嵐を呼ぶ機材(Leica DISTO X4 + DST 360の導入に関する件)
ここ数年では思い切った費用を投じた。
満を持して実戦デビューさせた。
現場で作業を始めたら、警察を呼ばれた(苦笑)
この記事はそんな測量機材のレビューです。もちろん機材に問題はなく、僕の認識では警察呼んだ人間に問題があると考えております。
機材のレビューのほうも問題は人間=オペレータである僕に精度低下の原因があった(ので、対処できた)、ということになっています。
●購入の動機
依頼人が権原を有していないなど、さまざまな支障があって立ち入れない=巻き尺やプリズムポールを測定対象物に当てて測定する技法が使えない状況下で測量をおこない、裁判所に提出可能な平面図を作成できる測量機材がほしいと常々考えておりました。
測量対象は、市街地または近郊の一筆地(地積はせいぜい一反=1000㎡程度)とその周辺の地物です。
下の画像で、例えば屋根の軒先が隣地に越境しているならそれとほかの構造物との位置関係を正確に捉えられる、そんな機材が欲しかったわけです。
●機種選定
価格に制約されました(わらうところ)
土地家屋調査士さんたちが使うようなノンプリズムのトータルステーションを手に入れようか、とまじめに考えた時期もありましたがそれをやったら百万円単位の出費になりかねません。
そこまでの長距離測距や公共座標での表示を要する場合は機材をレンタルすることにして(ええ、必要があればレンタルして)普段使いできるものを探すうち、ライカが出しているレーザー距離計に高精度な測角をおこなう架台を持たせたものが候補に挙がってきました。
距離計と架台が一体型になったDISTO S910のほかに、今般導入したLeica DISTO X4(ふつうのレーザー距離計)に専用の架台と三脚がセットになったDST 360を組み合わせて運用する手法とがあり、DST 360を持ち歩かなければ完全にふつうのレーザー距離計であるDISTO X4をまず導入することとしました。
お値段。両者とも中古ですので、DISTO X4は国内で3万円台前半で調達できました。
DST 360は国内のオークションやフリマのサイトに出品がなく、eBayを探してイギリスから取り寄せることになり、本体価格5万7千円に送料や税金や代行業者手数料を加えた総合計が8万円に達しました。締めて一式、11万2千円ほど。国内で新品を買うと、もう2~5万円ほどかかりそうです。
ただ、これらの機材にもともと着いてる説明書はどんな国の人でも読める(ピクトグラムで説明されており、各言語の説明書はウェブからダウンロードする)形式なので、よその国から中古の安いのを手に入れたって特に支障なく運用できる気がしております。もう全然問題ありません(遠い目)
●期待する機能
測量業界のひとなら電子平板と呼ぶシステムの導入です。具体的には、現場で測った点を使って現地でスマホやパソコンに直ちに作図させること。座標のデータを事務所に持ち帰って測量計算を好きなだけやれるようにするのも当然です。あとは上の写真のように、2点の距離を別の点から測り、ただちに本体のディスプレイで表示させられること。
このための測量作業を一人で、または測定対象物に触れない・対象地内に立ち入れないでもできることが必須、というわけです。機材を始点とする距離を知るだけならばレーザー距離計があればよいのですが、対象物相互の位置関係を把握して図化したり対象物に触れずに対象物の寸法を測るには高精度な測角機能を持たねばなりません。
ですが今にして思えば、平板は昔ながらの紙と木の板を買ってきて光波アリダードで測距だけ高精度におこなう、というのもよかったかもしれません。渋くて。
●作業結果
…で、実際使えるの?ということなんですが。
メーカーが想定する作業形態で運用した場合、僕が妄想していたよりも精度が低い印象を受けました。メーカーのウェブサイトによればP2P測定時、10mに対する寸法測定誤差10mm、ということだったんですが。
測定したいもの(長さ2~10m程度のいろんな構造物。ブロック塀とか建物とか土留めとか)を対象物に正対して数メートルの距離から測るなら長さの誤差は1~5cmに収まります。測れるところはあとからレーザー距離計だけで直接測定して比べた結果、これは一応採用できる数値です。
問題は条件が悪いときです。50mほど離れたところにある金網のポールで、ポールの両端を結んだ線がほぼ機材に向かっている(機材をA点に設置し、ポールの一端をB点、終端をC点とした場合に、角ABC=170°くらいになってしまう)のを標的にしてBC間の長さを測りました。
この結果と、目標物BCにほぼ正対して6mほどの距離(つまり、道路の反対側で角DBC=80°くらいになるD点)から測った場合の結果を比べたら30cmほどの誤差を出しました。長さ2mのフェンスを測って誤差30cm(愕然)
距離が遠くても精度がよいときもあります。公園に立っているネットを支える金属柱、太さ15cm高さ7mほどで間隔20mのものを約10m離れたところから正対して測った結果が19.955m、20~40m離れて(これも、支柱両端を結んだ線がほぼ機材に向かってくる)測った結果が20.000m、となったものがありました。その差4.5cm。正対して測ったデータのほうは支柱の太さに影響されて距離を短く出してくることを考慮すれば、実質的な誤差はもう少し小さくなるはずです。
この差は何でしょう?とりあえず今回の調査で集めたデータは使えるとして、もうちょっと精度を上げられないのか…考えてみました。
●何が精度を落とすのか?
試行錯誤した結果は省略します。この機材の特徴として、測距はそれこそトータルステーション並みに、測角はディスプレイの表示こそ0.1°=6分刻みですが内部ではもっと高精度に把握しています。
このため、レーザが当たっている箇所が目視できる屋内や屋外でも測定対象物まで5m程度の近距離の場合は何を測っても極めて正確な=それこそ巻き尺当てて測ったのと1cm違わないような数値を出してきます。
問題は最大4倍を標榜する本体内蔵ディスプレイの十字線で照準したとき、でした。これで対象物を正しく捉えていないなら、当然ながら測りたい場所と違うところにレーザが当たってしまい、それに気づかずとんでもないデータを持ち帰れることになるわけです。
あまりひどいと現場で気づきます。辺長10mほどの家の壁を測ったつもりが、長さ40mという結果を出してきたのが一件あります。
記念に持ち帰って航空写真と照合したところ、壁の端っこに当てたつもりのレーザが少々ずれてずっと向こうの余所の家にぶち当たっていた模様です(笑)
問題はここにだけある、ということがわかってきました。
本体内蔵のディスプレイに頼らずにレーザが当たっている場所を正確に把握できれば、測定結果は当然に高精度になるのです。
●光学観測支援と多数回試行
その作業を二人でやっていいなら話は簡単です。補助員を測定箇所近傍に進出させて、レーザ照射箇所を確認させればよい。
※僕はやらないあの美少女ゲーム(艦隊育成ゲームというのが正しいんですか?)に馴染んだ方なら、弾着観測の実施と理解なさるのかもしれませんね。
問題はそれができないときでして、一人で作業するかそもそも測定目標に近づけない現場での作業対策です。
要はレーザが当たってるところが手元から見られりゃいいんだろ、と考えてデジカメを三脚に据えて引っ張り出しました。
デジカメの光学ズームを望遠鏡代わりにすることは、日暮れ前後の数十分なら可能です。特に日没前後の1時間ほどに限っては、デジタルズーム最大にすれば100m離れていてもレーザ照射場所がわかるようになりました。
このシステムを使って夕方、地上7階から直線距離で30mほど離れたところにあるゴミ置き場(下の写真)の寸法を測り、あとで巻き尺により直接確認したところ、両者の差は1cm未満になりました。所要の精度は十分確保できたといってよいです。
上の写真は、これでゴミ捨て場のブロック左端に照準しているところです。レーザの一部は、その背後の塀にあたっています。
こうなると本体内蔵のディスプレイでは、最大の倍率4倍にしてもどこを見ているんだかわかりません。
夕方はなんとかなるとして、問題は日中です。日なただと、機材から5~6m離れたらもうレーザは肉眼で確認不能になります。
日陰の場合は晴天時でも、10m程度離れた場所に当てたレーザのスポットが見えます。試しに階段の踊り場の下を見てみました。
デジカメを使ってデジタルズーム最大にすると、この距離なら太さ2cmの溝の右側と左側を区別して測るくらいのことはできます。
こうした手も使えない日なたであっても、何かの端っこを測るなら、測点を少しずつずらしながら機材との距離の測定を繰り返すことで理想的な結果が得られます。
典型的なのは先ほど挙げたゴミ置き場のようなブロック塀の端でして、測点が少しずれれば機材からの距離の測定結果が一気に増える=ブロックの後ろの、何か違うものにレーザが当たったことがわかります。
対象物の形に応じて多数回、機材との距離を測っていちばんもっともらしい箇所B点を特定し、次の目標箇所C点も同様に機材との距離により測定すべき箇所を特定してからBC間の距離を測る、という手法で上記のゴミ置き場の寸法を地上7階から測ったところ、これまた結果は巻き尺での測定結果と一致してきました。
30m弱離れた間接測定で測った対象物の長さの差は1cm未満です。ようやく優秀、と言える成果をコンスタントに出せるようになってきました。
この手法なら日中も測定可能ですし人の家に勝手にカメラ向けるな警察呼ぶぞ、といった言いがかりにも耐えられるわけですが、一点測るのに正しい箇所の上下左右で7~8回の測定の繰り返しを要することにはなっています。時間は当然かかります。
測点が少なければ、いっそ薄暮攻撃を狙って出動する、ということになるでしょうか。そういえば前回の作業時も、日没前後ににわかに作業がやりやすくなった印象がありました。レーザ照射箇所が全部見えるようになっていたからです。
ためしに86m離れた向かいの工場にレーザを当ててみます。日没直後ですと、肉眼でもレーザ照射箇所は普通に見えます。
さらにデジカメでズームしてやれば、写真のとおりスレートの波板や固定用のフックボルトの位置までわかります。
機材の横に据えたデジカメのほうでそうしたものが見えてしまえば、DST 360の微動機構をつかって正確な照準も測定もできます。レーザスポットは距離に比例して広がってしまいますが、スレートの一山の寸法とほぼ一致しているのはほぼカタログスペックどおりですし、その真ん中で測距・測角されるようですのでそれがわかっていれば問題にはなりません。特にスレートの波板のようなものですと、レーザ照射箇所を左右にずらせば機材からの距離が周期的に変わるのでどこを測っているかよくわかります。
壁に登って現地と照合するわけにはいきませんが、上下左右に隣り合っているフックボルト相互間の寸法を86m離れた当事務所相談室からこの機材で測ってみろと言われたら長さ±3cm以内の精度で測定できるでしょう。
この機材の特徴、というより短所は距離測定可能な範囲の大部分(機材からおおむね10m以遠。DISTO X4では最大150mまで測れるとされていますが、100mを超えると半分以上の対象物で測定不能になってきます)で、実は照準用の本体内蔵ディスプレイの性能が追いついていないことにだけあるのです。
作業時間や天候を選び、補助的に既存のコンパクトデジカメを併用することでその短所はあらかた消してしまえます。
十分明るい市街地ならいっそ夜戦主義、いえ夜間作業もOKでしょうが、いっそう不審さを強めることには注意が必要でしょうね(苦笑)
2020.3.12.加筆
現況測量と実測平面図作成の業務と費用を説明するページを作って公開を開始しました。
2020.11.19修正
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とても分かりやすくて役に立つ記事でした。ありがとうございます。
投稿: おおつか | 2021年6月23日 (水) 18時33分