関係ない・とは思わない・かもしれない
お客さまが持っている情報を適切に聞き出す。書類に反映させる。
開業13年目の現在にしてなお、けっこう難しい営みです。今日はそうしたお話しです。
1.「関係ない」とは思いませんが
先日のこと。労働紛争で裁判書類を作成していたお客さまからの要請を受けて、電話相談を設定します。解決後の対応をめぐって、また相手がおかしなことを言ってきたとか。
こちらとしてはその主張の当否を検討し、根拠がないならそれを指摘して改善を要請したり…あるいはだまって放置しておき、適当なタイミングで銀行預金に差し押さえをかけるなりする必要があります。そんな状況なのですが。
「それは関係ないんじゃないですか」
僕からの質問に対する、お客さまの発言です。即決で否定します。
「(相手の主張と資料に)関係があるかないかを探るために今この相談をしているんですよ。なのに検討前に関係がないと決めつけてしまったら、そう決めつけてしまった資料や情報が僕に伝わらなくなってしまいます…それって損だと思いません?」
ひょっとしたら太字部分で、お客さまを脅かしていたかもしれません(遠い目)
このお客さまはわりと丁寧に資料をくださる優秀な方なのですが、裁判に関する相談で恐いのはこの手の予断です。あなたが無関係と決めつけて切った情報のなかに、実は重要なものがあるかもしれません。
せっかく頼んだ弁護士に十分な情報を伝えずに負ける、という経験を何度か積むと、こういうことは身にしみてわかるかと思っています。
紛争の直接当事者ですら、ときにこうなってしまいます。もっと問題なのは、友人やら家族やらの紛争について、本人に代わって問い合わせを投げてくるひと。この方たちがあることがらを「関係ない」だのなんだのと言いだすことで、さらに情報が伝わりにくくなります。誰かの代わりにしてあげる相談が、うまくいかない理由の一つです。
2.「関係ない」説明かもしれませんが
弁護士であれ司法書士であれ、自分が依頼した、あるいはしようとする相手に正しい情報が伝わらない。それ自体はよくあることだと思います。
ただ、故意にそれをやった奴には敵であれ味方であれ、相応の報いがあってしかるべきだと僕は思っています。
先日のこと。弁護士に依頼するというご意向を示した方から、再度依頼のご希望が入りました。
ずいぶん興味深いことがメールで書いてあります。依頼をとりやめることにした際のお客さまからの報告は、事実と異なるらしいのです。
弁護士をつけることにするかつけないことにするのか、というのは日本語としては単純で誤りようがないものだと僕は認識しますが。
とは申せ。せっかくのご依頼希望です。優しく対応してあげることとしましょう。自分の認識と相手の主張が食い違うからといって、それを直ちに相手のウソだと決めつけるのは間抜けな素人がやることです。
まずは連絡直後の電話打ち合わせで、先にいただいた報告について説明を伺います。
優しく優しく、事実に関するご見解を承ります。
ご説明には口も挟まず、さえぎりもしません。なにしろ僕は、優しいので。
数分かけて一通り、ご主張をお聞きしました。
僕からは優しく一つだけ質問すれば十分です。
「で、その説明で僕が納得するとお考えですか?」
お客さまにはいささか長めの沈黙を味わっていただいて、ご依頼受託としました。
この方を含め当事務所の全ての裁判書類作成業務委託契約書には、依頼人が故意に事実と違うことを僕に告げた場合、僕は契約を解除できるという条項を定めています。
それが実際に危険なことだと認識していただくためには、説明を片っ端から否定するよりほかにもいろいろな方法がある、僕は考えています。
さてこの事案、地裁での準備書面作成です。司法書士には自由な法律的判断ができません。今後の法律相談は不可、依頼人が指定した事項にしたがってのみ書類を作成すると明示し、書類作成の嘱託に際しては事前に弁護士による有料法律相談を経由してくるよう申し渡しました。
若干の費用増加にはなるかもしれませんが、僕には関係ないことにします。
僕がいくら優しくても、依頼人から言われてもいない法的主張を勝手に書いていいわけではありませんからね(遠い目)
3.関係ないことにしたい、のも仕方ないですが
先日のこと。行政書士さんが、労働相談のお客さまを連れてこられました。
僕がお茶を用意しているあいだ、その行政書士さんはお客さまに相談にあたっての心がまえを指導しておられるようです。曰く、
- 知っていることを
- 隠さずに
- 正確に
話すようにと…そんなことを。
「それって裁判所(の宣誓)か何かですか?」
軽く茶化して相談室に入ります。ここからは僕の時間です。
お客さまにはお茶を入れながら、ちゃぶ台をひっくり返すとしましょう。
「あ、言いたくないことは言わなくてかまいませんから」
先ごろ豊後高田市で開催されたちゃぶ台返し選手権にエントリーできるくらいのちゃぶ台返しをお見舞いした自覚はあります。
その行政書士さんとは目を合わさないようにして、さらに続けます。
「さまざま事情があって相談で言いたくないことは普通にあると思います。そうした箇所に触れる質問には、『答えたくない』とか『(書面に)書いて欲しくない』と言ってくれればそのように対応します。ただし、事実と違うことを言われても言われたようにしか対応できませんから、それはやめておいたほうがいいです。ご自分のために」
…あ、これは当記事の第2項のお客さまに言ったわけではありません。相談に際しての一般論を述べただけです。
聞かれたことに対して知っている真実をありのままに述べ、隠したり付け加えたりしない、そんな陳述なんざ裁判所でもそうは期待できまい…と、すれっからしな代書人は思ってしまうのです。代書人になるまえに、自分が原告になる労働訴訟を二度経験したからかもしれません。
お客さまにも相手方にも、間違えることも言いたくないこともあるに決まっているので、お客さまが仮に事実に関する認識の伝達を誤っても、それが勝敗に直結しない限りは僕から契約解除にまではしないようにしています。
そんなことばかり考えているからでしょうか。初回の相談を30分で終わらせる、などという芸はいっこうに身につきません。先日は上記三件以外のお客さまについて、久しぶりに初回の相談が3時間に達しました。
その相談中、この事務所が忙しくならない理由を説明する必要がありまして。
「さまざまなやり方で、顧客を選ぶから(←虚勢)」
と申し上げたところであります。当事務所の実情に関係がある説明だったかどうかは、実際にご依頼になった方だけがわかるかと思います。
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