パンドラの箱、ちょっと開けてみた(不動産登記編)
前回記事に続きまして、別の抵当権抹消登記の話し。
前回と同様に、ちょっと危ない何かをみた話しでもあろうかと思います。ですので事実と経緯は十分に改変してお伝えします。
休眠抵当権抹消のご依頼を受けています。昭和9年に設定された債権額100円の抵当権の抹消、とかそういうの。
こんなの正攻法での抹消を目指す奴はいない、というのはどこかの役所の何かの別件で『消えればいいんだから消えれば、いいようにしてよね(何かの文房具とかで)♪』とカウンターの向こうで誰かが言うのと同じくらいの真実だと思います。
-上記の記載と前回、いえ当ブログの過去の全記事とは関係ない、ということにさせてください-
ちなみに正攻法での抹消というのは
- 当時の抵当権者を草の根わけても探しだし
- 当然その方は死亡しているのでさらにその相続人たちを探し
- 抵当権者の法定相続人が5人だろうが50人だろうがとにかく全員の同意を取り付け、
- 妨害するなら抵当権抹消登記請求訴訟を起こし、
- 付随して必要があれば相続にともなう抵当権移転の登記を必要なだけやってから
- 抵当権抹消(呆然)
そういう手続きになります。
お金がたくさんあって大規模山林所有者で実はブラック企業、そんな人から発注を受けたプロジェクトでならこの方針もよろしいかと存じます(もちろん皮肉です)
気の利いた制度はあります。この抵当権者(あくまでも、この例では昭和9年当時のひと)の所在が確認できないならば
- 抵当権者の所在が確認できない証拠を用意して
- 当時の債権額と遅延損害金から計算される金額を法務局に供託して
- 抵当権抹消
そういう過程をたどることができます。楽です。
債権額が安いので、遅延損害金をたっぷり(とは言っても法律通りに)加えたって供託額は千円弱。あはは(乾いた笑い)
ただ、絶対条件として抵当権者の所在が不明であることが必要なこの手続き、誘惑や落とし穴はちゃんと用意されています。
- 数年前にこの抵当権者の調査で何やら手抜きをした同業者さんが懲戒された事例があります。
- ですが申請時の添付書類としては、登記上の住所氏名に送りつけた内容証明郵便が戻ってきたのがあればいい、ということになっています。簡単に見えてしまいます。
まぁとにかく抵当権者への連絡調査はちゃんとやんなきゃねー(遠い目)という実情があると考えて、以下をお読みください。
調査結果。
今回の登記上の抵当権者、所在が確認できません(わらうところ 勝ち誇ったように)
見かけ上、当時の番地にはもう違う人が住んでいます。
当然抵当権者さんはもうお亡くなりになってますから、不在籍不在住(登記上の住所に本籍地や住民票を置いて生きている人がいないこと)の証明も取れます。なんなら現地の住所に行ってもいい。そこには他人が住んでおり、大余裕で調査不能の確認ができるでしょう。
ですがここで、ちょっといたずら心を発揮してしまったのです。
その抵当権者、ちょっと珍しい名字です。仮に諸葛亮(仮名:もろくず あきら)さんとしましょうか。
ご依頼を受けるその村は人口が多くないのです。仮に1万人としましょうか。
当事務所では電話番号と住所と氏名のいずれかから電話帳を検索できるソフトを持っています。
おなじソフトで違うバージョンを3種類保有して、だいたい20年前→13年前→6年前をカバーしているところです。検索結果も、電話番号・住所・氏名が表示されます。当然ながら検索を繰り返せば全国のが探せます。
まず13年前ので検索しました。
その村で諸葛さんの登録は5名出てきました。抵当権者本人は出てきませんでした(←ここ強調しておきます。僕を免責するために)うち2名は他の方と住所がダブっています。
実質的には候補が3件になったので、検索で捕捉できた彼らの『住所』の土地の登記情報を取りました。
調査対象地は抵当権者の住所と全然違う地番(←ここ強調しておきます。僕を免責するために)でもありますし興味の関心はブログの記事にできる点にだけありますから、もちろん費用は自腹です。
そうした全然違う土地の登記情報のうち1件で、昭和40年代に変更した前住所地が抵当権者の登記上の住所の番地と1番違いである人が出てきました。
-ここ、登場時のBGMを以下の曲『The Imperial March』としていただきたいです-
さて、見つかったその人の名を諸葛謹(仮名:もろくず きん)とします。ただし、この不動産は10年ほど前に、全く別の名字である孫亮(仮名:まご あきら 前述の諸葛亮さんとは別人)という人に生前贈与していました。
その村の立地として、二つの県=ここでは蜀県と呉県(それぞれ仮名)の境にあり双方交流があります。
ひょっとしたら名字の同じアキラさんとキンさんがある時期隣同士であっても全然不思議ではありませんし、実は呉蜀に分かれていても遠縁の親類あるいはご家族だったという妄想も一応成り立ちます(言い訳として聞き置いてくださいね)。
それともう一つ。6年前の電話帳データで再検索したところ、諸葛謹さんが消えており、違う住所同じ電話番号(電話番号でも検索できますのでこれがわかります)の諸葛花子という女性の登録が出てきました。
諸葛家において、おそらくは家長の死亡+転居があった、ということなのでしょう。
死亡と転居は最低でも6年前、ということでふつうに役所に調査に行けば住民票も取れず、やっぱり余裕で調査不能を宣言できるのです。
でも。当事務所には…こんなチープな特殊装備とその運用ノウハウ、それに余計な好奇心があったりするのです。
あとは、僕が一縷の望みをかけて電話帳データで探索した諸葛花子さん宅を訪問し、『ひょっとして諸葛亮さんって人を知りませんか?90年前まではご存命だったんです』と聞いたらどうなるか…
気にはなるのです。制度上は誰もそこまで求めていないのですが。
本件で関係者らしい人にたどり着く鍵になったのは『名字』と『電話番号』で検索可能な過去の電話帳データであるわけですが、公式な制度としては誰もそこまで調べろ・調べられるなどとは言ってません。重ねて申し添えます…僕を免責するために(苦笑)
これは過去の抵当権者のみならず、登記上の所有者についても・公示送達など裁判関連の手続きについても同じです。
当ブログに少数現れつつある林業関係者の方に説明を付け加えると、最近ようやく国も本気になったらしい山林の所有者探索で出されてる指針はさらにチャラい(登記上の所有者の子まで調べりゃOK、って一体どれだけ手抜きなんでしょう?所有者不明ってことにされた人の孫から訴えられたら負けるんじゃないかと思います)。
ただし当事務所では、公式に求められているかはさておいて、僕が必要を感じたらこうした調査案件で少しだけパンドラの箱を開け、中に希望が入っていなさそうならそ~っとフタを閉めるようにしております。
もしご興味のある方は、お問い合わせください。もちろん普通の休眠抵当権抹消あるいは過去の登記の抹消のための各手続きに関するご依頼も普通にお受けしております。
ほんとうに普通に受けてるんですから(って強調するほど普通じゃなくなるのは何故なんでしょう)
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