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猿でもできるかはさておいて

賛成はできないが一読には値する本を、昨日つくばセンターで見つけました。

ただし、あくまでも新本の購入対象としてはおすすめしません。十分流通している中古で購入するか、できるだけ図書館あるいは立ち読みで済ませるべきだと考えます。

さてさて今日とりあげるのは、いろんな街でテレビCMを見かける大型法律事務所の経営者の本。論旨は三点に要約できます。

  1. 我が国の弁護士業界には大きな問題があり
  2. 事務所の生産性が低いなかで膨大な市場が未開拓だから
  3. 事務所のシステム化を進めて依頼をたくさん集めれば儲かるよ

以上♪

と言ってしまえばそれまでで、だからこそ新本での購入には不適なんですが、やっぱり巨大事務所を構築するだけのお方だけあって文章がなかなか読ませてくれます。

それと、この著者何かに苛立ってる気配が伝わってくるような気がするんですが、何に、なのかまでは読み取れません。この人を賞賛する立場ならば旧態依然たる業界秩序に云々、とか言えるだろうし、そうでない立場なら自分の周りの積極的消極的敵対者たちに包囲され続けていることへの苛立ち、ということになるのかもしれません。

 さて、僕はこの本を「賛成はできかねるが来るべき未来の一つ」として読みました。マニュアル化の徹底とパラリーガルの活用で一弁護士あたりの受託可能件数が飛躍的に上昇する可能性があることと、それによる損益分岐点の低下から彼の著書にいう『ゴミ事件』=100万円以下の低額請求事件、でも受任可能なシステムとしての法律事務所が構築でき、それによっていままで紛争解決手段としての弁護士の利用が選べなかった紛争類型が巨大な市場として開けてくる、という点はたしかに一面の真実だ、とは思うのですが…

 待てよ?

 この論理(というより、営業方針)を徹底させると結局法律関係業者間での

 単価の叩き合い

 で終わります。依頼人または補助者が必要事項をすべて入力すれば破産申立書一式が5万円で作れて採算が取れる、とか、裁判事務には関われないはずの●●書士だってシステムの構築さえできればそうしたサービスを…こんどは3万円で提供するようになったり。そんな世界になりそうです。あまり楽しくはなさそうな世界です。

 さらにいえば定型的でない業務はやっぱり見捨てられる→この人の説くところでは、低額の請求の事案はあくまで事業経営として成り立つ場合にのみ取り扱いの対象になるに過ぎない(もちろん、定型的業務を大規模に処理して生まれる余裕は少額で複雑な事案の受託に道を開く可能性を生みますが、この著書をいくら読んでもそうは書いてません)し、なにより著者が主張するサービスの提供主体を依頼人側からみると

やってることはどこでも同じだがとにかく安い(だけの)事務所

としてしか認識されないような気がします。このやり方でホームロイヤーとしての信頼を勝ち取れるのかは…謎です。ただ、資本力と人員が十二分にある状態ならこの本に書いてある論理で市場を席巻することは十二分に可能であり、その点ではやっぱり研究と対策の対象にはしなければならない一冊、だと思います。

なお、この本で純粋に納得というか賛成できるのは第一章です。司法統計より被告代理人に遭遇する比率がいささか高い簡裁での賃金請求事件において、彼ら代理人の振る舞いにはちょっとだけ気になるところがあったのですが…なるほどやっぱり同業者からみてもそう言える面があるのね、と(笑)

なにが書いてあるのかは、立ち読みでもしてみてください。法律関係者への依頼をしたことがない人なら、笑えますから。

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