『違法とは扱わない』-ある勝訴判決から-
- ひさしぶりに少額訴訟の書類をつくりました。
- 当たり前のように、勝訴判決がでました。
- 請求のなかには、残業代が含まれています。
…今日は、その端数の話です。
労働時間の計算にあたって認識するべき一時間は60分からなり、時間外労働時間の割増率は1.25、賃金は時に時給や日給や月給で定められている…とすると、未払いの賃金や残業代の計算に当たってどこかで円未満の端数がでてきます。
ではその端数をどうするか?
さまざまな(おそらく初心者向けの)実務書では旧労働省通達(昭和63年基発150号)を根拠に時間当たり賃金額やら毎月の支給額やら何カ所かで四捨五入的な操作をすればよい、という表現で処理方針が示されています。しかしこの通達の原文を読むと、これは単に「違法とは扱わない」と述べているにすぎません。
ところで通常は、違法とは扱わない、という表現はどういう時につかうでしょう?
- 歩行者が道路の左側歩いても、違法とは扱わない(まぁ、好ましくはないかもしれませんが)
- 自動車が道路の右側走っても、違法とは扱わない(これは違法ではないかと…そう扱ってよ危ないから)
- ヒマな代書人が平日昼間に昼寝しても、違法とは扱わない(余計なお世話だ!)
- 深夜人通りのない歩道の隅で、酔っぱらいが立ち●●しても、違法とは扱わない(頼むから、見ないふりしてやってくれ)
このようにあれこれ考えてみると、やっぱり「違法とは扱わない」という表現がふさわしいのは、そこで判断される対象がどこか違法性を帯びて見える場合、でありそうです。
よって上記3.は明らかに用例として不適切です!平日昼間の昼寝に違法性は皆無です!
冗談はさておいて。そうすると、上記の通達で描写されている端数切り上げ等の処理は、むしろ違法性を帯びているからわざわざ「(会社側を、労基署側が取り締まるに際しては)違法とはしない」ということにしてもらってるだけで、未払いの残業代を請求する労働者側が同通達によって端数処理を正当化するのは変ではないか、とも思うのです。
…で、原則通りにやってみるわけですよ。
あきらかに判決を狙えそうな、シンプルな、でも端数計算を要する残業代請求を、少額訴訟で。
ここで原則通りに、というのは通常の労働時間1時間あたりの賃金額を円未満は少数第3位まで計算し、労働時間数は当然1分単位で積算、各月ごとの請求額を算出した時点で、50銭以上を切り上げ、それ未満を切り捨てる、という計算方法です。
これは通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律第3条によるもので、訴状にも「そうやって計算した」と根拠条文を明示してみたところ。
しっかりとそのように、全面勝訴の判決がでてきたわけですよ。
ただこの手法の難点は、そのように解説している実務書がないという点(苦笑)
平日昼間寝てるらしい怪しい代書人がブログで書いてるより、きっと忙しい大先生が書いてる実務書のほうが信頼できる、というごく常識的なご判断を諸先生方はなさるわけで、いまのところ僕の主張は正当性の高い冗談、の域を超えてないようにも思われます。まぁ、やればできることはわかったので僕のところではほそぼそと正確にやっていこうと思います。
もちろんこうした重箱の隅をつつくような情報は研修で提供することはありません。
ただ、頭の体操としてはおもしろいんですがね。こういうの。
ところが、最近になって上記の通達によらず、賃金について通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律第3条によって端数処理をすることを是とする本が出てきました。
ごらんのとおり賃金計算の本ではなく、企業倒産時の未払賃金立替払事業について詳細な解説を加えた実務書で、今年春に出たものです。
これは現在我が国で未払賃金立替払事業をいちばん詳しく解説した事実上唯一の良書で、この意味で今回準備している研修でもおすすめの参考文献の一つに選定しています(といっても教材の片隅に推薦文を書いておくだけにしておきます。思い入れたっぷりにおすすめすることはありませんのでご安心を)。
僕はこの本、倒産間際の会社に食い下がるのに使うでしょうが、多くの司法書士さんたちは法人破産への関与に際してごらんになる…のでしょうか。というより、ご覧下さい。
この書物にはっきり書いてあって、ありがたかったこと。
まず、残業代も定期賃金の一種として、立替払いの対象になる賃金に該当するということ。だったらつぶれかけの会社にも、場合によっては残業代請求の訴訟起こしていいかも、と思えてきます。倒産後は立替払いを当て込んでことを起こせばよいので。
つぎに、解雇無効を争って係争中に会社が倒産した場合の扱い。
これは訴訟をへて欠席判決を除く判決や和解で、未払いの期間と賃金であることを明らかにできた部分については立替払いの対象となる、ということ。
…それぞれリクツで考えりゃそうなるとは思えたのですが、ちょっと恐くて口にできなかった部分にちゃんとOKを出していただけました。ごちそうさまでした♪と申し上げたい気分です。
さてそうすると。通常訴訟によるか労働審判手続によるかはさておいて、つぶれかけの会社に対しても未払いの賃金・残業代の額を裁判手続きによって確定しておく、場合によってはあえて解雇無効を争う、ということはこれまでより魅力的にみえてきます。少なくとも労働者が法的に労働契約上の地位を有している=離職していない条件下で会社が倒産してくれれば、倒産までに退職済みの労働者とちがって確実に未払い賃金立替払い事業の適用対象になるわけですから。
まぁ冗談のような可能性ではありますが…
違法では、ありませんから。
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