空からお金が降ってこないかな、と言い続けた代書人の末路(または、零細事務所のMidas Touch)
当事務所では補助者さまが、常識や良識を担っておられます。鉄壁の真っ当さをもってまもなく在職12年。
おかげで僕は執務中、安心しておかしなことをつぶやいていられます。表題の件。
「空からお金が降ってこないかなー」
時折そうつぶやいてみるのです。主として労働訴訟で裁判書類作成に取り組むうちに時間当たりの売り上げが最低賃金を割り込んでみたり、最近ではドナドナの歌に出てくる荷馬車のような同業者さんが子牛のような僕を連れていった現場で新たな依頼人に売り渡されて、いえ凄くやりがいのある案件を引き継いでみたりしたときに、そんなことをつぶやいているところです。
もう十年以上、そんなことを言ってる気がします。当事務所では定番のやりとりの一つです。
補助者さまの反応はそのときにより、実にさまざまです。列挙します。
- ほかの人のところにも降ってきたら意味がないではないか(経済学的に正しいです)
- そんなこと言って実際に降ってきたら貰わないはずだ(倫理的に正しいです)
- では自分で降らせてみたらどうか(暗いと不平を言うよりも自分で明かりをつけましょう、ってどこの新興宗教でしたっけ)
などなど。
※上記のように書きまして、念のため調べたら上述第三項、カトリックの教会が提供するラジオ番組『心のともしび』に出てくるフレーズでした。道理で受験勉強中によく聞いてたはず
本題に戻ります。
僕としてはここ十年以上、ずっと空からお金が降ってこないかなーなどとつぶやきながら執務を続けてきたのです。
リーマンショックが過ぎ、過払いバブルがはじけ、戦後最長の好景気が僕とは関係ないまま終わって、現在に至るまで。
今回もやりがいのある案件をひっさげて現れ、僕をドナドナの歌に出てくる子牛のような気分にさせてくれた同業者さんが帰り道に荷馬車で、いえ白くて大きなセダンで話してくれたことには、不動産売買の登記が多い事務所の状況はよろしくない、取引がパタッと止まったところもあるようだ、とのこと。
どうせ登記なんか年間100件やらない(やれない)当事務所は、そんなこと全然知らずに低位安定の日々を送っていたのです。
空からお金が降ってこないかなー、などとつぶやきながら。
そんな僕より先に、僕より後で創業したお客さま方の会社が次々に左前になってしまった結果。
当事務所はにわかに使用者側社労士になりまして、雇用調整助成金その他補助金受給の可能性を日々精査して過ごすようになりました。
なにかの冗談としか思えない補助金が転がっているのを厚労省のページに見つけたのは、つい先日のことです。
その補助金は就業規則に、近頃はやりの病気で休暇が取れると記載するだけで助成率4分の3、一企業あたり上限50万円の補助金が下り、合わせてなにがしかの設備購入をするだけで小規模企業の助成率が4分の5になる、というオマケがついています。
企業が施策に投じた費用に助成率を乗じてお金を支給する、という構造自体はよくあるのですが。その費用と要件には厚生労働省名物のバックドアが堂々と開けてあります。
僕がなんだかやればいい、と。
いえ正確には僕=社会保険労務士を企業の外部専門家と定義したうえで、その外部専門家によるコンサルティングに要した費用は助成対象になる取り組みであり助成要件を満たす、というのです。
その社労士が実は先月までほぼ労働者側だったとか、そもそも訴訟が仕事だ、とかそういう実情は一切考慮せず単に社労士であれば専門家とみなす(笑)ということになっています。
こういうのが雇用関係の補助金にはいくつもあります。なんとも素敵なことに司法書士はこうした人事労務コンサルティングに動員できる外部専門家、とはされておりません。
そっちはそっちで法務省から適当に補助金引っ張ってこい、ということかもしれませんが、例の病気で仕事休める、と就業規則に書くのと民事法律扶助で破産同時廃止の申立書類一式作るのと、結果的に士業として国から貰っていいお金がほぼ同じということに衝撃を受けていたりします。
実はカネの配分を巡って法務省は厚労省の足下にも及ばない、という事実を見せつけられた気もしました。
ともあれ、当事務所はこの状況下で僕が触った中小零細企業に数十万円単位のお金を降らせる能力を身につけていた、らしいのです。
しかしこのミダスタッチは、ギリシャ神話の王さまと同じく自分自身を富ませるものではありませんでした。
だったら僕は僕の事務所にどうしたらいいだろう、ということでこうした補助金の支給要領をよく見ますと、決まってこんなことが書いてあります。
自社で可能な取り組みは支給対象としない、と。
つまり、いやしくも外部専門家たる僕は余所の親しい社労士さんを連れてきて当事務所に対するコンサルティングをやってもらって空から降ってくるお金=補助金を貰う資格を満たす、などというふざけた真似はできないのだ、と(がっかり)
冗談はさておいて、当事務所ではひきつづき小規模・零細企業の使用者側への相談支援を一時的に強化しております。
ちょっと就業規則をいじる必要が出た場合には上記のバックドア、いえ補助金を通して僕への依頼費用が75%引、とか何か買いたいものがあったらついでに就業規則いじって全部半額、とかそういった午後8時過ぎのお総菜売り場のような提案が出たりするかもしれません。
ただしたいていの場合、支給までには会社が資金ショートするほどの時間がかかります。即効性がないのはご勘弁ください。
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