お得意さまのご依頼だから…
司法書士は地方裁判所における裁判手続きの書類作成にあたって、お客さまの依頼を離れて自由に法的判断を加えることはできないと考えられています。
…が、相手の書面を熟読玩味して矛盾や破綻を探して楽しむことは勝手です(笑)
そんなわけで。労働審判手続第一回期日の打ち合わせにやってきたお客さまに、切り出してみます。
「相手方からの答弁書と書証で一番問題なのはどこだと思います?」
訥々と、しゃべり出すお客さま。答弁書に書き込みもあって、よくご準備されているようですが
ブブー。
ありきたりなクイズ番組の不正解風のブザーを鳴らしてみます。
もちろん口で。
いきなりそれか!と笑い出せる程度には、このお客さまとの信頼関係が構築できているはずです。
ですが、いつもより多い差し入れをお持ちいただいたお客さまにそのタイミングで茶々を入れてよかったか、は若干微妙なところです。縁起を担いで、ということでお土産のカツサンドをおやつの時間にいただきながら、説明を整理します。
- この労働審判手続は非正規従業員の雇い止めの効力を争うものです。
- 期間長めの有期労働契約を数回更新しました。
- 次回の契約更新はしない、と明示した契約書に捺印して期間満了一ヶ月前となりました。
- 会社側からは、やっぱり更新されないと通知されました。
この効力を争おう!というご依頼でして、先週そうしたご依頼を一件蹴った覚えがあります。
つまり、成功している裁判例はあるがパーソナリティがよくわからない依頼人からは受託したくない類型のご依頼、であります。申し立てさえすれば必ず好結果がでるわけではないな、と。
さりながら、このお客さまは以前もご依頼をくださった方です。この事務所でのやり取りの仕方がわかっているといいましょうか。
それに、雇い止めを受ける経緯には無視できない事情もありますし、なにしろ差し入れが多いのです(揉み手)
そんなこんなで請求額を過少に設定して着手の際の料金数千円で書類作成を開始し、結構な枚数の労働審判手続申立書を出したのが5月。当地での労働審判手続は受理から期日設定までに少々時間がかかっているらしく、7月にはいった今日が第一回期日だったのです。
当地のローカルルールとして、第一回で終わりそうな事案は終わらせてしまうように裁判所が動く、そうした状況での打ち合わせです。
ですが、ありきたりなクイズ番組の不正解風のブザーを鳴らして遊べるだけの余裕は相手方が作ってくれているようなのです。
彼らの答弁書と、職制が出してきた陳述書によれば
- n回の締結・更新を繰り返してn+1回目の更新がなかった本件労働契約について
- 会社側がn回目の労働契約更新に際し、次は更新しない条項をつけたのは
- 労働者側で、n回目の契約期間中に生じた事実が理由だ、と指摘しています。
…こいつら、未来が見えるのか(笑)あらかじめ次期の問題が発生することを予期して不更新条項を労働契約書につけたのか(爆)
上記3.の事実そのものは相手方も認めているし書証もあるので、これはすごいオウンゴールだと考えねばなりません。相手方としては、こちらの勤務状況で非難できる部分をあれこれ探して最終の契約期間中にあった事実を発見したからこうなった、ということなんですがね。
こちらの主張を虚偽だのなんだのと決めつけて盛り上げるのは連中の勝手です。こちらは、彼らが自分で掘った落とし穴の淵に立ってる彼らに静かに近づいてそーっと背中を押してあげればよいだけの話です。
少々まじめなお客さまは、一つ一つの主張に丁寧に対応する必要を感じていたらしくここが決定的だ、とは考えなかったようなのです。
代理人がついていたってそんなもんだよ、この部分だけ裁判所が把握できれば大丈夫だよ、と自分がこの手続きでは代理人になれないことは棚上げして打ち合わせを終え、翌日。
補助者さまがいうのです。頼みがある、と。
執務中よりは真剣なまなざしで、丁寧にラッピングされた包みを僕に差し出してきます。
-なにか嬉しい展開への期待が、一瞬で裏切られる定石の展開をどうぞ-
各回の打ち合わせごとに二人分の差し入れを持ってきてくださったお客さまに、お返しを渡してくれというのです。
ありきたりな学園ドラマにこういう展開ってなかったか?と心中で苦笑しつつ、ここは素直にカバンのなかに収納する手です。
手ぶらでお客さまに同行することになった僕の立場は微妙です。期日は次の日です。
どうあっても勝ってもらわないとまずい展開じゃないの?と思うのです(苦笑)
で、本日。
例によって2階ロビーで2時間弱の待機ののち、請求の大部分が認められるかたちで調停成立となりました。
ちょっと勝ちすぎた気もします。
この事案、当初は雇い止めではなく、雇い止めにより行使の機会を失った有給休暇に関する請求=140万円以下の金銭の請求に関する相談から検討をはじめたため、僕が(簡裁通常訴訟を前提に)法的判断を加えて助言していた部分の請求も加えてありました。
こちらの請求もまるごと認められた結果、4年前にとれなかった有給休暇に関する金銭上の請求が解決金に反映されています。
労基法所定の時効(2年)が過ぎてるだろ、という相手方からの反論は裁判所にスルーされた形跡があります。
うまくやった、と喜ぶよりは、オウンゴール騒動に紛れてもう一点余計に転がり込んできたような気がします。
本件固有の事情を無視して成功例とされても困るので、何をやったかは黙っているのがよさそうです。
あ、でも信頼できるお客さまにはおすすめしようと思っています。今回は、貴重な事例を見させていただきました。大変ありがたいことです。
さて、次の大阪出張は7月14日で決まりそうです。出張相談可能です。
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