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裁判所提出用 反訳書作成覚え書き その4

いつの間にやら秋から冬になってしまいました。11月中に書き終われると思ったこの記事、書いてしまって今年第1回目の忘年会に臨むとしましょう。明日は隣の県から友人の同業者さんがやってきます。

さて、『テープ起こし ソフト』等と検索をかけると必ず見つかる定番のソフトに『Okoshiyasu2』があります。これはPCに常駐させて(つまり、ワープロや表計算ソフトと同時に動作させて)、任意に割り当てたショートカットキーで音声ファイルの再生・停止・早送りや巻き戻しを行わせることができるものです。

詳しい説明は作者のサイトをご覧いただくとして、そちらに載っていない問題について説明します。

僕のところではWindows7 64bit版と32bit版のPCがあります。64bit版のほうでは、ショートカットキーが機能しません…致命的です(苦笑)開発が止まったソフトなので文句は言えません。実はほかにいくつかソフトを使ってみたのですが、これがいいのです。

Windows7環境下で、起動時にウィンドウのサイズが小さすぎる事象が広く発生しています。これはインストール後に設定ファイルを探し、テキストエディタで書き換えることで対策できます。Okoshiyasu2インストールディレクトリ内にあるoko2.iniをメモ帳等で開いて、後ろのほうにある[Window]以下を

[Window]

SelfHeight=350

SelfWidth=500

lblPosition2Left=236

lblPosition2Top=56

ぐらいにすると、普通に使えるようになります。

使えば便利なショートカットキーにも問題があります。同時に使うワープロ・表計算ソフトに割り当てられているショートカットキーと重複するショートカットキーは使えません。文字入力時のソフトにExcelを使おうとすると、これが問題になってくるかもしれません。

使いこなせれば便利なのはイコライザです。以下はノイズ除去をしないファイルを聞くときのものです。

Photo

人の声にあまり関係してこない低音と高音の部分(120・200・10K)を思い切り低く、400・4Kのあたりを高めに、1.2Kはなぜか少し低めにとったほうが聞きやすい気がしますが、なぜそうなるのか自分でも説明できません。

このソフトでは、音声ファイルの再生停止からまた再生をさせるときに自動で何秒か戻って再生させるようになっています。少し前から聞き返す、というときに有効ですが、戻る秒数を多くし過ぎると作業が進みにくくなります。2~5秒くらいからお好みで設定しておいたほうがいいでしょう。巻き戻しも同様に、一回のショートカットキー押下で戻る秒数を設定できます。

このソフトで小刻みに再生・停止を繰り返しながら聞き取った発言を文字入力していくことになります。

ただ、別の記事で述べてきたWindowsの音声認識機能をつかってリスピークする、つまり「録音で聞いた内容をヘッドセットで聞いて、聞いたとおりに自分でマイクにしゃべり、それをPCに音声認識させて文字入力していく」手法を採ると、キーボード入力が大きく減ります。楽ですし、人によってはこのほうが早くなりやすい面を持っています。音声認識で入力しやすい、に標準語の日常会話では特に効果がありますが、方言でなされる口げんか等でこれにトライしようとすると話者を逆恨みしたくなるのでやってはいけません。


反訳書作成のための文字入力で特に気をつけることを説明します。

1.できるだけ録音直後に反訳作業を開始すべきです。聞いた人本人が、その内容を忘れることは普通にあります。逆に、完成した反訳書が聞いた人の記憶を呼び起こすこともあるといえばあるのですが…そうやって出てくるのは自分に都合よくゆがめられた記憶(不正確な記憶)なのかもしれません。僕自身は結構、この段階で出てくる『記憶』に対して冷めた見方をとっています。

2.発言だけでなく、話者を明確にしておく必要があります。同性の登場人物が複数出てくると、これを間違えることはときおりあります。話者に記号(1.2.3.4.5とかA.B.Cとか)をつけて話者の違いを記録したつもりになる人がいますが、これはやめて名前や名字を書くべきです。間違いが増えるだけです。

3.ショートカットキーの問題を除けば、発言は表計算ソフトに入力して一つの発言に一セルずつ使うのがよいでしょう。話者が代わるまでになされる同じ話者の発言を、一つの発言とします。発言中に相づちが重なる場合、積極的な同意として聞こえる場合は発言をそこで切って相づちの部分(『はい・うん』など)を反訳します。

4.前項を前提として、録音時間・発言者・注釈もそれぞれ一セルずつ使います。準備書面等での引用時に参照しやすいよう、長い会話では発言に連番を付すことをおすすめします。一つの行に、連番-録音時間-発言者-発言内容-注釈と5セル並べて一行を作ります。違う人が発言したら、行を改めます。罫線は必要ありません。

5.聞き取り不能箇所は適当な記号(*とか)をつけておきます。重要な箇所や数秒間続く場合、

-聴取不能-

と一行書いて、その前後に録音時間を付しておきます。『女性の発言複数。聴取不能』等とすることもあります。

6.「あー」「えー」などの意味のない発言はできるだけそのまま記載します。方言もそのままです。

※緊張するとどもる人、その人ならではの語り出しや口癖など、精神状態や個性が読み取れるかもしれません。訴訟に出す反訳書は講演や会議録ではないので、生の発言をできるだけ正確に書いたほうがよい、と僕は考えています。

7.反訳しながら、訴状や準備書面で引用する重要箇所は録音時間も記録しておきます。

 これは反訳専門業者に出した場合にはなされない作業です(全ての発言に録音時間を記録するだけなら業者さんでもできますが、重要なところかどうかの判断はできません)本人が自分で反訳書を作る場合や、当事務所のように裁判書類も反訳書も作る事務所でないとできない作業になります。

8.何かの「言い間違い」はよくあるものです。できるだけ、何を言いたい発言だったのか注釈をつけて説明しておくべきです。

 失言はしばしば、本音を反映する形ででてしまいます(苦笑)

9.指示語(これ、それ)や疑問系(ってことは?など)も説明を要します。書類をやりとりするときにはしばしば出てきますので、何を指すのかを注釈欄に書いておきましょう。

10.その人ならではの表現や何かの略語、その職場のみで使う専門用語なども、話の流れやその人の心象に沿って説明しましょう。

 僕は「スキャナに火を入れる」という表現を相談室でよくするのですが、これは「スキャナの電源を投入する」という意味です。同じく相談時に「おいておく」は「放置する」という意味で使っているかもしれません。「社長からの損害賠償請求の内容証明なんて、そのままおいておけばいいですよ」というようにです。相続登記をやりたい司法書士なんざ佃煮にするほどいる、と言うと、補助者さまからは「司法書士は佃煮にするほどいないと思います」とやさしく指摘が入ります。

…そうした、各事業場での特殊な用語・符丁は説明がないと他の人には理解困難だ、という事例です。皆さまも気をつけてくださいますように(遠い目)

11.発音が似た語・同音異義語の聞き間違いはどうしても避けられません。会館と快感を聞き間違える会話はあまりないはずですが、「会館の工事」と「外観の工事」「配管の工事」は間違えるかもしれません。そうやって考えさせるだけ考えさせておいて、実は株式会社カイエダ・カンパニーというクライアントの工事かもしれません。

12.上記と関連して、どうしても意味を一つに絞って聞き取れない箇所は無理に聞き取らないことにしましょう。どう聞こえるかの選択肢の併記も、場合によってはありえます。

こうしたことに気をつけて書きおこした書面を反訳書とし、甲第1号証の1などの枝番をつけます。CDのほうには『甲第1号証の2(3,4…)』の枝番をつけて、証拠説明書には甲第1号証としてまとめて立証趣旨等を記載します。

証拠説明書に記載する、書証とする文書の作成日を録音の日とするか(電子文書たる録音データはこの日に作成されました)反訳書完成の日とするか(反訳した文字データを記載した文書はこの日にできあがりました)は少々迷いがあります。

両方書いてしまえば、自動的に正解になるわけですが(笑)

作成日を仮に反訳書完成の日とした場合、証拠説明書の立証趣旨の欄には『○月○日になされた、甲野一郎と乙山太郎の会話の反訳。甲野が乙山に対し、即時解雇を言い渡した事実』等と書き添えておけばそれでも通っていきます。

最後に、反訳作業の所要時間と費用です。以上のことに気をつけて、普通に聞き取れる音声ファイルから会話の内容をワープロや表計算ソフトに入力しようとすると、初めての方なら録音時間の10倍程度かかります。自分でなさる方には、頑張って、としか言いようがありません。

作成作業を外注させる場合の費用はまさにいろいろです。裁判所提出書類としての反訳書作成を標榜する業者さんですと、録音時間1分当たり百数十円~四百円台といったところでしょうか。法律事務所や司法書士事務所からでないと依頼を受けないというところも結構あります(そうしたところでも、単に会議録と同様にテープ起こしするだけなら依頼を受けることがあります)。

単にテープ起こしだけなら、ランサーズなどクラウドソーシングのサイトを通じて適当な個人事業者に発注し、1時間三千円台で済ませるという可能性も一応ありますが作業者の質が玉石混交でありすぎます。

僕のところでの反訳書作成の料金は、今月以降は標準で録音時間1分当たり200円とし、録音不良・方言の使用・特殊な業界等で何割かずつの加算をして最大500円とします。これも年に一度あるかどうかの依頼類型になるはずですが、ウェブサイトに説明のページを追加するとしましょう。

この秋やったように要ノイズ除去・関西弁・話者多数といった音声ファイルですと1時間あたり1万8千円ほどいただくことになるのですが、これを4千円でやってしまったことはなかったことにします。

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