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他士業法に違反しないようにおこなう相談準備(山林所得編)

25年ほど前。僕はそのころ、本職が毎朝出勤してきても従業員に決してあいさつしない、そんなふざけた土地家屋調査士行政書士事務所におりました。使い捨ての従業員C、といった位置づけの労働者として、日々怪しい実務を遂行していたのです。そんな在職中に先任者から聞いた言葉でなぜか忘れられないのが『所有権保存登記なんかオレでも出来る』というものがあります。

このヒトきっとなにかやらかすな、と思った数年後、ご開業を経てちょっとした行政処分を受けたのが公表されておりました。ただ事務所そのものはご隆盛、ということであるようです。

法律はどこかで破ったほうが儲かる一方、他人に向かってその仕事を腐すようなヒトには相応の展開が待ってることも示された気はするのですが…表題の件。

ふだんは依頼人に厳しい代書人として、特に裁判書類作成の相談では隣接の(正確には、上位互換の)他士業法に違反しないように気をつけているのです。
残念ながら業務遂行中・終了後に依頼人が裏切る展開も昨年あれこれ経験してしまったため、仮に相談中の発言を録音されてそっちの業界団体あるいはこっちの監督官庁に持ち込まれても大丈夫なように…です。

そんな僕が今月直面した課題。今回は法律相談ではなく、税務相談です。

山林所得が発生するらしい依頼人を、税務相談に該当しないようにして税務署の相談に誘導せよ、というものです。

ただし相談先で相談そのものの失敗を招かず適切な回答を得て帰ってこられるように、というところに凄い制限がかかっています。

山林=林地および立木の相続売買贈与あるいは法人への移行、にここ数年わりと積極的に取り組むようになった当事務所にとってにわかに意識せざるを得なくなったのが税理士法による制限です。同法2条1項3号では他人の求めに応じ課税標準の計算に関する事項について相談に応じることは税務相談に含み、税務相談は税理士業務であり、税理士業務は非税理士がやってはいけない、という流れで山林所得の計算そのものも非税理士たる僕がやっちゃダメ、となっています。

ふだん給与計算に従事する社労士さんが年末調整業務=給与所得を確定させる判断をしちゃいけません、というのとまったく同じ理屈で、司法書士は土地や立木を譲渡する契約を扱っても山林所得を計算して確定させるような助言をしてはいけない、ということになっています。

ですが時あたかも確定申告の季節、なのです。
そして今回、お客さまから聞いたところでは普段、確定申告書は自治体の相談会で作ってもらってるのだそうです。
聞けば従前、この相談会における自治体職員様のご対応はわりとぬるめ、いえ納税者に優しい印象がありました。
しかし今回、山林所得は複数の発生源があり自治体の相談会では対応困難…守秘義務を守って一般化すればそういう状況です。

そうだ、税務署、行こう。

お客さまはそういうのです。それは発想として正しいけれど。
あの役所、納税者から得られるおカネの最大化を目指してないか、と思えることが時々あるのです(苦笑)

しょうがないので空欄を意図的に設けた山林所得の収支内訳書を依頼人にファクスします。

さらに解説書も起案します。計算の流れ、と題して。


-計算の流れ-

 山林所得の計算の際には、次の3つの数値を使います。
 今回、間伐・売却した山林は■■様が相続した山林なので、すべて16年以上所有していることになります。
概算経費控除を使うかどうか相談で確認されたら、そのようにお答えください

○森林組合の間伐について
 ○○円…収入金額
 ○○円…伐採費

○立木の売却について
 ●●円…収入金額
  上記の金額は、立木の売買契約書に記載した代金です。
  
○計算の流れについて
 上に挙げた収入金額□件 を合計して
 伐採費 を、いったん差し引いて
  上記の額から、概算経費の額 を計上して
 収入金額合計から、あらためて伐採費と概算経費を差し引いて
  上記の額から特別控除の額を差し引くと山林所得の額になりますが、正確な金額は、税務署の相談で確認をお願いします


本件では15年前の12月末日以降現在まで山林を保有している人が立木譲渡収入を発生させた場合に譲渡収入から譲渡費用を引いた金額の半額を経費として控除してしまうステキな特例=概算経費控除を使わせるのが絶対に重要なのです。

ではありますが当人が主体的に選択しないとそういう特例は用いられないような作りに、計算書がなっています。

しょうがないので意地でもこれを使わせるように誘導する文言は入れますが、概算経費控除が使えると僕からは言わないのです(苦笑)
さらに正確に上記の起案をお読みいただくと、『概算経費控除を使うと答えよ』という助言もしていないのです。
僕は単に、この制度を使える期間、山林を所有していると言うように助言しただけである、と。

で、僕が足し算や引き算や割り算ができるかどうかはさておいて、文末赤字部分はとにかく強調せねばならないのです。

こんな計算オレでも出来る、などといったら負けなゲームをクリアするため、ではありますが…まぁそれもいいか、と思っています。

これについては、ちょっと思うことがあるのです。

上記のような面倒くさい動作を通じて、お客さま方に法律相談やら税務相談に該当する営み(その相談で得られる判断や、その根拠になる法律や制度)に関心を持って貰えるならそれでいいのではないか、と。

…そうでも思わないと上記の資料作成のような無料作業に耐えられない、とも思ってしまうのですが。

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