素朴な疑問 -なんでそうなるの-
まずはじめにリンク先(http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090321/trl0903211857000-n1.htm)をご覧ください。昨年東京地裁で勝訴判決が出た、ファストフード店の名ばかり店長による割増賃金請求訴訟の控訴審が、勝利的和解で終了した、という記事です。おぉそりゃよかったじゃねぇか、と軽い気持ちで読み出したのですが…
第一審と比べて、おそらくは附加金の一部を取り込んだのでしょうか、一審判決よりおおい和解金になっています。しかし!
-以下引用-
和解金で1000万円を受け取ったところで、8人の弁護士費用や組合費、裁判費用に税金を引いたら150万円残るかどうか…。
-引用ここまで-
なぜ!残り850万はどこへ!?
疑問は怒りに変わります。冷静に考えればあまりにもかんたんで、残酷な現実がそこにあります。
まずこの訴訟では過去二年分の請求をかけたはずだから和解金は請求にかかる期間の所得が増加したものとして修正されるに過ぎないので、仮に年収500万円の店長の所得が1000万円になったって所得税+住民税の税率はせいぜい30%のはず。ここでおおざっぱに300万円が税金として取られると考えましょうか。提訴の際に必要な印紙代は請求額の0.5%程度なので切手代を合わせても、本当に必要な実費は数万円。あとは交通費程度です。それに、ここでの和解金がもし一時所得に当たるならば所得から『それを得るのに要した費用』である弁護士費用だの組合費だの裁判費用を軒並み控除した、それこそ150万円+αの部分に対してのみしか課税され得ないことになり、課税額はほぼ無視できる金額、せいぜい数十万円におさまってきます。これは和解金の中に何が混ざっているか(附加金が混じるなら一時所得あるいは雑所得、慰謝料ならば非課税)によるのでなんとも言えませんが、とにかく税金としてはどうみても上限300万円程度、むしろ大した金額は課税されないという考え方が正しいはず。
つまり。
おそらくは『弁護士費用や組合費』に●百万円が、使われた、と。
裁判で勝ち取った金額の少なくとも半分以上が彼らに分配される、と!
なるほどこれでは労働訴訟を戦おうとする人が増えないわけです。
まず間違いなく、今後も増えっこない。
だって完済後の過払い金100万円を代理人に依頼して回収してもらったら代理人の報酬が55万円!だったらそりゃ依頼を躊躇してしまうでしょう?
まして諸経費控除後のお客さまの手取額が15万円だったら?
-だったらいいよそんな手続きなんて、と、僕でも言ってしまいそうです-
少なくともこの勝利的和解の向こうにあるのは、経済的意味での勝利ではありません。それにかかわった組合やら訴訟代理人達がなんと言おうとも。
業界内では冷静に考えれば勝てることが見えきってると言われている(べつにこの手の裁判そのものは珍しくもなんともなく、ただ被告会社が超有名企業であるだけの)訴訟が、なんでそんなに経済的にペイしない営みに仕上がってしまうのか?
僕は理解したくありません。願わくば一生、理解せずに終わりたいものだと思っています。
僕にとっての割増賃金請求訴訟は、労働者がまず経済的に十分に報われる、その上で精神的になにがしかの大事なものを勝ち取っていくべきものだと考えています。今までに僕が受けた労働訴訟では、会社側が破産した二件を除いてそうであった、はずです。請求額が100万円であれ1000万円であれ、専門家の報酬はあくまで回収金額に対する料率で、労働者が受け入れられる一定割合で決定されなければならない、と。たとえその請求額が10万円でも、料率を正しく決定して受託すべきだと。
なーんてことを言ってるからいつまでたっても儲からないんだよ、と言われそうな気がします。しかし明日で司法書士登録5周年を迎えますが、少なくとも労働訴訟で1000万勝ってお客さまのもとに二割とお金が渡らない、などということが業界内秩序として存在しているならば、それは創業何年たっても決して是認してはならないと考えています。
まぁそれに。
ちょっと斜に構えた見方をするならば、上記のニュース記事が広まってくれれば労働訴訟という分野において、『弁護士(あるいは司法書士代理人)を利用しての訴訟』と『当事務所を利用しての本人訴訟』は今後も引き続き、費用対効果の面で十分魅力的な(ただし、一部のお客さまにとって)選択肢として存在し続けるんだろうな、とも思えてきます。
…なら、いいか?このニュースは、斜にかまえて分析してもグッドニュースなのかもしれません。少なくとも僕と僕のお客さまにとっては。
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