困ったときの、情報公開?
久しぶりに名古屋もいいお天気になりました。開け放った窓から涼やかな風が入ってきて、少々早い秋の気配です。
さて、この夏の自由研究に一区切りをつけることができました。この記事は7月7日付『自腹で挑め(笑)情報公開の壁』の、まぁ実りあるといってよい続きです。
僕はときどき、実務に関するいろいろなテーマを決めて、そして自腹で(笑)何事かを調査研究してみるようにしています。主として労働紛争・労働訴訟に関するものですので小中学生の自由研究よりいくぶん腹黒い動機と関心で実施されるこの自由研究、今季は『労働訴訟における書証入手のために、情報公開の制度が使えないか』『助成金、特に中小企業緊急雇用安定助成金の不正受給に関する証拠を情報公開制度を使って入手できないか』という観点から試行錯誤を繰り返しておりました。ここで情報公開制度と言っているのは、国との関係では行政機関の保有する情報の公開に関する法律・行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、都道府県との関係では各県の条例(公文書の公開・個人情報の開示に関するもの)をまとめて指しています。
『情報公開制度』で検索してくれれば制度の説明はいくらでも出てくるし参考書は上記リンク先の記事から入手できますので詳細な解説は省きますが、一言で言えばお役所が持ってる文書の写しがもらえる、というこの制度、次のような違いがあります。
- 誰でも利用できるが、個人情報の開示は開示請求者本人のものもふくめて開示されない。文書になっていて役所が持っているものは開示の対象になるのが原則だが、実にさまざまな理由で文書の一部や全部の開示が拒否される。開示拒否、という結果も活用できることはあるが、文書があるかないかさえ回答しない、ということ(存否応答拒否)もある。
- 役所が作成した文書のみならず、使用者側企業が様々な許認可・届け出等の申請で提出した文書も、理論的には請求可能。僕の関心はむしろこの部分にある。
- 職業安定関係の助成金申請ほか人事制度に関する文書全般について、非開示になる可能性が高い。中小企業緊急雇用安定助成金の申請書類について僕が存否応答拒否をくらったことは上記の記事のとおり。
- 不開示となる理由について、人事政策のあり方というのは、『公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの』(情報公開法5条2号イ)に該当するから…らしい。納得できないが、いまのところこれを打破する論理構成にたどり着かない。
- 役所が持っている個人情報の開示(ほか、訂正や利用停止等)を求めることができる制度。当然ながら、申請する本人の情報のみの開示等を求めることができる。上記の情報公開制度を利用して申請すると、個人情報に関する部分は自分のものも他人のものも非公開にされてしまうので、両制度を併用することは常に考えられる。
- 役所が作成した個人情報だけではなく、使用者側企業が作成・提出した個人情報について開示請求することが可能である。
- 中小企業緊急雇用安定助成金の申請に添付された書類であっても、個人情報に該当するものについては開示を得ることができた。
結論としては、労働紛争に巻き込まれたある労働者個人が、自分自身に関する情報を集めるだけなら一応機能する、と考えてよいと思います。中小企業緊急雇用安定助成金について会社側の申請書類の中には、個人情報に該当するものとして
- 休業に関する協定を締結するための労働者代表への委任状
- 休業計画および実績の一覧表
- タイムカードあるいは出勤簿
- 賃金台帳
これらが含まれているのを数百円の手数料で役所から(つまり、会社側の抵抗を一切無視して♪)コピーをわけてもらえる、というのは大変素晴らしいです。最近では労働相談で足りなさそうな書類が出て少し困るたびに
えーと、この会社何か補助金もらってません?
と揉み手しながらお客さまに尋ねている自分がいます(苦笑)
厚生労働省関係だけでなくても、いろいろなことに使えそうです。要は『役所への許認可の申請にともなって使用者側が作成した文書は入手できるかもしれないと考えて、その使用者が世に存在するためにはどんな申請等を行っているはずか、そしてその添付書類は何か、を検討すれば何が入手できるか見えてくる』のですから。
これまでよくあった活用機会は、
- 飲食店(あるいは風俗店)で給料未払いに遭ったが、そもそも経営者がだれかわからない→飲食業あるいは風俗営業許可申請書を情報公開請求で入手できないか?
実はこの問いに関して昨年までは無力だったのですが、これは是非やってみるべきだと思います。というよりすでに一件実施してみるよう指導した人がいるのですが、この人は民事法律扶助による無料相談の利用者でしてその後連絡がありません。悔しいところです。このほかにも
- 会社側が中小企業退職金共済に入っているらしいのだが労働者には中退共手帳を交付しない。実際に共済契約はあるのか?→個人情報開示請求をかければ一発でわかる(ただし、根拠法は独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律)
数年前にあったこの相談では、会社が勝手に解約しようとした共済契約の返戻金を仮差押しようか真剣に悩んだことがあり、契約の有無が把握できないことから見送ったのですがもうそんな愚かなことはしない、はずです。
- 係争中の介護事業者について就業規則を使用者が開示しない。なんとかできないか?→介護事業を始める際の申請に添付されていて、自治体への情報開示請求でごっそり入手できた
こういった、紛争本体とは関係ない許認可申請で就業規則が添付されていることがあるのはなかなか気づきにくいかもしれません。この開示請求自体は数年前に経験済みだったのですが、その成果を拡張できることには今まで気づきませんでした。困ったものです。
今月も、中安金の申請への添付書類に関して個人情報の開示を行ってもらっている案件があります。
これで賃金台帳と休業実績一覧表が首尾よく入手できたなら、いま進行中の訴訟がだいぶ楽ちんになるはずです。申請を成功させるため、とは全く違う関心から、許認可やら助成金の申請に詳しくなる必要がある、というのはいかがなものか、とも思えるのですが。
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