わたしはコレで休眠抵当権抹消登記請求訴訟の提起を余儀なくされました(登記名義人調査のもう一つの方法)
まず同業者さん向けのお笑いネタ。
森林経営管理法なる新たな法律が一昨年施行されました。業界紙にも少しでてきましたね。不明な林地所有者の調査を経て市町村が一方的に経営管理権(立木を勝手に伐採売却したうえ、所有者にはお手盛りな事業費をさっ引いた残金を供託すればそれで済む超絶物騒な権利と法律業界内でなら言えます。意欲と能力のある林業関係者の皆さま向けには本法施行に際して皆さまへの期待はおおきい、などと遠い目をして言わねばならない立場なのですがそれはさておいて)を設定できる凄い規定ができているのですが、この不明な所有者の調査、霞ヶ関から当初出たガイドラインでは登記簿上の所有者の子まで調査すりゃそれでいい、ということになっていました。
何人かの同業者さんが倒れ伏したり痙攣なさっておられるかと思います。凄いでしょう?
ただし批判のやり方を間違えると山林業界の団体や県市町村からのお仕事もらえなくなるかもしれない、ということで僕もそれなりに気をつけています。あくまでもここだけの話しですが、とオンライン受講者がいる講義で言ってみたり。
それと比べれば国交省が出している所有者不明土地調査のガイドラインはまだまし、なんでしょうか。ただ、あれも『まず住民票をとってみましょう』ってのはどうなんだろうと思います。法の下の平等を高級官僚に、私的財産権絶対の原則を振り込め詐欺犯に説かれるぐらいの違和感を感じる(苦笑)
だったら僕がどうしたか、というのが今日の話しです。
ここからは、たまたま僕の本や寄稿を見つけるなどいろいろな経緯で当ブログにたどり着いてしまった林業関係者さん向けになります。
当ブログの読者は、推測ですが労働紛争本人訴訟など個別の問題で検索にヒットした人やご依頼後も楽しんでくださるお客さま→受験生または同業者さん達→鉄道・旅行・戦史・家電品修理改造などの趣味的活動に関心をお持ちの平和な方々→林業関係者さん、の順に少なくなるかと考えております。それぞれの人を個別に狙ってウケを取りに行く場合、他ジャンルの読み手に話しが一切通じない危険性は重々自覚しているのですがこれはやむを得ないと考えてください。
ついでに言うと、林業関係者さんには僕が林業雑誌にしている寄稿とこのブログを比べると言葉遣いや態度が幾分異なるように見える点もやむを得ないと考えてください。あっちの寄稿先団体はご由緒が正しすぎます(笑)
当ブログの一応のコンセプトとして、守秘義務に反しない範囲で事務所内・相談室内での無駄話が聞こえたらこうなのか、というのを感じてもらえたらいいなと考えているところです。それをもって依頼先決定につながる情報提供になれば、とは思っています。このため講演相談契約書作成その他の行政協力をご依頼の際には、雑誌寄稿風と事務所内風のどっちのノリでいてほしいか明示的にご指定いただけると助かります。ちなみに後者を選んだ某自治体の担当者さんとは、上級自治体がばら撒いてる書式をこき下ろしながら酒を飲んだり(費用は一円単位で割り勘にしてます)我々の作業成果を逆に売りつけようかなどという話しをしたりもしていますがこれはあくまでも内々の冗談です。どこの県の話しかはもちろんヒミツです。
さて。新しい読者層の皆さまへのご紹介はこのくらいにして本題に戻ります。
登記簿から読み取れる昔の所有者の住所からいまの所有者あるいは相続人をどう調べるの?という話しでしたね。とにかく住民票とってみろ、というのは『とにかくやってみる』にはいいのですが…戦前から放置されている登記の名義人がこの世にいてくれるかどうかは微妙です。
見つからないことを期待したいという思惑もありそうだ、というのは森林経営管理法ばかりではありません。
新たにご依頼を受ける表題の件、数値を少し改変します。
お客さまが譲り受けた山林に、昭和5年に設定された抵当権設定の登記が残っておりました。債権額400円。
この休眠抵当権…というより、とうに弁済されて法律的には消滅しているはずの抵当権の残骸を消すには大別して二つの方法があります。これ以上の方法を解説するページはむしろウェブサイト作成者が何も考えずに日常使われない方法を羅列している可能性がある、と考えて除権判決やら弁済証書などという言葉は項目ごと見ないふりをしましょう(←というのは同業者向けでなく一般市民向けの説明だ、というのはご同業の皆さまに重ねてお断りしておきます。異なる読者層を意識し続けるのも楽じゃありませんね)。
第一に、『抵当権者が見つからなければ』登記から読み取れる債権額元本と利息や遅延損害金を国に供託してそれで登記を抹消できる、という方法。例外というか特例はこちら。
利息と言っても単利で回るため、年利12%を100年放っておいても上記説例なら元利合計5200円(失笑)これを供託すればよいのです。世の中カネだ、とこの金額なら僕でも言えます。
しかし戦後に設定された抵当権の債権額だと、お金より大事な何かがあるなどと遠い目をして言いたくなってきます。
第二に、抵当権者またはその法定相続人をちゃんと全員調べて、協力を依頼するか訴訟を起こすかする方法。原則はこちら。
工数としては第一の方法のほうが少ないに決まってます。あからさまにそれを目指して行政処分を受けた事例も出ています。つまり不正だ、と。
では第一の方法所定の、抵当権者の所在が不明であること…とはどんな状態を指すのでしょう。調査担当者が力を尽くしても見つからないことをいう、程度の規定しかありません。法務局に出す(つまり、この方法での抵当権抹消登記申請に際して必ず製造取得せねばならない)書類としては、登記簿から読み取れる住所に出した郵便が宛先不明で返送されてきた封筒、だけなのです。調査法や基準は明示されていません。
実は僕がご依頼を受けた案件に関連して、同時期に設定されていた抵当権が上記第一の方法で抹消されたという情報は入っていたのです。
…というより登記事項証明書を見ればわかります。昭和4年に設定された抵当権が平成29年弁済、って理由で抹消されてるんだから。
おそらくその抹消登記を受託した方は、登記簿上の住所に内容証明郵便を送ったり住民票取得を試みて失敗した状態を作ったのでしょう。プロトコルどおりに。
ただ、その地区では昭和50年に国土調査による地番の変更があったのです。
それで昭和4年の住所に内容証明送って届いたら文字通りの奇跡だよ奇跡(冷笑)
で、僕がやった調査。住民票?それが取れたら奇跡だよ奇跡(冷笑)
最初に、除籍の謄本を請求しました。当たり前のように取得できました。
そこからは戸籍の記録を前後にたどって抵当権者の出生から死亡まで請求可能になり、さらに相続人全員が孫の代で生存が確認され、戸籍の付票で現住所もわかりました。
かくして『抵当権者が見つからない』という状態を作り出すことには首尾よく失敗し、表題の結論にたどり着いたのです。制度的には当然でして、そもそも戸籍制度が始まった明治時代には本籍と住所が一致していたわけだから、古い時代の登記記録記載の住所ほど本籍と一致しているのも当然なのです。
ちなみに、別件で手抜きの形跡を見いだした供託による休眠抵当権抹消登記。こちらも手抜きだと裏付ける調査が公開情報から可能でした。
抵当権者の除籍謄本を取れば普通に見つかったはずですが、もちろんこれはできません。ご依頼を受けた案件ではなく、僕個人が興味ある、というだけですので戸籍の記録をとるわけにはいきません。
国土調査を経て地番が変わった場合、法務局に変更前後の地番の対照表が備え付けられており、誰でも見られます。
抵当権者の登記上の住所をこの対照表で探し、変更後の地番で登記事項証明書を取ってみました。
そうしたらちゃんと、相続人さんが相続登記を終えてご健在でした…あはは(乾ききった笑い)
住所調査の手法として赤い字の部分に言及した人や官公庁自治体って林業界でいるのかしら?と思ってしまいますが、言ったらきっと立場が悪くなるとは思います。
所有者を調査する時にはこんなこと知らないふりをし、抵当権者や地上権者を探して登記抹消を求めるときには思い出したらいいのだろう、というのはここだけの話しです。
雑誌のほうでは『どちらも全力で探せるし、探せ』と書くようにしてます…不明所有者の調査は息子の代まで探せば終わりにできる、などと思っていた上級官庁の人のことなど知らないふりをして。
どうやらそのくらいの反抗はあちらの団体でも許されるようで、まずまず愉快に寄稿させてもらっているのです。
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