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説明スレドモ補正セズ

この記事は、労働訴訟で発生しうる1円未満の端数について細かく考える前回の記事の続きです。故意にか偶然にか乙地方裁判所労働部の訴状審査にひっかかったのは、こういう請求を持っていました。

  1. 解雇予告手当の請求
  2. 残業代のうち、会社側が認めていない時間の請求
  3. 残業代のうち、会社が設定した単価がこちらの計算額より少ないことによる差額の請求

この訴状の作成に際して、まず上記1.は平均賃金の30日ぶんなので、日額を銭単位まで算出して(たとえば7549.52円。当記事で数値はすべて架空の値です)30日を掛け、解雇予告手当は即時解雇に際してただちに支払わなければならないため残業代とは支払い日が違うと認識して、この手当だけで端数を丸める計算を行いました。7549.52円×30日=226485.60円となるので、円未満を切り上げて226486円、というような計算をしています。

上記2.3.は各賃金支払い日までの1ヶ月分ごとに合計し、端数を丸める計算を行いました。たとえば原告側で計算した時間外労働割増賃金額は厘単位まで計算して1354.812円、会社が認めた時間外労働割増賃金額が1300円、実際の時間外労働時間は3時間だが、会社側は1時間を認めて1300円を支払った、という場合は次のように計算を行っています。

・会社が認めていない残業2時間につき

 1354.812円×2時間=2709.624円

・会社が1300円の残業代を支払った1時間につき

 1354.812円-1300円=54.812円(表A欄)

この二つを、賃金締め切り日に合計して

2709.624円+54.812円=2764.436円(表B欄)

これの端数を丸めて、2764円


そんな訴状を書いて出したら…10日ほどかかったでしょうか。裁判所から事務連絡がやってきた、とお客さまから連絡が入りました。上記の計算について、

  • 時間給1354.812円、平均賃金7549.52円の端数処理についてご検討ください。
  • 表A欄の2709.624円と表B欄の54.812円については、合計する前に端数処理をするのが正確かと思います。

とのご指摘です。僕からすればもう全力でひっかかってきた、というべきですが、全般的に『おまえのほうが直せよな』といいたい気配が漂っています。

こりゃ面白い♪ということで、嬉々として釈明書を執筆、下記のようにして提出しました。

・時間外労働割増賃金の一円単位の端数については、通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律(昭和62年6月1日法律第42号)第2条2項により、1厘(0.001円)まで計算しました。
 平均賃金については昭和22年基発第232号通達で、1日の平均賃金の算定にあたり銭単位の端数を生じたときにはこれを切り捨てる旨示されておりますので、これに従い1銭(0.01円)まで計算しました。
 ですので、時間給の計算額について1厘まで、平均賃金の計算額について1銭までの計算を行うのはやむを得ないことと考えます。
 表A欄およびB欄については通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律第3条1項カッコ書き所載の、数個の円単位の端数を持つ債務である賃金の弁済を同時に(各月ごとに約定の賃金支払日に)行う場合に該当すると考えましたので、同条の規定にしたがい、各月について表A欄の金額とB欄の金額を端数処理する前に合計し、合計額の端数について50銭未満を切り捨て、50銭以上を切り上げる処理をおこないました。

ここまで書いて…ちょっとだけ上から目線に感じられた上記事務連絡に、ちょっともの申してみたいなということで二つばかり蛇足な文章を付け加えてみました。

  • なお、原告らの調査において、表A欄とB欄で算出した金員について個々に端数処理することを義務づける法令または通達の存在は確認できませんでした。
  • 以上のとおり釈明します。結果として、訴状記載の請求額に変更はありませんでした。

数日後、乙地裁労働部はお客さまに対し、粛々と第一回口頭弁論期日を指定しましたとさ。めでたしめでたし。

以後この訴訟において、上記各計算部分には誰からも何も言われていませんので割増賃金や平均賃金の端数処理の仕方は、前回と今回の記事のとおりで特に間違いはないと思います。でも労働専門部からもちょっかいがかかるほどマイナーな方法である、ということは承知しておく必要があるのかもしれません。

2.時間の端数

 お金の端数がこれまで述べたとおりだとすれば、時間についてはどう把握すればよいのでしょう?これは、タイムカードをはじめとする世の時間管理システムが『分刻み』で維持されていることを考えれば、秒ではなく分まで認識できればよさそうです。

 よさそうです、と言ったことに注意していただきたいのですが、僕も割増賃金や労働時間の計算において『分まで計算せよ』と規定した通達等の存在は確認できていません。単に『秒単位の記録ができるタイムカードや出入管理システムは存在しないから』というのが根拠にすぎない、ということをお断りしておきます。

 1分は1時間の60分の1なので、さしあたりそれよりは細かいように1時間の100分の1、つまり少数第二位まで時間数を計算できていればよいのではないか、と考えて、時間の計算では少数第二位を採用しています。ただし、僕の場合はなるべく●時間●●分という数値の形式を保ったまま計算を行わせて、誤差の発生を防ぐようにはしています。


自分でいうのもなんですが、まさに重箱のすみをつつくようなお話です。でもまぁ、落ち着いて根拠を探すとそれはどこかにあるし、聞かれたことに根拠を示して回答できる、というのは結構重要なことだと思います。このあたりの、『その辺の本やらウェブサイトでは適当にごまかされているが、実際に直面するとわけがわからなくなる各所の処理』を解説するコンテンツがあったらいいな、とも。さすがに自分では作れませんが、面白いものがでてきたらネタにできるかもしれません。

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