訴訟代理人、いずこにありや!?
この一ヶ月で、職業的訴訟代理人(誰とはいいませんが、地方裁判所でも訴訟代理ができるあの人たち)を使った期日引き延ばしの事例が三つほど集まりました。今日はそのお話です。
1.言ってみるだけ♪でも一期日
先日のこと。僕が簡裁で原告訴訟代理人をしているその訴訟は、例によって労働関係の事案です。第一回期日の時点で成立しうる請求は十数万円ということで、まず本人訴訟で手書きの答弁書を一枚出してきた被告会社側がどういう対応をするか、まぁ社長の顔でもみてやろう、といった軽い気分での出廷となりました。お客さまからの情報によれば、社長は40代の女性です。
廊下で開廷表をチェックしていると、法廷の『当事者入口』を開けようとしている婆さんがいます。もちろんその日も裁判所は、佃煮にするほどある金融の業者事件で開廷しています。いまそこから入ったら、被告席の真後ろに出現することになるでしょ!
おもわず小声で話しかけました。「そこから入ったらいけませんよ」
やれやれ困ったことだわい、と傍聴席に待機して見ているとその婆さん、自分の事件と他の事件を間違えて入廷しようとし、廷吏と揉めて訴訟の進行を止めています。こりゃ、関わり合いにならないほうがいい気配です。
ややあって、僕の事件番号が読み上げられます。いそいそと原告席に入って机のうえに書類を広げてみていると、さきほどの婆さんがまた廷吏と揉めています!
代理がどうこう、許可がどうこう、とか言っていますよ?
聞けばその婆さん、被告会社の社長の母親だとか。裁判官は許可代理の申請をするよう指導しますが彼女の理解の外にあるらしく、「今日は裁判所で『これから●●士を選任します』と言ってくるように言われてきた」とひたすら繰り返す婆さん。もとい社長様のご母堂様(失笑)
裁判官根負けしたらしく、その発言を傍聴席から事実上聞く、被告代表者は欠席で答弁書擬制陳述、という処理をして次回期日を指定しました。
原告であれ被告であれこんな請求額十数万の賃金請求事件でプロの訴訟代理人が着く、ってのがどんだけ珍しいことか思い知ってくれよこれから、と思いつつ婆さんを見送って、第二回期日。
こんどは婆さんと、なにやら神経質そうな中年女性が廊下にいます。入廷したのはその中年女性。これが被告会社の社長、ということらしいのですが書証の原本一つ出すにも傍聴席に本陣を構えたご母堂様からの指示がなければやってけないご様子です。大丈夫かこいつは?
僕より早く傍聴席と被告席との力関係を悟ってしまったらしい裁判官、被告席と傍聴席とで会話が交わされるのをもう停めもしません。さてそうなると、代理人の選任による読み取りにくい主張の整理および追完を期待して反論せずに第二回期日を待った僕が馬鹿みたい、ということになりました。裁判官もなにやら不満げに言ってきます。
「原告代理人、答弁書へ反論はありませんか?あれば早期に提出して欲しいのですが」
その前に被告に言うこと無いのかよ、という感情を少しだけブレンドして…発言させていただきます。
「被告側からは前回、代理人選任の予定が示されていましたが…ご予定がないなら書類は直送してかまいませんか?」
おっとそうだったね、という風情で裁判官、被告代表者に確認します。やはり傍聴席とのやりとりを経て、本件訴訟は本人訴訟で続行となりました。母子ともにいささかだらしない印象の被告陣営ですが、●●士を呼ぶぞ、と言っただけであっさり一期日無駄にさせた手腕は素人ながら見事であります。
2.締め切り。それは破るためにある
この8月に某地裁労働部でとった付加金請求認容判決、サクッと控訴されました。僕はその第一審の代理人とは違う代理人が出てくるものと期待したのですが仮執行宣言を得ていたその判決、執行停止の申立で担保を積んだのは、『第三者』であるその第一審被告代理人、という決定書が出ています。供託手続きだって代理に馴染むはずなので、わざわざその代理人の名前で供託する意味があるとは思えませんが…まさか、控訴審でもこの人が代理人なの?
であるならば、懸念があります。
このセンセイ、仕事のスピードもクオリティもかなり凄いのです。第一審では守った締め切りより破った締め切りのほうが多く、脅威を感じた記載より無駄になった記載のほうが多いこの人、きっと控訴状提出から50日以内に控訴理由書を出さないはずだ、彼が出すはずがない、と確信していたのですが…やっぱり。現時点でしっかりと提出を懈怠しておられます。裁判外ではなにやら負けた気がします(もちろん裁判外でだけ、ですがね)
さらに凄いのはこの人、裁判所から10月から11月にかけて示された期日の候補日を軒並み差し支えにして12月以降に控訴審第一回期日を設定させる方向に持って行っていること。
さすが●●士、やることがいちいち凄いです。裁判所何するものぞ、と言った感じでしょうか、僕なら恐くてできません。国家権力とはこうやって戦われるんですよね、きっと(遠い目)
3.「忘れてた」というシンプルな説明
先日のこと。出頭するのに片道の交通費1万円ほどかかる遠方の裁判所に出廷してきました。ある訴訟の続行期日なんですが、時間になっても相手側代理人●●士のセンセイが出廷されません。
法廷を支配するのは…不気味な沈黙。
5分。
10分。
無為に過ぎていく時間。虚空を眺めながら法廷を出ていく書記官。帰ってきて裁判官に告げて曰く
「電話が通じません。事務員の方もいないようです」
…なんだそれは!どこかの旅好きな代書人かお前は!
自分の事務所の貧弱な電話受付体制をすっかり棚に上げ、怒りを秘めてと待つこと15分。裁判官が気を利かせたのか利かせてないのかわからないお言葉をくださいます。
「せっかく名古屋からお越しですから、あと15分待ってもらって(相手側代理人が)来なければ期日を追って指定します」
で、結局30分経過。ここは巌流島か?でもって僕は佐々木小次郎か?と悶えながら待ち続けましたが、タイムアップとなりました。
数日後、期日の打ち合わせに電話をかけてきた書記官に先日の代理人欠席の理由を聞くと
「忘れてた、そうです」
まさに裁判所何するものぞ、と(以下略)
僕は次回期日、このセンセイがどういうコメントをするか楽しみに楽しみにしています。きっと、やる気がでるものになると確信していますよええ(遠い目)
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