不意に覗き込んでしまった所有者不明土地管理命令の闇
今年度は講師の仕事が増えました。三重長崎東京群馬北海道新潟島根、と諸方をめぐって先週の大阪で、今年度実施分はおしまいです。
その準備として、官報を調べておりました。近年の所有者不明土地に関する民法改正は、山林に関する研修でも説明しているのです。
所有者不明土地管理命令は、ある不動産について所有者が誰なのか不明、または所有者がわかっていても住所不定・行方不明・出張大好きな代書人、などの理由で所在不明な土地建物について、利害関係人が地方裁判所に申立てすることにより、管理人が選任される…という制度。選任された管理人はその不動産の管理に関する諸々の契約を締結可能なほか、別に裁判所の許可をえて所有者不明な土地建物を売却してしまう、といった大技を繰り出すことも可能です。
ネットにはこの制度を使って所有者不明な隣地の購入に漕ぎ着けた、という一般の人による本人申立事例が出ており、実は昨年1月頃に出たその事例が所有者不明土地管理命令に関してネットに出た最速の事例ではないかと僕は推測しています…士業の面目、何処にありや?とも思っているのですが。
そんな制度について受講者の興味をひく事例を探しておりました。北海道で研修やったときには旭川地裁○○支部のその年1件だけ受理した事例がちょうどよく見つかったのです。雑種地ばかり数十筆、その土地には全然関係なさげな鉱山会社による申立て事例、があったり…そういうのが他にもないかな、と。
まぁ林業関係の研修なので地目が山林、に限定して官報の公告を探し、いくつか事例の候補を出した、ということにさせてください。
これ以上詳しく言うのもどうかと思えてきます。その理由についても下記をご覧ください。
その申立てで、不明な登記名義人として官報に晒された=公告された人をAさんとします。
今回の研修では、余談として登記簿図書館のサービスも採り上げることにしていました。
一コマの講義時間が長くなってしまったため、講義時間中に入退室自由な余談時間を数分間設定し、その時間はトイレに行くのも自由、講義を聴いていなくても実害がないようにしようと企画していたのです。この余談時間に採り上げたいな、と。
そんな登記簿図書館の最大の特徴は、甲区欄の記載=登記名義人の住所氏名で、該当する不動産登記を検索できること。所在地番でしか検索できない公式なサービスに対する最大の長所、とも言えます。
※研修中の余談では、有名な方の例として鳥取市の石破さん、亡くなられた方でも検索がかかる例として下関市の安倍さん、といった方々のお名前を入れたりもしましたが検索結果に関するコメントは差し控えます
そんな準備作業も進んでいた関係で。ふと思ってしまったのです。
所有者不明土地管理命令の申立て対象になってしまった=不明な所有者であるはずの、公告された登記名義人の名前を登記簿図書館に入れたなら?
ええ、その検索結果が表題の件。まっすぐ闇につながっていたのです。
某地方裁判所に申し立てられた所有者不明土地管理命令の管理人選任公告。
そこに不明な所有者=所有者不明土地の登記名義人として公告されていたAさん。
その名前を、登記簿図書館に入れてみました。
…ヒットが出ました。
軽い気持ちで自腹を切って、当該不動産の登記情報を取得してみます。
所有者がAさん本人である可能性が極めて高い登記情報が取れました。具体的には、過去の所有者としてAさんと同名で住所が異なる人の記載があります。不動産の所在は、管理人選任の公告に出てきたAさんの住所とほぼ同じです。
これで登記に出てくるAさんと公告にでてくるAさんが同姓同名の別人、などと言い張る奴は負け気味な地裁通常訴訟を受任した職業代理人ぐらいなもんだぜ、と言い置いて話しを進めます。
取得した登記情報によれば、Aさんは15年ほど前に死亡しています。そのあと相続登記が入っています。
…相続を原因とする所有権移転登記が入ってる、のです。
相続人である女性の住所氏名をさらに登記簿図書館で検索します。
ヒットが複数出ます。予想も期待もしたとおりに(゜◇゜)ガーン
結論。
所有者不明土地管理命令の申立て対象にされてしまったAさん、本人は死亡していますが相続人にたどり着くことは公開情報から可能です。
負け気味な地裁通常訴訟で世迷い言を言い続けるのが仕事な職業代理人でも住民票戸籍謄本の職務上請求書は使えるはずなので、これを使えばさらに容易にAさんの相続人を特定できるのです。生存している相続人、を。
…なのに今般、所有者不明土地管理命令の申立てがなされました、と(゜◇゜)ガーン
たしかに、国交省なんかが公開している(そして僕の研修では遠慮無くコケにしている)登記上の所有者に関する『公式な調査フロー』に従って調べれば、なるほど不明になるはずなのです。登記情報から判明したAさんの死亡時期からして、Aさんの住民票除票はすでに発行不能です。なにしろAさんがもうこの世にいないので、現地調査をやってもAさんの痕跡はみつからず郵便物も戻ってきますから。そうした経緯を書いて出せば、負け気味な地裁通常訴訟を半年引き延ばす程度の仕事ができる職業代理人なら所有者不明土地管理命令の申立てを裁判所に受理させることができるはず、なのです。
これってたぶん、制度発足数年後に社会問題として発覚する事例を早い時期に見ているのだろう、と思います。
より具体的には、この制度を悪用して本来の権利者を不明な所有者ということにし、その不動産を奪取する(ただし購入代金は供託を要するためタダで奪えるわけでなく、せいぜい強引な売買契約を締結できる=地上げできる、という)ことはやっぱり可能だったんだ、と言わなければなりません。
ツールを揃えれば誰でも検証可能なので、反体制的な報道機関に持ち込むのもよいだろうな、とも思っています。
受講者には守秘義務に関する誓約をしてもらったうえで、実際に登記情報と官報検索結果を見せながら解説できればさぞかし恐い、いえ制度の実情に関して興味深い研修になるだろうな…とは思いました。結局この発想に戻ってきます。
ですが本件、まだ研修で扱う決心はつかずにいます。
最後に補足ですが、いま労働紛争労働側が原告の訴訟を担当して裁判書類の作成にあたっています。
そこに出てくる職業代理人が僕は嫌いです。
聞けばこのご時世で、なんと賃下げを正当化なさっているとのことですが、一方で裁判官は被告代理人のご主張を片っ端から無視しているという報告もお客さまから入っています。もう少し暖かくなったら、久しぶりに傍聴行ってみようかな(苦笑)
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