労働契約の債務不履行解除を研究してみる件
簡裁代理権をとって数年たちましたが…さて。
まさか女性の服のたたみ方で悩むとは思いませんでした。
こんなときに助力がほしい補助者さま(もちろん女性)の出勤日まで待てない作業です。
ごくたまに使う裁判外代理権を、今回は退職時の手続きの監視および実行に使うことにしました。返還すべき貸与品のなかにそうしたものがあり、
…代理権取得どころか事務所始まって以来の作業になった、と(苦笑)
一連の手続きが穏便に進めばそれでよく、そうでなければそれなりに対応する(ええ、それなりに)、そんな作業ですので当然着手金もお値打ちになっております。成功報酬に至っては設定せず、そうであってもかまわないのは別に儲かるご依頼をお受けしたあとだから、という状況です。
請求額の多くないご依頼を他県からどうしても受けたいとき、不動産登記のご依頼と抱き合わせにしてもらえれば交通費の負担なく受託可能にする…そういった仕組みがあってもいいかもしれません。
お話し変わって、表題の件。
ここ一週間で、なぜかおなじ業種で働く人からの労働相談を3件扱うことになりました。
「●●●士って社会の敵なんじゃないですかね。人を数字でしかみないくせに中途半端な法律知識振りかざして、すぐ弁護士だの社労士だのを動員して(労働者に)おかしなことして」と思わず相談室で不穏当なつぶやきを発してみたところです。
そうしたどうしようもない事務所の就業規則の一つが、またどうしようもない退職規定を設けていたのです。
要約。
- 使用者は一方的に労働者を解雇できる。
- 労働者は、使用者の許可がなければ退職できない。
…許可がなければ退職できない。なるほど?
おそらくそこは「風とともに去りぬ」みたいな世界で、きっと補助者さんたちはプランテーションで綿花の収穫とかやってるに違いありません。記帳代行税務申告書類作成補助客先訪問その他の事務作業が主たる業務であるはずはない、と信じています。
そんな現代版奴隷契約(あ、言っちゃった)を体現する就業規則なんですが、これは単に
- 「労働者側は、『合意退職したいならば』使用者の許可を求める必要がある」
- 「労働者側が一方的に雇用契約を解除したい場合の規定は、単に設けられてないだけ。そうした退職を禁止する趣旨ではない」
と解釈してあげれば、この欲望むき出しな就業規則の運用も風と共に去りぬの世界から蟹工船か女工哀史の世界ぐらいまでアップデートされるのかもしれません。文明開化の音がしそうです。
期間の定めのない、あとは奴隷制を容認する規定もない雇用契約下での労働者側からの契約解除は民法627条に規定があります。一般常識レベルでは、2週間前に言えよ、というあれです。
別にこの規定だけが使えるわけではない、という議論が広まらないのはなぜなんでしょう?零細事務所の多くに労働基準法が事実上適用されてない(あ、言っちゃった)ことは常識として、民法の規定を見る限り債務不履行に基づく法定解除権を根拠に雇用契約を解除してもいいはずです。
僕の事務所にくる労働相談で一番ありがちなのは賃金不払いです。これなんかは期間を定めて(約定支払日を過ぎた状態での催告なら、あまり猶予期間を設けずに催告して)支払いがなければ債務不履行解除で辞めちゃってOK、そう考えてもいいのではないか、と思えてなりません(雇用保険の特定受給資格者に該当させるために、あえて2ヶ月待ってみるというのももちろんあり得る選択肢ですが)。
ちょっとひねって、継続的なパワーハラスメントはどうなんでしょう?21世紀の、しかも裁判所に持ち込んだ場合の労働法体系のもとでは安全配慮義務違反、つまり債務不履行がある、という評価にはなってます。そうすると?
ちょっとした問題発言を上司が発するごとに「やめてください」と一応つぶやいて=つまり債務不履行を是正するよう催告して、それでもパワハラが続くなら債務不履行解除を宣言するのはあり得るか、をちょっと検討してみたいと思っているところです。
要するに、職場にあるさまざまな継続的問題を理由にして労働者が即時に職場から遁走しうるか、ということではあるのですが。
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