従業員に架空請求する会社
先月は労働紛争での提訴は一件。本年初の地方裁判所事案です。この訴状、当事務所史上空前のカンタンさです。表紙をふくめ、たった三枚の訴状を作りました。~いつもなら本文が10ページあって賃金計算表が25ページあって計算表の解説が2ページあって証拠書類が60枚あって(ってくどい?)、などというのが訴状だと思ってたんですが…三枚!たった三枚!
で、一体なにをやったのか。もちろん労働者が原告で会社が被告です。
債務不存在確認請求訴訟です。
素人さんむけに説明してみます。一般的に知られている訴訟というのは普通は、相手方に『何かしろ』という請求をし、それで勝てれば強制執行してむりやりその『何か』を実現する、という形をとりますね。その『何かしろ』は、たとえば『金を払え』・『建物を明け渡せ』・『登記をしろ』などというような。
このほかに、相手方とのあいだで、あることを『確認する』ことを求める訴訟、というのもあります。ある物の所有権を有していることの確認とか、従業員の地位を有していることの確認とか。敵対当事者とのあいだで権利や法律関係が不安定になっているときには、この確認訴訟で争う実益がある、と言えるでしょう。世の中には、貸しただけの家をオレの家だと言い出したりする借家人もいれば、従業員をいきなりクビだと言い出す社長もいらっしゃいますから。
こうした、訴訟で『確認』を求めることができることがらの中では比較的ポピュラーなのが、『敵対側がなんらか不当な金銭的請求をして来たか、して来る可能性があるときに、そうした請求に応じてお金を払う義務がない=債務が無いことの確認を求める訴訟』すなわち債務不存在確認請求訴訟です。
さてそうすると、お金を払う義務がないことの確認を求める訴訟で勝ったって、あまり良いことはないんじゃないの?と思う人も出てくるかもしれません。確かに、100万円の貸し金返還請求訴訟で勝てば100万円分は、相手の預金を差押えたりしてお金を取ることができますが、100万円の債務不存在確認請求訴訟で勝っても、訴訟費用のせいぜい数万円を除けば相手からはなにも取れません。
で、今回どうしてそんな訴訟をやる気になったのか。
今回敵に回した会社が、従業員に対してありもしない損害の賠償請求をぶつけてきたためです。当初は会社の担当者からの請求だったのですが、しまいには弁護士が代理人について内容証明を放ってきています。
会社の物品を盗んだ、という嫌疑がかかっているらしいんですが、
だったら刑事告訴してみろよ
とこの弁護士サンに言ってはいけないんでしょうかねぇ(嘆息)
当のお客さまには、ぶつけられた内容証明の扱いについて
花見酒の肴にでもしといてください
とは申し上げてあります。
元の会社を辞めたこのお客さまが、業界内で悪い噂を立てられても困るので、今回はきっちり判決まで取ってキレイに勝ってあげないといけません。ですがさすがにこの商売を4年やっていても、本当に弁護士を立てて内容証明を使ってありもしない損害賠償請求をぶつけた会社、というのは初めて見ました。弁護士諸共実名を晒してみたい…というより被害拡大を防ぎたい誘惑にもかられますが、最大の詐欺的事業部門からは撤退したのでさしあたり放っておきましょう。
この外道会社を相手取っての割増賃金支払い請求訴訟をいま準備しており、これは労働者4名請求額1000万円超、ということで結構な枚数の訴状を出すことになります。さらに、1年越しでやってきたある労働訴訟の証人尋問が今月中旬に控えています。そっちの社長もなかなかの人でなしぶりを見せてくれており、裁判所が3月末に提出せよと指示を出した社長本人の陳述書が未だに出てきておりません。そんなこんなで忙しく、本日から2週間、また依頼受付停止となってしまいます。特急・急行料金をお支払いいただけるお客さまと、他事務所からご紹介があって来る特定調停申立のお客さまについては、なんとか依頼を受けることができます。
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