7割しくじる『あっせん』7割成功する『労働審判』
アクセス解析で皆さん方が当ブログを訪れるキーワードを拝見しておりますと、時々笑える・あるいは意味深な・明らかに間違っている等々のキーワードを発見できます。新しいコンテンツ作成のヒントになることもあります。本日注目の一件は
- 特定社会保険労務士 嫌がらせ
…さて?
特定社労士による嫌がらせ、ということなのでしょうか?
特定社労士に対する嫌がらせ、ということでしょうか?
この特定社会保険労務士、何がどう特定なのかと言いますと、個別労働紛争の解決のために県労働委員会または労働局(紛争調整委員会)がおこなう『あっせん』の代理ができるという社労士のことです。社労士の試験に合格後にさらにお金を払って研修を受ける必要があるために、僕はこの特定社労士ではありません。
先週の支部研修で労働相談、しかも紛争初動での相談を扱うにあたって、このあっせんの手続きの実施状況を調べてみました。僕の経験からして、この手続きはあまりうまく行ってないようにみえたのですが…
まず愛知県労働委員会年報の昨年版を手に入れることができました。それによれば
個別労働関係紛争に係るあっせんの取扱い状況
平成19年 新規申出件数17件 開始4件 解決3件
平成20年 16件 6件 4件
平成21年 12件 1件 1件
つまり昨年度の解決件数1件!(当ブログにごく少数おられる各県労働委員会の読者の方、ごめんなさい…皆さんの奮闘をくさすわけではありませんが、事実なんで)
これが仮に異常値だとしても、2年遡って申し立て件数に対する解決件数はわずか25%。
しからば厚生労働省=各県労働局がおこなうあっせんは、愛知県労働局のウェブサイトによれば
平成21年度中に紛争調整委員会による
- あっせん手続きを終了した件数453件
- 打ち切り(不開始・不調)303件
- 合意成立129件
453件対129件。こちらも申し立て件数に対する合意成立率は3割を割っています。
これに対して労働審判。季刊労働法229号は今年の夏の号ですが、うまい具合に昨年の名古屋地裁における件数が出ていました。
- 終了件数は242件。
- このうち却下・取り下げ・労審法24条による終了が23件。
この23件は手続きとして裁判所に相手にされなかったもの、とおおざっぱに分類できます。
- 審判で終結した44件のうち、
- 異議が出て訴訟に移行したもの25件。
これは合意が成立しなかった=手続きが奏功しなかったもの、と考えるべきでしょう。
- そして残りが、調停成立174件。
つまり242件のうち、調停成立174件と審判で異議がでなかったもの19件の合計193件は、申し立てが目的を達して終了したことになります。調停成立率、約72%。
あっせんの申し立てで合意が成立する割合と比べれば、その違いは悲惨なまでに明らかです。で、これを研修の際に一言で言ったらこの記事のタイトルのようになったわけでして…
ただ、データは入手していないものの労働事案における民事調停の成立率はたぶん労働審判より何割か劣るはずです。ちなみに当事務所では3件関与しすべて不調!というありがたくない記録を保持しています。(その後1件、調停成立となった事案が現れました)
さて、現時点で特定社労士の諸先生方が代理できる手続きというのは、成立率でみるとまぁそういうもんだね、という記事なんですが…
もちろんこの記事は、特定社会保険労務士の皆さまに対する嫌がらせで書かれたものでは全然ありません。
むしろこのデータは、司法書士会におけるADRに関与する方々にとって、冷静に検討されるべきでしょう。
でも、さすがにこうした身も蓋もない実情ってのは…ぎりぎりで支部研修ぐらいが、思い切りしゃべれる限界かと考えます。もちろん知り合いの事務所で茶飲み話や呑み会のネタにするには面白い資料なので、明日はこれを持って伊勢市の友人のところにでかけてきます。
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