週末の、就業規則三点盛り
君が行く 道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさん 天の火もがも
(万葉集 狭野弟上娘子)
あ、そんなに色気のある話じゃありません。以下は例によって零細な代書人事務所の風景です。
木金土日と4日間、普通のしごとに戻って過ごしています。オトナの事情で突っ込まれてきた27日締め切りの寄稿は今日夕方になって原稿を東京に送り、7月末から8月初めの大きな仕事はあと2つ。
就業規則を作れというのです。
よりにもよって、この僕に(苦笑)
一件はほかの司法書士事務所さんからのご紹介、もう一件はリピーターのお客さま、ということで義理や人情にしたがって受託したものであり、決して積極的に使用者側に魂を売ったわけではありません。あともう一件、やっぱり紹介で転がり込んできた案件で就業規則の検討を余儀なくされたものがありまして、この週末は就業規則を三つ並べて味わうことになりました。
- 弁護士がコピペで作った就業規則。
- 社労士が補助金狙いで作った就業規則。
- 素人が見よう見まねで作った就業規則。
三つまとめてたたんで焼き滅ぼす地獄の業火が僕にも欲しい(笑)初代ドラゴンクエストならば『ギラ』とか言ったでしょうか。
上記の…というより世の多くの中小零細企業の就業規則は概して納得できない、控えめに言ってもいったん焼き滅ぼしたほうがいい仕上がりでして、一言で言うと使用者がおかしくなる可能性を一切想定しておりません。どこかの分断国家の北半分にでも持って行けばよく機能しそうだ、とは思います。そうでなければ綿花やら天然ゴムのプランテーションでだったら、会社が承認しなけりゃ労働者は退職できない、なんて就業規則があってもいいだろう、とは思います。
ちなみにクライアントにも、上記より若干はっきりした表現(御社には奴隷制があるのですか?)で既存の就業規則の瑕疵を指摘しました。
なにしろリピーターさんなので(しかも、いったん僕を裏切って余所の就業規則を採用しちゃった経緯があるようで)多少辛辣なことを申し上げても離れられない程度の絆はできています。
いいですよねぇ、き・ず・な(悪い笑い)
冗談はさておいて、上記の…というより世の多くの就業規則で不満なのは、その事業場に特有の服務規程、あるいはそれにリンクした懲戒規程がないこと。従業員は健康第一明朗闊達に勤務すべし、なんて曖昧模糊たる条項が転がっているだけか、そうでなければやたらに網羅的で、あとから労働者をひっかける(で、労働者側が地裁で無効だと主張すれば会社側代理人ごと吹き飛ばせる)ような規程しかありません。
自転車を運転するときには必ず手信号を現示せよ、バナナはおやつに入らない、なんて規定が60箇条あるとか、そういうの(乾いた笑い)
僕が就業規則を作るに当たっては、その事業場ならではの『労働者に、やってほしくないこと』を周到にリストアップさせてそれを取り込むようにすることと、あとは程度問題として懲戒に至らないが好ましくない労働者を指導するための規程を潜り込ませるように心がけているところです。就業態度に難がある労働者が解雇無効を争う訴訟でしばしば争点になる、『労働者への、会社側からの指導の有無・頻度・具体性』こういったところを記録に残せるようにしよう、と。周知するつもりもない就業規則に無意味な服務規程をあれこれ並べるよりは、指導そのものを制度化したほうがよほどうまく機能するのではないか、と考えているのです。
まぁ逆にいうと、使用者側が駄目な奴で適切に労働者を指導することがないならば、使用者側に不利に作用しますように…という狙いも込めた就業規則でもあるわけですが。
そもそも契約自由、労使対等の大原則のなかで有効に存在しうる就業規則なんてそんなもん、だと思っています。
要は労働者を本当にクビにできる就業規則なんだけどね、と放言したら僕が焼き滅ぼされる側に回りかねませんが、企業秩序の維持をまじめに考えればそのようにも機能する就業規則を作らねばなりません。裁判例からも比較的かんたんに労働者をクビにできる(解雇有効との判断がでやすい)類型はいくつかあって、そうしたものを厳選して服務規程に取り込んだり入社時に誓約書を書かせたりする必要はあると思っています。ともあれ今月いっぱいは、どっぷりと使用者側で過ごすことになりそうです。
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