』といい、実際にそうなら依頼人には結構なことなのかもしれません。

…少なくとも、受任してもらえた人には。

逆に自信があるから完全成功報酬制と標榜する場合、勝って回収するまでの自信がない場合は(売り上げが発生しないので)受任しない、ということになるはずです。つまり、勝敗や相手の支払能力は未定だがとにかく仕掛けてみる、という戦術方針は、そうした事務所では受け入れてもらえません。

というより、自信がある=勝敗も回収可能性も見切れると標榜しながら完全成功報酬制を取るということは『稼げない事案は受けない』と言っているのとほぼおなじ、ということになります。

この延長として、勝って回収できる自信があってもその結果として予測可能な(だって、自信があるわけですから!)売り上げが低いことが見えきってる少額事案は当然のように門前払いになるわけで、実は完全成功報酬制で士業の利用の敷居が下がるわけではないように思えます。

正確には『儲かる部分での競争激化と儲からない部分のサービス利用の困難化』が起きるだけ。開業時に地元商店街を壊滅させ廃業後に買い物弱者を作り出す田舎のショッピングモールのようです。

さてそうすると、勝ち負けと回収可能性、すなわち売り上げを自信をもって見切り、儲かる案件だけ受けるのが『自信があるから完全成功報酬制』を標榜する残業代サービスの本質だとすれば、次のことも考えられます。

  • もし受任後に『どうやら負けそう』とわかってしまったものは直ちに手抜きする
  • もう少し回収額を上積みできるにもかかわらずそのために多量な努力を必要とする場合、これをしない

つまるところ、受任前に自信をもって成果を=すなわち売り上げを(←何度でも強調しますが、事務所の売り上げを)見切れる場合、受任後に投じる労力を最少にするインセンティブが働きます。

だって売り上げが自信をもって予測できているわけですから、これから投じる労力や費用を抑えなければ利益が増やせない、ということに当然なります。思えば過払い金返還請求がバブル化していたころから、事務所によってはこんな感じではありましたが。

つまり自信があるから完全成功報酬制を標榜する条件下においては、実は受任側がある程度(または、どこかの局面で)手抜きに転じたり依頼人を裏切ってさっさと和解したりするのが経営上好ましい(笑)ということになってしまうように思えました。

あるいは、そうした手抜きをせずとも利益がでる料率を設定しておく、とか。
つまり『自信があるから報酬は後払いにし、高く取るそれが完全成功報酬制です』と。

冗談のような話ですが、残業代請求で昔の報酬額基準に準拠する事務所と完全成功報酬制を取る事務所の報酬額合計、特に通常訴訟を利用した場合のそれを比べるとこのように言わざるを得ません。

朝三暮四という故事成語を思い起こしますが、それより悪い気がします。

これに対して受託後の結果に自信がないから成功報酬制を取る事業主体だと、見切れた結果=売り上げに対して突っ込む費用を最小化させる、という方針が採りにくいことになります。

なにしろ、何をどうやったら勝てるのかは受託した側にもまだ見えないわけですから、これはある程度努力せざるを得ません。

ただ、これは受託側に相当過酷ではあります。それこそ小説に出てくる、アメリカの大都市の片隅にあるつぶれかけの法律事務所の世界になりかねません。訴訟費用を法律事務所が借金して立て替えてやり、大企業相手に戦い抜いて勝てばレインメーカー、負ければ破産、そうした世界。

完全成功報酬制もここまで過激になればなるほど士業の利用の敷居を下げる(そして、受任側の手抜きを困難にする)とは思いますが、現状ではどこかうさんくさいものとして『自信があるから完全成功報酬制』という事務所を眺めています。

ここまで考えると書いてみたくなりますね。

当事務所では『自信がないから』成功報酬制を導入しました、と。


この三連休は食材の低温蒸しをテストしながら裁判書類を作って過ごしました。月初に受託した1件がほぼ完成、今週から2件目がスタート、といったところです。いずれも労働紛争労働側ですが、一部に成功報酬類似のシステムを導入して依頼費用の上限を設定しています。

…自信?聞かないでください(逆ギレ)

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