原告・被告が複数、事件の併合や反訴がある場合の訴訟費用額確定処分
当事務所は平成15年8月1日に創業したため、8月1日から7月31日までを一年の区切りとして認識しています。
そんな第16事業年度で最も楽しかったご依頼の一つが、表題の件。
計算額にしてみれば請求額40万円ほどの訴訟費用額確定処分申立書作成をお受けしたのです。
ちなみに依頼費用、交通費23360円・日当18000円、肝心な訴訟費用額確定処分申立書作成費用、21600円。
単なる訴訟費用額確定処分申立書作成だと思えば高いのかもしれませんが、申し立てしなければ回収できないお金を40万円弱取るために7万円弱突っ込む裁判書類作成プロジェクト、と了解すればこれもあり、だと思うのです。
さすがに訴訟費用額確定処分申立書作成で泊まりの出張をやろうとは思っていなかったのですが…それはそれは楽しい旅であり仕事でしたよ(笑)
本件、当事者が特定されない範囲で公開することが許されていたのでそろそろ記事にします。訴訟費用で悩んでおられない大多数の方には、どうぞ見ないふりをしておいてください。
今回の申し立てで困ったのは、例によってWebにも実務書にもあまり情報がない、ということでした。経緯は
- 甲が原告。Aを被告にして訴訟を提起(第一事件)
- Aが逆ギレ(笑)。甲と乙を被告にして別訴提起(第二事件)
- 第二事件をうけて、裁判所は第一・第二事件の弁論を併合、判決確定。
- 判決。第一事件は甲、完全勝訴。第二事件はA完全敗訴。
- ただし、訴訟費用は第一事件でA全額負担、第二事件では甲が4分の1、残りをAが負担、乙については言及なし
こんな内容でした。
で、お客さまは順当にギブアップなさってWebを探し、順当に僕のブログにたどりつき、僕は判決を読んで目を点にしたものの、よく考えればありがちな展開だということで受託したわけです。
決してその街で旬を迎えつつあった海産物に心惹かれたからではありませんが、一泊余計にしてきたことは確かです。
整理します。訴訟費用額確定処分申立てに関して世に出ている情報の多くは当事者が一対一(原告被告各1名)、事件も1件、せいぜい訴訟費用の負担の割合が変わった場合に多少の説明がある程度です。
本件は
- 二つの事件が途中から併合されており、
- 両事件について当事者の人数が違い、
- 判決で出た訴訟費用負担の割合も違う、
という点にギブアップの原因がありました。僕もいろいろ調べたのですが、これらの各要素についてズバリ説明する書籍はないようです。少なくとも国会図書館にはありません。
訴訟費用額確定処分に関する異議申し立て事件の裁判例を当たっていくと、つぎのように考えればよいことがわかりました。
○大原則
最終的には、とにかく当事者一人一人から他方当事者一人一人について、金額を割り付ける。原告が二人いるから二人合計でいくら、というようには絶対考えない
だったら原告一人が主債務者と連帯債務者各一人に貸金請求訴訟起こしたらどうなるのさ?ということになりそうですが、被告が二人いる以上抵抗の度合いは各人で異なる=原告側で準備書面を積み上げる必要性も各被告で異なる=各被告におっつけることができる訴訟費用も異なる、という扱いを可能にしておかないと、考え方としておかしくなってしまいます。
各被告にいったん割り付けたあと、被告らに厳密に共通する訴訟費用が認識できれば、その部分だけは連帯して支払え、ということにできるのかもしれません。その前に、訴訟費用の負担も連帯して支払えと命じる判決主文が出ている必要がありますが。
○訴訟費用の割り付け方の基準
まず一つの事件で当事者複数(原告が二人以上で被告一人とか、原告二人被告三人など)のとき、各当事者にはどうやって訴訟費用を割り付けるのでしょう?まず原告一人被告複数の場合を考えます。
訴え提起の手数料(訴状に貼った収入印紙代)に関してのみ、各被告への請求額に比例して割り付け、あとの費用は被告の人数分の頭割りになるようです。
典型的なのは過払金返還請求訴訟です。原告1名が何社かの被告を束ねて訴え、請求額もバラバラ、会社の対応もバラバラ、そんな訴訟。
原告丙が3つの会社(被告BCD社)を束ねて提訴し、
- B社は第一回口頭弁論期日で和解(訴訟費用各自負担)
- C社は第二回口頭弁論期日で和解(これも訴訟費用各自負担)
- 関西のD社(本当はA社と言いたいあの会社)だけ判決になだれ込んで
D社に対しては訴訟費用全額を被告負担とする判決が確定した場合を考えます。ここでD社に請求できる訴訟費用は
・印紙代は請求額に比例した分(請求額合計100万円、貼用印紙額1万円で、うち20万円がD社に対する請求なら、2千円)
・そのほかの費用で各被告だけに関する分は、その全額(D社の登記事項証明書代600円は、全額)
・各被告に共通する分は、被告ごとの頭割り。ただし当事者が途中から欠けたり増えたりした場合は反映させる
訴状作成の費用は被告三者でまとめて1件ですが、これは単純に三分の一したものをD社分として請求します。訴状にはB社C社への請求も併せて記載されていますが、両社に対しては訴訟費用各自負担で和解が成立していますからD社には請求できません。
問題になるのは出廷ごとの日当です。これも頭割りになるため、上記の例だと
- 出廷した被告が3名だった第一回口頭弁論期日では、D社に請求できる日当は3分の1
- 第二回口頭弁論期日では、すでにB社が脱落して被告が2名になっているのでD社に請求できる日当は2分の1
- 第三回口頭弁論期日以降、被告はD社だけなので日当は全額をD社に請求可
こんな感じになります。各被告に対するお金の請求額には比例させないことに注意が必要です。出頭日当のほか、交通費・書類作成提出費用はこの考え方で対応できます。
○被告複数の場合・事件複数(反訴および併合)の場合の訴訟費用
別訴が併合されたり反訴が提起されることで、ある訴訟の途中の期日から当事者と事件の数が増えたり減ったりする可能性はありますが、期日ごと・書類ごとに上記と同じように考えればよいことになります。
例は冒頭で挙げたご依頼に戻ります。本件では二つの事件が併合されていて、第一事件では被告1名、第二事件では被告2名となっています。この集団が、ある口頭弁論期日に『二つの事件について、二人でまとめて一通の準備書面』を出したらどう評価するか、ですが、これは
その期日で出廷し準備書面を陳述したのは
- Aと、
- 第一事件の原告である甲1、第二事件の被告である甲2、それと乙
というように考えます。この説明で甲1と甲2は同じ人物ですが、Aに敵対する陣営として甲1+甲2+乙の合計3名を想定して頭割りにするわけです。
このため、書類作成の費用(例:総額1500円)は
第一事件について
第一事件原告の甲1がAに請求できる費用は、3分の1→500円
第二事件について
第二事件被告の甲2がAに請求できる費用は、3分の1→500円 ただし、この部分は訴訟費用の一部が甲2負担なのであとで減算
乙がAに請求できる費用は、3分の1→500円
上記の考え方で、合計3分の3=1500円になる書類作成費用全体を、誰かから誰かへの訴訟費用に割り付けることができた、ということになりました。
準備書面は複数の当事者が主張を記載したものをまとめて一通で出せますが期日での出頭自体は各自がするので、一人1回3950円の日当は
第一事件について
- 甲1がAに請求できる費用は、2分の1→1975円(甲は二つの事件の当事者=甲1甲2を兼ねるから、第一事件と第二事件に割り付けます)
第二事件について
- 甲2がAに請求できる費用は、2分の1→1975円 その後、訴訟費用のうち甲2負担分を判決所定の割合で減算
- 乙がAに請求できる費用は、一回分全額→3950円
このようになりました。
考え方だけ理解できていれば、当事者と事件がどれだけ増えても以上の考え方で対応できるはずです(面倒そうですが)。
実際の申立てで計算書をどう作るか・どうなったかは次の記事に続きます。
ご案内。
当事務所での訴訟費用額確定処分申立書作成は、地方裁判所で判決が確定した場合は税別2万円でお受けしています。
ただ、東京~大阪間ではない裁判所・依頼人に関するものは訴訟記録の精査や依頼人との面談で、そのつど日当と交通費を申し受けます。
このご依頼では目的地が結構遠かったので、3日分の日当として18000円、交通費は夜行高速バス利用を前提に往復2万3千円ほどをお支払いいただきました。
下記のような出張があり、それに合わせて依頼人との面談・訴訟記録の精査ができる場合は交通費や日当は必要ない、ということにしています。
東京出張の日程は8月6日~8日で確定しました。夜間の相談枠はふさがっています。6日午後~8日お昼頃までの都内で出張相談は可能です。
対応可能なご相談はもちろん訴訟費用額確定処分申立書作成(ご同業の皆さまにはここで笑っていただいて差し支えないですが、この相談の真剣なのが来るところが当事務所の特徴です)、あとはこれまで通りに労働紛争労働側、民事家事関係裁判書類作成、山林の相続その他名義変更、といった分野になっております。ご興味のある方はお知らせください。
訴訟費用額確定処分 申立書作成・書式・計算に関する記事
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