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おめでとう、とは言えなくて

 愛知県名古屋市にある当事務所から一番近い裁判所は、当然ながら名古屋簡易・地方・家庭・高等裁判所です。ですが近いわりにはあまりこの裁判所で仕事をした記録がありません。

 その名古屋地方裁判所へ、一年ぶりに訴状を出したのは今年の夏のこと。これが一年ぶりに、奇跡に結びつきます。

 割増賃金支払い請求訴訟を地方裁判所に起こして(つまり、ある程度まとまった請求額の訴訟で)第一回口頭弁論期日で会社側が、こちらの請求額元本全額の支払い義務をみとめていきなり和解で終結してしまったのです。今のところこの現象を経験できたのは二回のみ、当然ながら前回も今回も会社側には訴訟代理人がついています。そして二回とも、名古屋地裁労働部での発生です。

 たとえ労働者側がどんな思いで提訴していても、それが金銭の支払いをもとめる訴訟である以上普通ならまず挨拶代わりに1~2割値切ってくるもの。それをあえてしない、という決断を社長から引き出す説得の冴え、というのはちょっと見てみたいものがあります。前回これをやってくれたのは大阪の弁護士さんでした。今回これを見せてくれたのは東京の弁護士さん。この人たちにかぎらず、大都会の弁護士さんは時折みごとな撤退戦を演じてくれるので、よい勉強になります。

 今回の期日、弁論準備期日ということで僕は例によって廊下で待機することにしていました。ところが。

 書記官氏が裁判官からの言葉を伝えていうことには

「相手側の先生もかまわないと言っているし、原告さんと一緒に話しを聞いたほうが原告さんによさそうだと思えるなら、入ってくださっていいですよ」

 ですと!

 地裁本庁で弁論準備期日で裁判官から同席OKが出たのは初めてです。なぜか地裁支部では割と裁判官側からご招待がかかる(同席せよと言ってくる)一方で本庁ではお願いしてもサラッと断られる対照を示していたのですが、この傾向がどう変わっていくのか非常に興味深いです。

 

 ところで上記のありがたいご発言、僕はこう答えました。

「じゃ、最初は(原告)一人で入ってもらうことにします!それでなにかおかしくなればすぐ対応しますから」

 結果的には申し出を無駄にしたことになるかもしれませんが、このお客さまならそれで大丈夫だし、またそのほうがよいのではないか、と思ったのです。裁判官と差し向かいで話しをする、というのは普通の会社員がそうそう遭遇できる機会ではありません。いつもなら一人で廊下をふらふらしているところ、今日は勤務日ではないのですが、補助者さまもおいでです。彼女にとってはこの事件が、書類作成から訴訟終結までを見届ける最初の労働事案になるのです。

 あくまでも訴訟としてみるならば、客観的にはきれいに終了しているこの事案。ただ、お客さまにとってよかったかどうか、はなかなか判断が難しいところです。あまりにもかんたんに、お金だけで解決(というより、終結)がなされてしまうというのが、よいことなのか?

 もちろん、戦うことそれ自体が目的と化してるようなわからんちんには関わりたくないものですが、思いの深い、素敵なお客さま方にたくさん出会っていると、思うのです。時にはある程度期日が続いて、自分の主張が通っていくさまを見せてあげたほうが、ある種の癒しにつながるのかもしれないな、と。早すぎる和解金給付の実現は、時としてその価値を減じるのではないか、とも。もちろんこの発想にこだわると、裁判所という社会資源の無駄遣いになるので自分ではやりません。ただ、僕が儲からない仕事をある程度快適にこなせる理由は、このあたりの嗜好にあるのかもしれません。

 そんなこんながありまして、今日はお客さまには言えなかったのです。

 

 おめでとうございます、と。

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コメント

お心遣いありがとうございます。
この和解が半年前の時点で出されたものであったならば、このような早い終結に、よい結果とはわかっていながらも何か吹っ切れないものを感じていたか、または和解の提案には応じられなかったかもしれませが、会社がまともな弁護士を雇ったようですし、退社して10ヶ月が経った今、でに新たな道への一歩を踏み出そうとしている私にとっては、過去よりもこれからの将来のほうが大切に思えたため、満足な結果です。

今の私には時間が一番大切です。時間はお金では買えませんから…

鈴木様にお会いして、相談にのって頂き、解決方法をご提案頂いた時点から、会社のことが自分の中で過去のことになり始めたと同時に前向きに考えられるようになった気がします。

鈴木様のような依頼者の気持まで配慮される素敵な司法書士先生に出会えて本当によかったです。
また、ちょうど事務所に入られた優しい補助者様と裁判傍聴からご一緒できたことは、素人の私にとって逆に心強かったです。

今のようなスタンスを大きく変えられることなく続けていかれることを願っています。
そして、私のように困っている方が、少しでも早くこのサイトにたどり着くことを…

 私が初めてお会いしたお客さまで、初めての結末をみせていただいたお客さま、とても素敵な方でした。
そしてその結末にご一緒できたことは、これからの私にとって、深い意味のある時間だったと思っています。
それとともに、この事務所のあり方や先生のスタンスと初めて向き合った時間でもありました。
 おめでとう、ではなくお疲れさま。ではダメなのでしょうか。
これからが、お客さまにとってよりよい方へすすまれることを願う気持ちには、変わりはないと信じてます。


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