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本人訴訟の反対尋問を考える その1

 司法書士の支援を受けた本人と、弁護士を代理人にした相手側との法廷における戦いで、もっとも本人側が危うい状況になるタイミングがあります。(ここでは、地方裁判所そのほか司法書士が持つ簡裁代理権が及ばない訴訟を考えています)

 当事者尋問および証人尋問のときです。

 この局面でだけは、プロフェッショナルの訴訟代理人がもっている『必要で可能なことならば、いつでも何でもできる』機動力を痛感させられます。歩兵と戦車の戦いのようなもので、見通しのよいところで単純に衝突したら歩兵(機動力に欠ける当方)は勝てません。ただこの戦いでは、歩兵を支援する長距離火力(法律の知識と書類作成能力)の持ち主としての司法書士の存在によって、両者の戦力がある条件下で拮抗します。

 さて、では司法書士に援護される本人は、敵側の証人あるいは当事者をどう反対尋問するのがよいのでしょうか?そんなことを考えてみます。

 なかには思い切り見当違いな人もいます。反対尋問を実施しているつもりでひたすら空転しており、やることなすことすべて裁判官にたしなめられてばかり、という控訴審の当事者尋問を傍聴したことがあって、これは僕のお客さまの事案ではなく、僕がお客さまを連れて傍聴に行ったら、たまたまそんな悪い事例を目にすることができたというもの。

 いっぽうで、能力の高い弁護士さんの反対尋問は、時として話芸の域にはいります。敵性証人にも穏やかに話しかけ気分よく陳述を引き出しながら、

 ところで、あなたさきほどはこう言ってたんだけどね

 と言って退路を断ってバッサリ斬るような尋問を、これも僕のお客さまではない事案でみたことがあります。

 僕の場合は、基本はまさに歩兵と戦車の戦闘に類似する作戦計画を立てます。

 お客さまには、とっさの機転や当意即妙の反撃は残念ながら最初から期待しません。念入りに資料を検討し、相手が必ず進んでくる進路周辺に陣地(あらかじめ計画された、尋問の組み合わせ)を構築しておき、相手がそこに入ってくれば(主尋問で言及があれば)迎撃する、という活動を行います。つまり反対尋問実施前の、『どんな尋問をするか』という準備が命になってきます。

 一度だけ、ある人が『(証人尋問が行われたら)私が反対尋問で論破してみせます』と力強く断言したのを聞いてしまったことがありますが、

 そんなもん、プロでも無理です。敵を知らずして己を知らざれば、百戦してなおあやうし。

 考えてみましょう。もしそんなにホイホイと反対尋問が成功してしまうならば、弁護士時代のリンカーンがおこなったとされる反対尋問が業界内で伝説になってるはずもありません。反対尋問がキレイに決まること自体、きわめて難しいことなのです。『だからやらないほうがまし』という言説もあって、それもうなずけます。ヘタな聞き方をするとかえって相手の主張を力づけることになりかねず、現に暴走してこちらの計画を外れ、収拾不能になったり自滅したお客さまもいます。

 概して自己顕示欲が強かったり中途半端に頭の回転がよい人や、訴訟を経験した(つまり、自分で尋問ができると思ってるひと)ことがある人がそうした失敗に走るように思えます。まずいと思ったらさっさと引き上げる、深追いはしないことは大事だと説明しているのですが、そういうところで妙な色気をだす人は確かに存在します。

 まぁこうなってしまうと傍聴席からはなにもできず、弁護士から異議がでるか裁判官に制止されるか証人と口論になるか、さもなくば自分がなにを言ってるのかわからなくなって立ち尽くすかするまで放っておくしかなくなります。さながら現地軍の暴走によって中国大陸での戦線を拡大させられていく戦前の日本のよう、と言ったらオーバーなのでしょうが。

 僕の事務所では、通常訴訟の依頼で尋問の実施にいたるのは、そう多くありません。たいていは、準備書面の応酬で決着がつき、和解にいたります。今日は数ヶ月ぶりに尋問実施の計画を作って送り出したところです。これから何回かで、本人訴訟をたたかう人たちのために反対尋問の話をしてみようと思います。

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