真剣かつ合法的におこなう労働法律相談のツンデレ化
残業代の計算をしているうちに、晩ご飯の買い物に出る時間になりました。
請求額は余裕の安全圏=僕(司法書士)が法律相談可能な金額におさまっています。言いたいように言い、やりたいようにやれるということでこれもまた結構なことです。
夜から、そうでない別事案の打ち合わせが入っています。
いえ、じつは『そうである』事案です。請求額140万円に満たない、簡裁通常訴訟の訴状案をお客さまにお送りしました。今日はこちらの話です。
以下、守秘義務に反しないよう一部の事実を改変します。
さて、久しぶりに僕は司法書士として、「こんな解雇は無効だ」という法律的判断をおおっぴらに口にできることになりました。
久しぶり、になってしまうには理由があります。
一般的な正社員の不当解雇事案の場合、それを無効と判断して法的措置をとろうとすると、究極的には地位確認請求訴訟を起こすということになります。
- 社長はクビだと言ったけど
- その解雇通告は無効だから
- (労働契約は終了していないので)
- 引き続き労働契約は続いているため
- 労働者にはそうした立場=労働契約上の地位を有していることの確認を、訴訟で求める利益がある
- それで勝ったら復職できる。なにしろ労働契約は終わってないわけだから。
と考えます。そうやって労働契約が続いている(けど出勤を拒否された)からバックペイ、あるいは続いている労働契約をあらためて合意解除するための解決金を求めて交渉する、というのはこの先のはなしです。
そうすると、地位確認請求ってのは民事訴訟ではおカネに換算できない請求とされている関係上、第一審は常に地方裁判所であって簡易裁判所ではありません。
ですので司法書士が法律相談できる範囲を簡易裁判所での手続きに限定した司法書士法3条1項7号にひっかかり、こうした事案で法律的判断を=司法書士として解雇は無効だと考える、といった判断を示したらアウト、ということになります。
・・・だったら慰謝料だけ100万円請求したい、ということで法律相談を挑まれたらどう受けるか、ですが、これは(単に解雇が不当だというだけでは慰謝料請求が認められない実情に鑑みて)「相談は受けられるだろうが、実務に精通した担当者としては『やめとけ』と回答するのが正解」ということになるでしょう。
上記のようにならない不当解雇事案がたまにあります。
賃金額と経過期間と相談時期が上手い具合になってしまう、有期労働契約で発生します。
説例です。賃金額は月給20万円、始期1月1日、終期10月31日の有期労働契約があるとします。
本件労働契約で不当な解雇の通告が6月末日の勤務終了時になされたとします。
労働者がただちに(たとえば、7月中に)法的措置をとる場合、上記で述べたのとおなじ手続き=地裁での地位確認請求にならざるをえません。まだ契約期間が続いている以上、その後に復職して(所定の期間満了まで)働ける状態を作る、というところまでが裁判手続きで可能な対応だからです。
ですので説例の事実関係下で解雇直後の7月に司法書士のところに法律相談にこられた場合、解雇の有効無効を判断して口にしてはならぬ、ということになります。地裁での手続きについては、法律相談できないわけですから。
では、仮に6月末日に解雇通告された労働者が10月末日までなにもせず過ごし、11月1日に法律相談にきたらどうなるでしょう?
11月1日の時点で本来の雇用契約の終期が過ぎています。この場合は解雇が無効だと、可能な請求は『経過した期間に対応する賃金の支払いを請求する訴訟』になります。
- 社長は6月末でクビだと言ったけど
- その解雇通告は無効だから
- 労働契約は解雇の時点では終了していない、けど
- 10月末日に期間満了で労働契約が終わったため
- 労働者には、11月1日の時点では契約上の地位を有していることの確認を求める利益はない
- 代わりに、7月1日から10月末まで社長のせいで働けなかった事実に基づいて賃金請求ができる
こんなリクツになります。当然、実際やってみて請求を通したこともあります。
説例では賃金額月額20万円、不当解雇により働けなかった期間4ヶ月、ということで請求可能な賃金額は80万円です。
この80万払え、という訴訟の管轄は当然、簡裁でいいので…司法書士が法律相談をしてよく、その相談で一番肝心な部分はもちろん解雇が不当かどうか、ということになります。
これだけでも十分ひどい…上記説例では10月末日を境に相談担当司法書士の対応がツンからデレにいきなり変わる、それが法律だという話なんですが、当事務所ではさらにツンデレなやりとりが続きます。次回の記事で説明します。
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