社長から「出資をして」と言われたら…
- 即時に断りなさい。
- 速やかにその会社を辞めなさい。
以上!
…二行で終わってしまいかねませんが、今日はまぁそうした話です。
さて、今日あった、いいこと。
- 一年越しで続いていた残業代請求訴訟が和解で終わった、とお客さまから連絡がありました。素晴らしい。
- 先月申し立てたばかりの仮処分命令申立事件について、次回の期日に出す全書類の提出が終わった、と別のお客さまから連絡がありました。大変結構です。
今日あった、よくないこと。
債務者のじいさん・ばあさん各一名に電話で督促をかけたものの、予想通りに成果なし(笑)
債務者、の前に『多重』という文字が着いてると、支援の対象だとして色めき立つ同業者さんもいらっしゃるのかもしれませんが…この連中のやってることはかなり犯罪的だと思うのです。
起きている場所も会社も全然ちがう事案なんですが、やり口に共通点があります。
第一
- この爺婆、いちおう社長です。前歴はまぁそれぞれ、見られたものではありませんが、適当に引っ越したり適当に名字を変えたり適当に新しい会社を作ると…何も知らない労働者が求人に応募してきます。こいつらをカモにしよう、と彼らは考えるようなのです。
第二
- 適当にうまいことを言って、自社の事業に金を出すといいことあるぞ、と誘います。融資の誘いであることもありますが、今回期せずして似ていたのは『元本の返済を約束しているが、借金ではなく投資である』ということです。元本のほかに若干の配当とか役職をつけて利益誘導する、ということも忘れていません。
第三
- 適当にカモ(残念ながら従業員、またはそのご家族です)を引っかけて金を預かったら、もっともらしく受取証書を交付します。
第四
- 証書記載の期限が来たら、適当な理由を付けて返済を先延ばしにします。
第五
- そうこうしているうちに、会社の経営状況は頓挫から破綻へ、破綻から消滅へ遷移していきます。まともな手段では出資金は回収不能になり、だいたいはこのあたりで相談がきます。
こういうのって同業者団体あたりで情報集約してさっさと問題事例(ま、ブラック企業という奴です)として公開できれば被害拡大も少しは防げるんでしょうけど、そうした対策が早期に取られたことなど見たことありません。被害者対策なんとか団、なんかがようやくできあがる時点で代表者は逃げ切り勝ち、会社は法的整理に入ってる気がします。
さてこういう事案、冷たい言い方をしますと回収不能=受託不可、泣き寝入り推奨、というのが一般的です。
絶対あきらめないとか、詐欺事案になにかの請求をかける、とかいうウェブサイトもいくつか出現していますが、普通にお金を返してもらうというやりかたを望む限り成果をコンスタントに挙げるのは無理でしょう。騙し取ったお金を直ちに使ってしまえば返済不能になるのは目に見えているわけですから。
僕のところで対処できるのは、なんとか彼らの『事業活動の残りカス』を発見して仮差押をかけるとか、丹念に丹念に事実を調査し証拠を拾い集めて民事訴訟に勝ち、空手形の判決をとって(ええ、お客さまにもそういう表現を使っています)警察に相談に送り込む、せいぜいその程度であります。
・・・でも。ひっかかった奴が悪いんだよ、勉強だと思ってあきらめな、と役場の無料法律相談担当者みたいに冷笑的に対応するのもちょっと切ない気がするんです。自分が入った会社とはいえ、客観的には怪しい会社・お金をたかる能力はあっても稼ぐ能力のない経営者からの出資など勧誘されても対応しない、という大原則のまえに、あることを少し調べてみたら少しは安易な承諾が防げる、そう思うことがあります。
一つは官報。県立図書館クラスの大図書館ですと、インターネットで過去の官報を検索できます。これで社長や役員の個人名を入力し、過去に破産・民事再生等の申立歴を探します。手形を失ったので除権判決を取る、というところで出てくることもあります。つまり手形なくすような奴だ、ということですのでこれも要注意です。会社の解散公告はそこまでひどくない可能性もありますが、中には債権者を無視して会社を消滅させる人もいます。一応注意、と考えねばなりません。
破産ハ債務者ヲ経済的ニ更生セシメルモノダ!ヨッテ破産ハ債務者ノ権利デアル!とか言いたい法律家のセンセイ方にしてみれば『過去の破産歴なんか気にするな』ということになるんでしょうが…一度モラルハザードを起こした奴は二度起こすかもしれないよ、という発想を、その人が経営している会社に入ろうとするなら、あるいはわけのわからない出資の誘いや早期の退職に迷ったなら、働いている皆さんは持っていたほうが絶対いいに決まっています。
できれば旧姓でも検索をかけて、怪しいのがヒットするようなら金銭面での誘いには絶対乗ってはいけませんし、そうした会社に居続けるのもどうかと思います。その経営者の普段の説明(愚痴・自慢・誘惑といった形をとりますが)とこれらの公開情報から採れる前歴に食い違いがある場合は特に速やかに、そこから逃げ出さなければなりません。
もう一つ、最近有力なツールとして気づいたのは新聞記事のオンライン検索です。僕は@niftyのサービスを利用しています。一記事のヒットで数円から百円程度の料金を取るため、検索条件の設定にはかなり工夫を要するものの、地方紙までふくめた全国の新聞の検索ができるためうまく使うと意外な事実が出てきたりします。こちらでは社会的なニュース、たとえば書類送検とか、逮捕、有罪判決といった記事がとれますので、経営者や役員の名前とこうしたキーワードでの複合検索をかけましょう。
僕のところみたいに同時に進行している事案は裁判事務で十件弱、新しいご依頼は月に一件か二件か三件か、という零細事務所でも、上記の二種類の手段で定期的に検索をかけていると年にいくつかは…その社長が隠しているはずのスネの古傷を発見することがあります。
あとは、企業情報のオンライン検索で代表者名をキーにして検索をかけることが東京商工リサーチのオンラインサービス(Tsr-van2)ではできるのですが、@niftyのサービスではこれができません。別の人物検索なら可能なものの、直ちに企業情報が取れない作りになっています。こちらを使うと、経営者がおなじダミー会社がごろごろ出てきておかしいね、などといった調査も可能になります。
せめてこの程度の信用調査を行ってから、目の前にいる経営者(あるいは犯罪者)に大事なお金を託すかどうか決めてほしい、と思うのです。もちろん不特定多数人に元本の返済を約してお金を預かるのは出資法違反ですし、返す気ないのにお金出させるのは詐欺なんで、上記爺婆はそれに該当する可能性が大なんでしょうが…こいつらが逮捕されて新聞記事の検索データを一つ増やせるのとお客さまにお金が返ってくるのは基本的に関係ありません。せめてその爺婆がしょっ引かれる新聞記事が見たい、と思っているのですが、それさえお客さまが諦めてしまえばどうしようもありませんからね。
一件一件の仕事にあまり深入りしないほうがいいんでしょうが、和解成立と書類作成作業終了のめでたさに水を差したこの爺婆どもに何か仕掛けてやれないか、いろいろ考えています。
立場を変えてみましょうか。依頼を受ける時点で上記のスクリーニングをおこなって、パスした=おかしな前歴が相手方に発見できない案件だけ訴訟代理等で受任する、ということも、同業者さんなら考えてよいのかもしれませんね。実際のところ官報や新聞記事で検索がヒットするような連中は大体難易度の高い事案ででてきますので、このスクリーニングをやることで、成功報酬が取れない経営上のリスクが減るような気がします。
僕のところではこれを依頼の選別には使いませんが、定期的におこなう調査で発見できれば内容を説明したうえで、発見した事実の内容によっては依頼を続行するか取りやめるかお聞きしています。相談の際に実費をご負担いただければ調査は行う、というようにはしていますが、なかなか皆さんそこまで気分よくお金を出してくださらないんですよ、それで結果的には損する相談者もいる、というのがこの商売の恐ろしいところであります。
いっそ相手方会社のウェブサイトにリンクを張って『この社長にお金取られた人の情報募集』というページを作ってSEO対策を施し、先方のウェブサイトより上位に出るようにすればきっと面白いんでしょうが…職業上はちょっとできないんですよね。それに、無記名の掲示板やブログでそういう遊びをしていらっしゃる方を見ると(そうした運営者から相談を受けたこともありますが)やっぱり責任なき言論を指向しているようにしかみえません。怪しい人が怪しい人を非難している、としか思えないのも残念です。
今夜は少し多めにお酒を飲んでみたのですが、酔えないまま眠ることになりそうです。やれやれ。
2020.12.20修正
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