特定受給資格者へのグラデーション
昨日・今日、名古屋はいいお天気になりました。法務局に登記済の書類を取りに行き、県立図書館に本を返す途中で裁判所に立ち寄ってみます。
司法書士が個人を訴えてる報酬請求事件の口頭弁論期日が、簡裁で設定されています。
傍聴してみたくなりましたが見ないふりをするべきだとは思います。
でもその事務所、大阪にあってヤミ金対応に注力しておられる…ずいぶん強気な写真が印象的なウェブサイトをお持ちのあの事務所さんです。ウェブ担を兼任する僕としては作りたくない傾向のサイトを持っておられるその先生、戦う対象が県外の、しかも元顧客に向いちゃった経緯にはちょっと興味がありますね(苦笑)
報酬なら持参債務になるはずだから、事務所最寄りの簡裁に引っ張り寄せて提訴することは当然できたはずなのにそれをしない理由に、特に関心があります。
あえてこれをやる場合もあります。元依頼人がなんらかのタイミングで転居し、これを理由に報酬の請求を免れられると誤信しているような場合に
- 転居してもちゃんと住所調べられるし、提訴して訴訟を維持できるから
ということをわかりやすく示すために原則通り、被告の住所地に提訴するのは悪くありません。依頼受託の際に契約書をちゃんと作っていれば、その契約書で(債権保全のため)元依頼人の住民票を取ることはふつうにできます。
裏技というほどのこともないのですが、相手が住民票記載の住所地に住んでいないが別のどこかへ郵便物の転送はかかってるみたいだ、ということもあります。
この場合、何らか特別送達がかかる法的手続きをとったあと、その送達記録を自分で閲覧すれば相手の居所(正確には、そいつが届け出た郵便物転送先)は分かります。●●士照会なんかしなくたって(笑)
前置きが長すぎました(こちらのほうが参考になる、という方もいらっしゃるかもしれませんが)。
今日は本来の目的と異なる使い方ができる手続きとしての、労働審判の話をするつもりだったのです。
先日のお客さまからの報告。特定受給資格者になることができた、とのことです。
つまり、ふつうに退職届を出して自己都合で退職しながら給付制限がかからず、解雇とおなじ給付日数の雇用保険失業給付を受けられる立場になられた、と。まぁ、おめでとうというべきです。
特定受給資格者になることができた理由はよくある長時間労働です。一般的には退職前の3ヶ月間、45時間の時間外労働が発生していることが特定受給資格者に該当する理由の一つとされています。
さらに通達では賃金計算期間で上記の月を区切ること、有給休暇を取ったなどで必然的に残業が無い期間を持つ場合はこの期間を評価から外すことなどが定められています。
あと、時間外労働は法定時間外労働のことだ、とも。
今回、お客さまにとって最大の問題は、契約所定の時間外だが1日8時間に満たない労働時間=法内残業を含めて月45時間の時間外労働時間を確保しているが、法定時間外労働だけでは月45時間に満たない月が3ヶ月中、1ヶ月あることでした。
これについて、まず残業代そのものは労働審判手続申立で支払を求めます。
平行して職安には、念のために離職理由に異議を出しておいてもらいます。当初は退職理由が自己都合であったが、実際には時間外労働過多が理由である、と。
どこかの地裁の労働審判(ええ、どことはいいません/たとえば東京地裁も一期日で終わるのが好きそうですし、大阪はもうちょっと柔軟ですが一期日で終わる可能性を常に探ってます)が決まって一期日で終わりたがる実情は、今回はプラスに作用します。
職安での離職理由を巡る判断が保留(頓挫とか対処不能などという言葉を用いるべきではないでしょう。それを見込んで行動してますから)されているあいだに、先に労働審判での結論が何か出る、というより出せるためです。
今回は労働審判で、会社は時間外労働時間数のだいたいを認めて労働者は金額面では譲歩、それと会社側が職安に対して、離職理由については労働審判手続申立書添付の時間外労働時間の計算表(って、僕が作ったやつ)を提出して特定受給資格者に該当するか否かの判断を職安にゆだねる、という合意(調停)が成立しました。
こうした合意を成立させるべき法的根拠はありません。言ってしまえば、その場のノリと勢い、言ったもん勝ちの世界です。
ですが上記の通り、離職理由変更をめぐって会社側に雇用保険手続きに協力させる合意が…成り立ちました。
その後。
職安でもなにか不思議なことがあったようで、あえて内容をぼかしますがこの方は特定受給資格者にしてしまう、という判断がでたのだそうです。
これは毎回狙って実現できるわけではありません。もちろん、法定時間外労働時間が本当に45時間超過しており、これが連続3ヶ月揃っていれば使用者側が何を言っても労働審判を経て確実に特定受給資格者の立場にたどり着けます。
今回は『法定時間外労働が45時間に達しない月がある』場合でも大丈夫だった、というところが特殊です。
このほか、雇用保険被保険者の資格の得喪や離職理由を巡る紛争と労働審判とは結構相性がいい、そんな印象を持っています。
くだらない理由でできもしない懲戒解雇をしたと言い張る馬鹿な社長を蹴散らすだけならまさに一回の期日でなんとかなり、そうしたくだらない理由が見えているなら(お客さまにその旨告げるかどうかはさておいて)解雇無効の判断が出ることに、なんの心配もいりません。司法書士としては内心で解雇の成否を見切って粛々と書類作成を受託すればよいだけのことです。
会社によってはたまにごまかす退職日(過早に離職したことにし、主に社会保険料支払義務を免れる)を、勤務記録などから正しい退職日に数日だけずらすことも労働審判で可能です。どうしても健保の任意継続被保険者になりたいとか、ぎりぎりで雇用保険被保険者期間を満たさない可能性がある人をなんとかするのにも労働審判が使えます。
こうした情報を整理してコンテンツにしたいなぁ、と思っているのですが時間がない、というのは僕が無能な証拠です。
いっそ事業者向けのコンサルティングフィーをふんだくれないかなぁ、50万も取れれば一ヶ月執筆に専念できるのに(笑)、などと思いつつ、今日もやってきた古い悪い友人からの相談メールを眺めています。
※つぎの東京出張は6月22・23日です。22日の出張相談枠はふさがりました。23日は午後に一件、国会図書館で対応可能です。
当事務所では労働紛争・裁判書類作成・労働保険および社会保険・失敗しそうなマンション投資とその手じまい方等のご相談を、司法書士・社労士・ファイナンシャルプランナーとして…お待ちしております。初回の出張相談は事業者側であっても2時間税込み5400円です。
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