ウェブサイトのページの一部の無断転載疑いにつき、googleへの著作権侵害の報告が認められた事例
無断転載をはじめとする著作権の侵害については、googleに所定の報告を行うことで権利侵害をおこなった疑いのあるページを検索結果から削除できるといわれています。
当事務所ウェブサイトの記事の一部についても、無断で転載された疑いがあるページを把握しています。先週、著作権侵害の疑いがあるページ2件について著作権侵害による削除の手続き(申立の種類:DMCA)をおこなったところ本日、承認されました。この顛末を記します。
○想定する読者
いろんな思惑があってこの記事、なるべく検索に引っかかりやすいようにタイトルとリードを堅めに書きました。今日の記事で想定する読者さんはかなり少ないと思います。
- 自分の事務所のウェブサイトのコンテンツをがんばって自分で作っており、ある程度売上につながるキーワードで1~5位くらいに出る状態を維持できている士業の方
今日はそんな先生方と、ちょっぴりの希望と結構な課題を共有したい、そう思っています。では、いつも通りの調子でお話しを進めるとしましょう。
○きっかけ
当事務所では創立直後から、今でいうコンテンツマーケティングに似た施策でウェブサイトへのアクセス、ひいては新規のご依頼を集める営業方針をとっていました。労働紛争では、『こちら給料未払い相談室』というコンテンツを10年以上前から持っています。給料未払い発生時に使える法的な手続きを、士業への法律相談から一般先取特権まで一通り解説したコンテンツは、平成23年頃から平成27年頃まで『給料未払い』という検索キーワードで1~3位に安定して表示されていたのです。
呑気な老舗、といった地位が失われたのはまさにコンテンツマーケティングの隆盛が士業の世界にも及んだためです。同時期に発生した過払いバブルの崩壊は、債務整理以外へのさまざまな分野への弁護士・司法書士の進出と、それを支援すると標榜するさまざまなマーケティング手法の氾濫に結びつきました。その余波が労働紛争にも及んだのです。
昨日まで=平成29年7月18日まで、googleで『給料未払い』という検索語で一位にあったのが、株式会社アシロが運営する『厳選 労働問題弁護士ナビ』のなかの1ページ『給料未払いの人必見|自分で未払い分を請求し獲得する方法』(https://roudou-pro.com/columns/1/)です。このページは、僕の記憶では平成28年初頭からトップ10圏内に入り、同年夏以降ほぼ安定して1位にあったはずです。
平成28年が、おそらく士業のWebマーケティングの転換点になると僕は考えています。検索結果をめぐって競合する相手として、『同業者ではない人が作ったコンテンツ』が大量に現れるようになりました。広告収入を得るために運営されるウェブサイトのコンテンツには、その質にしばしば難があります。昨年はDeNAが運営していたWELQ閉鎖で、その一端が明らかになったところです。
とはいえ、元は僕がいた(ええ、負け犬の遠吠えですが)トップの座をさらってくれたサイトはもちろん研究の対象になります。
どこかで読んだような文章を発見するのに、そう時間はかかりませんでした。
問題のページは、タイトルどおり『給料未払いにあった労働者』を想定して手続きの方法を簡単に解説する、そうしたコンセプトを持った全1ページの記事です。当事務所のように、1フォルダに法的手続きごとに複数のページを持たせてindex.htmlにリンクを向け、インデックスページの検索順位を押し上げる、という方法はとっていません。
だからかもしれませんが、個々の手続きごとの説明にはそう多くの文字数が割かれていません。その中の差押・仮差押に関する説明が、当事務所で持っているコンテンツ内の記載に一致していたのです。
無断転載だのなんだの、と逆に言われることも避けねばなりませんのでそちらのウェブサイトのスクリーンショット等は掲載しません。当事務所ウェブサイト(http://www.daishoyasan.jp/lm/p-keep/pkpC-13.html)の原文はつぎのようになっています。
上記の箇所のうち、第1段落の『未払い給料の請求訴訟をゆっくりやっているあいだに~』から徐々に表現が似てきます。
『会社の預金が使い果たされたり、』以降と第2・3・4段落はほぼ一致です。
○どちらが先か。立証できるか
短絡的な人ならパクリだ剽窃だと無断引用だと騒ぎ立てる展開ですが、可能性としては先方が先に公開してこっちがパクった、という可能性も想定せねばなりません。争った場合に耐えられるかどうか、を先に検討する必要があります。
※上記の表現は、株式会社アシロおよびその運営するコンテンツに向けられたものでないことをお断りしておきます。一般的な慌て者の挙動を描写して軽挙妄動しないよう注意喚起したに過ぎません。
さて、今回のDMCA侵害の申立に際しても、事前調査の過程でパクったほうが逆にパクられた方を駆逐したらしい事例、申立が認められなかった事例等を見ることができました。そのくせ申立をした事実は公開されるため、失敗したらとても恥ずかしい(笑)というより、知識や情報で商売する我々は笑ってられない事態に追い込まれかねません。
解決策はあります。
僕のウェブサイトはもう十年以上独自ドメインを維持しているので、『インターネット・アーカイブ』がサイト各ページの記録を持っていてくれます。これはアメリカにある団体が(つまり、日本人が日本国内で争うには中立的にしか存在し得ない団体が)運営していて、世界中のウェブサイトの『過去の、ある時点のページ』を保管して閲覧させてくれる、そうしたサービスです。無料で巨大で安定な『Web魚拓』といえるでしょうか。
ここの記録をたどったところ、やはり僕のページの上記箇所は2013年には存在していたことがわかります。以下のスクリーンショットは、wayback machineで当事務所のページの2013年当時のものを見たところです。
対するに『厳選 労働問題弁護士ナビ』はウェブサイトそのものが2015年頃からwayback machineの記録に残っているに過ぎず、問題のページにも同年の公開と読み取れる日付があるのみでした。僕のページの公開から少なくとも1年半は遅れています。
当然ながら、発足した直後のページは上記のサービスで記録が残されていない可能性、編集直後に記録されない可能性に留意しておく必要は残ります。
そうではあっても『厳選 労働問題弁護士ナビ』側に2014年の記録がない以上、こちらに著作権があることが認められる可能性は高いと考えました。
○引用の疑いあるページの、さらなる引用の疑いあるページの発見
この事態に対処するための有力なツールを手にすることができました。無料です。
『CopyContentDetector』はブラウザから使えるコピーチェックのサービスで、任意の文章を放り込んで検索をかければウェブの世界から疑わしいページを抽出して一致箇所・一致率等を色つきで示してくれる、というものです。以下はそのスクリーンショットです。
これに問題箇所を入れてみたら。
柳の下には、二匹目のドジョウがいたのです!
CopyContentDetectorの指摘によれば、運営者不明の『キャリフィット』というサイト内にある『ブラックの極み!未払い賃金の取り立て方法①』(http://careefit.com/archives/825)にも同様にほぼ一致する段落がある、と。こちらは2016年公開の模様。
○著作権侵害の報告
googleに対する著作権侵害の報告は所定のフォームで行うことができ、記載の方法は『google dmca侵害』『google パクリ 報告』『google 無断 コピー 著作権侵害』等でたくさんの情報を得ることができます。
申し立てた人の名前と申立の概要、引用されたページと無断引用した疑いのあるページのURLが公開されることは士業の人にはあまり脅威にならないと思います。
…だってみなさん、開業されてる以上ご氏名は公示事項ですから。
あと、フォームでの署名はローマ字で行うのがデフォルトのようですので名前で検索をかけられても捕捉される心配はないと思います。漢字とローマ字を自動で結びつけるようなお節介をgoogleが身につければ別ですが…少なくとも現時点では。
この報告を7月14日18時半過ぎに行いました。上記2件のページは同じ文章を同じように掲載しているため、申請1回で2件のURLを記載しています。
7月20日朝、2件とも申請が承認されました。申請から承認までに、特にgoogleから連絡はありませんでした。
○検索結果
『給料未払い』で検索したところ、1位に見慣れた『給料未払いの人必見|』のページは消えておりました。
僕のクレームのせいだ、という趣旨の表示が検索結果下部に追加されています。
僕のDMCAクレームはリンク先で確認できます。
googleにフォームで送信した文章(最大500字の制限があるもの)がそのまま掲載されることがわかりました。彼らのページは『給料未払い 相談』『給料未払い 内容証明』でも検索結果からはじかれているようです。
○つかのまの凱歌/残された課題
さて、おまけで発見されたに等しいキャリフィットは放っておいて検索結果の一位にいた『厳選 労働問題弁護士ナビ』は必ず手を打ってくるはずです。
『給料未払い』というキーワードだけでも、平日はgoogleだけで1日100~70件程度は検索が試みられていますから。その他の検索エンジンからの流入も含めれば、1位だったころのあのページには給料未払い関連のキーワードだけで毎日100件~数十件の流入があったはず。それが止まるのを放置してはいけない、と広告会社なら当然理解しているはずですから。
それは僕が阻止できるものではありません。勝利ではあったが、所詮モグラ叩きゲームの一ラウンドを勝ったに過ぎない、と思っています。
本件一連のできごとから、ウェブサイトを運営する士業に示された課題はいくつかあります。
・第一には、作成するコンテンツの偶然の一致の可能性と、それを排除するツールの存在です。
ある制度(少額訴訟でも任意整理でもいいですが)について実務家がわかりやすい説明を試みた結果、ある文章の一部が既存の誰かのコンテンツと一致する、ということは結構あるようです。
さすがに複数の文章が順番まで一致すると今回のように著作権侵害で検索結果からパージされるわけですが、そこまで行かない軽微な類似の可能性には常にさらされている、と考えなければなりません。
これについては、上述のCopyContentsDetectorを活用して避けることができそうです。
…まぁ、パクリたい側も最低限の体裁を整えるために使うのでしょうが(苦笑)
・第二に、『わかりやすいことを書き、上位にあるコンテンツは、無断引用される可能性を持つ』ということでしょうか。当たり前のことかもしれません。
引用する側の知識や理解力に引っ張られて、引用の疑いがある文章の質が落ちるという経験を、実はしています。そこでは、リライトする彼らがわからない部分がカットされているように思えました。引用できないのが残念です。
給料未払いの問題では法テラスのページには言及がある先取特権の行使について上記の2サイトその他士業でない人が作った労働問題のサイトに説明がないのも、たぶん知識がないため説明不能(または、パクるべき元ネタがないから文章が書けない)なのではないかと考えています。
・第三に、『アクセスを集めるからサイトに広告を出しませんか』というマーケティング手法に乗っかる際の広告出稿先の重要性です。
うっかり広告を出した先が検索結果から吹っ飛ばされるようなところであったら、見る人は広告を出した事務所までマイナス評価をつけるでしょうからね。
…もっとも、そんなうるさい人からのご依頼は辞退したい、とお思いになる方も多そうですが。
最後に、士業にかかわらず自分のブログやウェブサイトに書いた文章を無断で引用された疑いがある、という方には、本件は『ウェブサイトに公開した1ページのごく一部の文章が、他者が運営するウェブサイトの1ページのごく一部の文章に一致した』ということを理由にDMCAクレームが認められた事例として興味深いといえるかもしれません。
今回、引用の疑いがあるとして指摘した文章は僕のウェブサイトのページでは本文約5300文字中の約350文字に過ぎません。引用先は、『厳選 労働問題弁護士ナビ』のほうは本文9千文字程度あり、その中の350文字約3段落が連続一致しただけでDMCA侵害の申立が通ってしまったのです。
もっとも、文章が一致した箇所がある項目の説明(差押や仮差押の説明)のほぼ全部だった、という点は相手に不利な要素に作用するのかもしれません。
今回はからずも、コンテンツマーケティングや個人ブログのマネタイズを巡って思い切り汚い部分を見てしまったわけですが。
真剣さを離れればとってもおかしいよなこの人たち、と思えることもあります。
今回問題になった上記の2つのサイト、揃って少額訴訟と少額訴訟債権執行を混同するような見出しを設けています。
ここから先は僕の推測ですがね。
おそらくキャリフィットは僕のサイトをパクったのではなくて、『厳選 労働問題弁護士ナビ』をパクった可能性が高いと考えています。だから見出しも同じように間違え、無断転載の疑いも同じように放置して両者同時に吹っ飛ばされたんだと思っています。
その意味では『厳選~』側も被害者なのかもしれません。
もちろん同情なんかできず、単におかしいだけですが。
ともあれ、明日は東京出張です。例によって相談料金現物支給の会食が設定されていますので、いつもより多めに飲ませていただくとしましょうか。
つかの間の勝利とはいえ、DMCA侵害の申立がちゃんと機能しているのを見ることができたのはいい経験でした。
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