それは売買なのか?(と思うのは僕だけ?)
最近少しずつ増えてきた妙なサービス。いらない土地を引き取る、というものです。県外の実家とか原野商法の跡地とか、残念ながら山林などが扱い物件の例として挙げられています。
確認したかぎりでは不動産業者さんに加えてなんと税理士さんが運営しているサービスもあり、どうやら司法書士は直接手を染めてはいなさそう。今後もそうかどうかはわかりませんが。
システムはだいたいこんな感じです。
- 現状有姿で土地売買の契約を締結し、登記上の名義は元の持ち主から引受業者に移転する登記を行う
- 移転前後に持参金といいますか、土地を手放したい人から引受業者に金を払わせる
- 引受業者は受け取った金でしばらくのあいだ固定資産税を支払う(らしい)
持参金付きで土地を引き取って貰う、というのがミソです。
たとえばこのサービスの背後にいるのが反社さんなら(という想定も酷いですがそのままお聞きください)
思い通りにできる誰か=飛ばしの携帯や銀行口座を売りたいところまで行ってしまった人を適当に見繕って代表者にして適当な一般社団法人を設立してこの事業を適当かつ大々的に展開して、社団法人が受け取ったお金は適当に没収して代表者には適当に消えて貰う、
そんなことを考えつくのは一瞬だよ、と思えてなりません。
ちなみにウェブサイトを回ったところ、上記の土地処分で元の土地の持ち主が用意すべき持参金は10万から50万くらい、といったところ。年に何件か受託できれば、ダミー法人の一つや二つ作ったって十二分にペイする金額です。
さて、そんなサービスにも司法書士は、関与はしているというのです。もちろん登記で。
土地所有権放棄のサポートを標榜する、あるウェブサイトには『持ち主様には司法書士から送られてくる委任状に署名捺印して返送していただければ登記が終わります。司法書士の費用は通常7万円のところ6万円』などと書いてもあります。
僕なら立会を伴わず売買契約書が用意済みの土地所有権移転登記申請代理の司法書士報酬…土地1筆で税別23000円なんですがそれはさておいて。
やっかみ半分どころか95%以上、ということをご了解いただいて本文を続けます。
今年は、売買による所有権移転登記はまだ1件しか受託しておりません(わらうところ)
登記義務者の本人確認なんかしない、と宣言しているに等しいそのウェブサイト&提携司法書士のやってることを、裁判書類作成業務にどっぷり浸かった司法書士として分析してみたくなったのです。
ただし、やっかみ半分どころか95%以上、というバイアスはかかっています。ご同業の皆さまにはどうぞ笑ってお読みください。
こうした民間による負動産放棄支援サービス(失笑)では、ほとんどの場合土地の元の所有者から土地の引き受け側に金が流れます。通常の売買とは真逆の方向にお金の流れが生ずるのです。
当たり前といえば当たり前ですが、そうでないと引き受け後に発生する不動産取得税・固定資産税負担に耐えられません。
一方で名目上は土地引き受け側から元の所有者にちょっぴり(1円とか1000円とか)お金が渡されて、それをもって両者は土地売買契約を締結した、というのです。
当然、所有権移転登記の登録免許税率も『売買』による税率→贈与よりちょっと安い、評価額の1.5%が適用されます。贈与なら2%。
でも。
月給70万円後半の銀座のホステスさんから月給10万円台前半の四日市の大工さんまで多種多様な人の業務委託契約準委任契約請負契約等々を裁判所で破壊して(好きで壊したわけじゃないですが…解雇予告手当や残業代が欲しかったんですわ)労働者性を認めさせてきた僕としては、本件もあくまで契約とその履行の全体を見たいのです。
本件、負動産放棄支援サービスの提供業者(甲)が元の土地所有者(乙)と交わす契約は二つあるはずなのです。
- 一つは売買。甲→乙に、たとえば100円の売買代金が渡されます。それと引き換えにほぼ無価値な土地所有権が乙→甲に移転します。
- もう一つは、別の何かの契約。乙→甲に、たとえば20万円のお金が渡されます。名目は調査料でもなんでもかまいませんが。売買代金とはされません。
さて。そうすると。本件において財産の流れは
- 甲→乙 現金100円
- 甲←乙 無価値な土地
- 甲←乙 現金20万円
となるわけです。すべての契約を俯瞰すればそうなり、これらのどれが欠けても甲と乙は決して契約関係に入らない、のです。
そろそろ民法の条文を引っ張り出してきます。当ブログでは久しぶりな気もしますが。
同法555条では売買契約とは、本件に照らせば
- 乙が甲に土地の財産権を移転し、
- 甲がこれに代金を支払う契約、
ということになります。
でも、上記で三つ並べた矢印を整理すると、結局
- 甲←乙 無価値な土地
- 甲←乙 現金19万9900円
となって…つまり、乙が甲に19万9900円の対償を支払って無価値な土地の引き受けを依頼する契約となって、甲乙間の契約は売買契約にはなりえない、と思えるのです。
強いて言えばこの契約、売買でないなら負担付き贈与、でしょうか。
甲は理由がなんであれ引き取った土地を乙に返還しない義務を負い、その代わりに土地とお金を無償で貰っている、と。
完全に塩漬けになる土地ならこの負担付贈与で、転売可能ならば…脱法的信託あるいは委任、でしょうかね。甲は乙に代わって買主を探し、さっさと売り払え、という趣旨の契約で、土地は先に所有権移転してしまい報酬19万9900円も乙が甲に先払いした、そうとも言えます。
いずれにせよ甲と乙の契約の実質は売買ではないのです。絶対に。
そうすると、こうしたサービスに関わって登記原因を売買として所有権移転の登記をするのは司法書士としては危険、とも思えてきます。
少なくとも労働紛争労働者側で働いてはいけないな、経営側でもダメだ、とも。
まぁ、もうひとひねりすれば。
ダミーの法人を二つ作り、一つの法人は現金を調査料なり相談料なりの名目で受け取って、もう一つの法人では土地を引き取って、と言う形にして、さらに双方の法人で代表者を全くの他人にしてしまえば…当分はバレないだろうな、とも思えます。
反社さんならこのくらい、楽にクリアできるだろうな、とも。
一般人の方々には、こうしたサービスに安易に関わってはいけません、という趣旨でこの記事をお読みください。
同業者の皆さまには、当事務所における売買による所有権移転登記受託実績が業界平均の約100分の1とか、そういうやっかみ半分どころか95%以上の思いを込めた記事としてお読みいただければよろしいかと存じます。
最後に一つ悪い冗談を追加するとしたら。
もしこのブログで挙げたような負動産の引き受けサービスをする法人が破産して。
もし破産管財人が僕だったら『これは売買を仮装した不正な契約であり、公序良俗に反して無効だ』とかなんとか言って土地を片っ端から元の持ち主に突っ返し、破産財団を身軽にしちゃうかもしれません。で、同時に発生する持参金の返還義務は当然のように踏み倒す、と。だって破産するわけだから(笑)
悪すぎる冗談はこのくらいにしておきましょう。
冗談かどうかは微妙なんですが、来月は売買の登記の依頼があるらしいのです。今年2件目の。
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