続 民事法律扶助制度 取り扱います
創業13年にしてようやく、というべきでしょうか。
毎月、誰かしらリピーターのお客さまに会えるようになってきました。ありがたいことです。
が。しかし。
元々は不動産登記のご依頼を経て、今回は法律相談にやってきたそのお客さまから、例によって衝撃的なお言葉を賜ったのです。
(そのお客さまからすれば、当事務所は登記の事務所だと思ってたので)
法律相談なんか申し込んでいいのか疑問だった、と。
2秒ほど相談室のテーブルに突っ伏してから、「もともとこの事務所は(主として労働)紛争の事務所で、登記は(とっても嬉しいんですが)あとからコンテンツを作ってたんです!」
と申し上げたところです。そのあとで、
「労働紛争のお客さまが後になって『先生のところで登記やるなんて思ってなかったから、相続登記はほかの事務所にやっちゃいましたよ♪』とか言われるのもかなり打撃ですが」
と付け加えました。
多くのお客さまにとって、登記から入ってきた人には登記の事務所に、紛争から入ってきた人には紛争の事務所に見えてしまうのかもしれません。
今回のお客さまには粛々と民事法律扶助による法律相談を適用して費用負担なくお帰りいただきましたが、さて。
そういえば、最近あまりこの制度について言及していない感じがします。そんなわけで。
この記事は平成25年9月23日付『民事法律扶助制度 取り扱います』の続きです(苦笑)
○民事法律扶助制度について
・建前
かんたんにいうと、家族構成によって定まる『毎月の収入』と『資産の額』が一定水準を超えない方々のご依頼について、法律相談・裁判所提出書類の作成・裁判外あるいは訴訟代理の費用を出したり立て替えてくれたりする公的な制度です。実施主体は法テラス、日本司法支援センターです。
・本音
- お客さまのなかにはこの制度、冴えない実務家のための制度という人もおります。
- 一方で、扶助の利用者の資質や態度について疑念を呈する実務家もいます。
僕がどちらに与しているかは恐くて口にできません(遠い目)
また、面接による無料相談を標榜している一部の事務所では、制度の詳細を説明せずに法律扶助による無料相談の申込書を書かせて=相談を申し込んだ人が使える無料法律相談の回数を1回消費して他へたらい回しする、という事務所さんもあったりします。
○代理援助について
・建前
弁護士や司法書士による、裁判外での交渉の代理・訴訟代理の費用を立て替える制度なのですが、僕のところではいまだに利用実績がありません。
・本音
冷静に見積もると、扶助のコスト水準のほうが高い(笑)という身もふたもない構造的問題を解決できていないためです。
以前一度だけ、共同不法行為の被告になった2名の1人が法律扶助による訴訟代理、もう1人が当事務所で裁判書類作成(法律扶助適用せず)という事案を受け持ったことがありますが、「本人訴訟」を視野に入れてしまうとさらにコストの差が開く、ということで当事務所に来られるお客さまにはおすすめできない、ということになっています。
○書類作成援助について
・建前
こちらは訴訟代理ではなく、訴状や破産・調停の申立書など「裁判所に提出する書類」の費用を立て替える制度です。
ご熱心な同業者さんたちは破産の申立書類作成でこれを使っておられると聞き及びます。
・本音
僕のところではいまだに利用実績が無いのとその理由は代理援助と同じです。
債務整理にあんまり関わってないからだ、という理由も付け加えます(苦笑)
労働審判手続申立書など労働紛争では使ってみたい気がするこの制度、成果にかかわらず定額の費用が発生ししてしまうところにも(僕やお客さまからみれば)致命的な欠点があります。
○相談援助について
・建前
いわゆる「無料法律相談」を実現してしまう制度です。利用者は相談料金を払わずに済み、相談担当者には法テラスから所定の料金が支給されます。申込みは各相談担当者の事務所でただちにすることができ、収入や資産は自己申告で足り、さらに資産については、預貯金のみを判定の対象にします。
・本音
理想的に機能するなら、いい制度です。予算が払底するようなことがなければ(遠い目)
そんなわけで、僕の事務所ではもっぱらこれをつかって来所のお客さまに法律相談をおこなっています。
ちょっと恐いのは、利用者に費用負担が発生しないので生活保護利用者と医療扶助に似た関係がその気になればできること、でしょうか。そのうち貧困ビジネスと結託して何らか処分される人が出てくるだろうな、と思っています。
あとは、同じ紛争について最大3回まで、という制限について説明を受けていないお客さまがときどき(年に一人か二人)来られるため、他事務所での利用歴がすでにありそうな方はちょっと気をつけるようにしています。
なぜか利用歴について正確な説明をされない方がいるのです。
理由はわからない、ということにしておきますが、最初に「法律扶助なんか使ったことない」と言いながら相談が進むにつれて「別の事務所で(無料で聴いたときに)言われたのは…」などという発言が後から出てくるのは、決して愉快ではありません。
そんなわけで、法律扶助による相談を使い慣れていそうな方には引き気味に接する、制度を知らなかった方には説明して制度を適用する、というのが当事務所の基本的な立場です。本音をいうと。
○当事務所で相談援助を適用する法律相談について
・対応可能分野
あの…労働紛争に限りませんから。
というと労働紛争から入ってきた人は妙な顔をされます(笑)
借金・家賃・請負代金・交通事故など金銭上の請求をした側・された側の相談はふつうにお請けしています。請求額が140万円以下であること・簡裁以外の裁判所に手続きが係属していないことだけが守らなければならない要件なので、登記や労働紛争と関係なくても全然かまいません。請求を受けた側でも大丈夫です。
あとは、「この事務所に来られること」が月収や資産と並ぶ重要な要件です。出張・訪問での相談は別に許可を要することになっており、これを試みたことはありません。
そのかわり、事務所にさえ来てもらえるなら他県の方にも制度を適用できたことがあります。
要件を満たしているようにみえて適用されず、請求を蹴られた事例が1件あります。
これは労災保険の適用に関するもので、国が扱う制度に関する相談である以上民事上の(つまり、民間人対民間人の)相談ではない、というのが法テラスから示された理由でした。
僕のリクツでは、労災保険法自体が労基法に定めた、「使用者=民間人による労災補償の義務」を代替するために設けられているのだから労災に関する紛争はそもそも民事上の紛争だろ、と考えたのですがそうはならなかったのです。
…相談の調書に「労災保険法」という文字を使わず、「労働基準法第○条による使用者への請求」として法テラスに提出したらどうなるか、見てみたい誘惑もありますが。
・相談時間
当事務所の有料相談では基本を2時間としていますが、民事法律扶助による法律相談は弁護士並みの時間と費用=30分5400円を一つの目安としています。
これは建前です。
僕の仕事は遅いので(笑)
もう少し時間は延びます。2時間にはならない、とだけ言わせてください。
・相談回数
当事務所を含め、同じ紛争では、最大3回という縛りがあります。
ですので当事務所が最初の1回だった方には、次の相談を弁護士のところで受けてみて、そこが嫌だったら3回目でここに戻ってくるのはどうか、という提案をしています。
すでに馴染んだお客さまの場合は必要に応じて相談を連打します。継続的な交渉や簡裁通常訴訟で相手から対応があるごとに相談を入れる、その相談だけで解決してしまう、とか。
・簡易援助
なんでも最後に援助、とつける理由は不明なんですが、「相談中に、本人名義で作れる、かんたんな書類」の作成もできます。簡易援助、といいます。
僕が名前を出していいわけではありませんし、提出を代行することもありませんので内容証明郵便などはちょっと面倒(お客さまが自分で集配局に行く必要がある)なのですが、年に1度くらい利用しています。相手の請求に対する簡単な回答でもいいですし、労基署が書いて出してみろと言った未払い賃金の催告、その他の交渉の申し入れ、などでもいいでしょう。
業界紙には先頃、支払督促に対する異議申立書作成にこの簡易援助を使ったという記事がでてきました。
強烈にかんたんな裁判書類作成だったら簡易援助で行ける、ということでしょうか。たとえば「時効の主張だけする答弁書」とか。ちょっとやってみたい気はします。
これを作成すると、お客さまには2160円の費用負担が発生します。相談そのものは無料です。
○最後に
扶助の適用対象になるかどうかは法テラスのサイトでチェックできますので、何か法律上、気になることがありましたら
- 上記のリンク先で見られる収入等の水準に当てはまっていて
- 金額140万円以下の、行政を除く法人や個人との争いで
- 地裁・家裁・高裁に係属している手続きじゃなくて
- 当事務所に来れるなら
とりあえず、ここで相談受けてみる、というのが僕には理想的なご対応、ということになります。
繰り返しますが、この事務所の業務は労働紛争だけでも不動産登記だけでもありません。さすがにファイナンシャルプランニングの相談でこの制度を使うわけにはいきませんが。
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