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春の便り 西から南から

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さいたま地裁での傍聴が終わりました。

出張中に、別の遠くのお客さまからいただくお便りを読むのは、格別の感慨があります。さいたま地裁と国立国会図書館に出かけた今日も、隣県南部のお客さまと当ブログの読者さんから、それぞれ嬉しいおたよりをいただきました。

1.移送却下の春が来た!

 ある訴訟を起こすときに、どこの裁判所に起こせるか、はしばしば重要な問題になってきます。原則的には『訴えたい人や会社本店の所在地』なのですが、いくつかの規定によって別の場所に起こせることがあり、そうすると提訴の段階で少しでも自分に有利な、あるいは相手に不利な裁判所を選ぶことはとても重要になってきます。自分が今住んでいて通いやすい裁判所を選んだり、簡易裁判所に起こせる請求額140万円以下の訴訟を、適当な請求をくっつけて140万円を超えさせてわざと地裁労働部に係属させてみたり。逆に、訴えられた段階で訴訟を移送させようとするもくろみを講じることもそれを阻止することも重要な戦術行動です。

 

 で、今回は…

 鳶の曾孫請け(二十代)が伊勢湾岸のA市に住んでおり、こいつが労働者に対する給料未払いをやらかしたため、太平洋岸B市在住のお客さまが原告となって賃金等支払請求訴訟を起こすことにした、という事案。AB両市間は高速道路はなく鉄道は単線非電化、自動車だと3時間はかかる、という距離です。この県は南北に長いので。

 当然ながらこっちは、お客さまの住所地であるB市のB簡易裁判所に提訴します。根拠は民事訴訟法第5条。『(未払い金員支払)義務の履行地』がお客さまの住所地として、B裁判所に訴えを起こすことにしたのです。裁判の期日一回ごとに、いちいち車で一日がかりで行ったり来たりするわけにはいきませんから。

 これに対して相手側は、本案前の答弁として相手に有利なA裁判所への移送を申し立ててきました。

 ~予想も期待もしたとおりに(はあと)

 さっそく移送申立却下をもとめる意見書を出して反撃します。この結果が出たのが今日。裁判所の決定は『本件移送申立を却下する』

 ~予想も期待もしたとおりに(はあと)

 本年初の被移送申立攻防戦は順当ながら当方勝利となったわけですが、今回裁判所側の決定理由を読んだお客さまがおっしゃるには

「オトナを舐めるな、って文章ですね」と。

 この方、なかなかわかっていらっしゃる(笑)

 本案訴訟が始まる前に移送申立を巡って戦うことには事実上のメリットもあって、

  •  決定も一種の司法判断であるため、勝ってしまえば相手側に敗北感を味わわせることができる
  •  裁判所の心証がみえてしまうこともある
  •  当事務所の戦力が、裁判所を納得させるに足る物だと結果で認識してもらえる契機となる。弁護士代理人を向こうに回した場合特に効果甚大。

 そんなふうに僕は考えています。

 ところで今回、移送反対の意見書に一つ、論点になりそうなところを入れておきました。労働基準法第114条の附加金の請求を、この訴訟における約30万円の請求額のうち6千円ほどつけてあるのですが、この附加金の支払い義務の履行地を原告の住所地だ、と言ってみたのです。

 一般に賃金債務は、労働者が会社に取りに行って払ってもらうもの=『取立債務』たる性質があるといわれることがあるのですが、では

 割増賃金は当然ながら賃金の一種だが、労働基準法第37条所定の割増賃金が支払われないことを理由にして同法第114条の規定による附加金の支払いをもとめる訴訟をおこそうとする場合、附加金は取立債務なのか持参債務(債務者が債権者に持っていって支払う債務。支払義務の履行地は、債権者が住んでいるところ、になります)なのか、がよくわからなかったのです。民法の原則では、特に取り決めがないかぎり持参債務なのだと考えてよいのでしょうが、賃金と一緒に支払われることが当然といえば当然だし、そもそも附加金はその性質上、裁判所が支払を命じる判決を出すまでは債権として全然存在しないとも言えるわけで、提訴の時点で存在してない債権の支払義務の履行地を根拠にして訴訟の管轄きめちゃっていいのかしらん?と思っていたのです。

 今回の決定によれば、どうやら裁判所側は『附加金については、民法の原則通り持参債務』という考え方をとりたそうにしています。決定文をお客さまに読み上げてもらっただけなので断言はできませんが。しかも今回は簡易裁判所における移送却下決定ですが、決定書を書いた裁判官は山向こうのC市にある、●地方裁判所C支部の裁判官です。

 つまり…?

 極論すれば附加金請求をくっつけておくことで、訴訟の管轄を原告側有利に操作することができ、しかも今後僕は、自分の手元にある今回の決定書を自分に有利な先例として提出できる…かも(笑)

 2年前に九州の裁判所で、やはり春先に移送申立却下決定をもらって大喜びしたことを思い出しますが、なんだか春先の移送却下は縁起がよいものに思えてきました。


2.『お仕事の依頼ではありません』

 というタイトルのメールをいただいたのは、今度は東西に長い某県の、湖のほとりの街にいらっしゃる、当ブログの読者さんからです。僕もちょうど日曜日に、そちらで散歩を楽しんできたところです。はじめまして!

 ~ですが最初、タイトルから昨今はやりの出会い系サイト勧誘メールと誤断してゴミ箱に直行させそうになったことを告白します(すいませんすいませんすいませんよぉぉ)

 さてさて、聞けばこの方、県労働委員会におつとめだとか。お探しのキーワードについて、あまり役に立つ文章は当ブログ内にはなかったかと記憶しておりますが、お楽しみいただいているようでなによりです。そちらではまだ仕事をしたことはないのですが、南隣の某県労委では一度、あっせんの補佐人に出たことがあります。あっせん期日の冒頭に自己紹介を求められて、

愛知県名古屋市の社会保険労務士司法書士ですずきしんたろうと申します!」と言ったらその場の空気が凍ったことを懐かしく覚えておりますよ(いつか貴県でもやらかしてみたいもんですね)。その後、労側に着いてくれたあっせん員に「M●Z●A労組の執行委員長です」と自己紹介されてこっちが凍ったこともいい思い出です(いや緊張しました~)。

そこでの僕のしごとはあっせん案の成立をめぐるぎりぎりの駆け引きを巡って、労側のあっせん員からの提示を受けてあっせん員の退室後、労側控え室でお客さまを説得することだったのですが、県労委のあっせんは法律関係者の援護がなくても申立しやすく見える反面、あっせん成立に向けてのぎりぎりの葛藤を当事者に強いる最後の局面では『あっせん員ではない、誰か』の説得もまた必要なのではないか、とも感じさせられました。また、本人が直接申立し事案の調査がはじまり電話や書類のやりとりを担当職員さんとおこなう過程で、何より皆さん方の挙措動作で当事者(特に労働者)が一喜一憂してしまう、そんなこともあります。また、成立した和解についてはそのままでは債務名義にならない=ただちに強制執行できない、とはいわれているものの、では絶対にそうなのか、というと一般先取特権(雇用関係。民法306条です)の被担保債権として強制執行を企てる際には、うまくやったら裁判やらずにいきなり会社側の預金を差し押さえる、ということもできなくはありません。

 また、労働局がおこなうあっせんは労基法違反事案を受け付けない不便さをもっており、未払い給料額に争いはないが分割払いで合意だけしたい、とか不当解雇と最終月の賃金未払いがあった際に賃金未払いに関する申立ができない、という間抜けな(ま、個々のお役人に恨みはありませんが、制度としては間抜けだと言わざるを得ません)面が、県労委のあっせんにはそうした縛りがない、という長所もあって、今後もますます期待される分野だと思います。当然ながら殴られないとわからないお馬鹿事業主も多々あって、そうした連中があっせんを蹴ったあと裁判所で彼らと戦うのもわたしの大事な仕事なんですけどね。この記事1.のお客さまは隣県の『ひ●わり基金』の法律事務所に相談を持ち込んで軽くあしらわれたらしく、貴県にもあるゼロワン地域でも同様に漂流している人はいっぱいいると思います。この意味でも労側にあっせん員が一人つけられる(いわば、贅沢ともいえる)あっせん手続は、適切に利用を誘導すれば伸びていく分野でしょう。期日が一回で終わるなら、H市やM市から県庁所在地まで出張ってきたって4回も5回も裁判所に通うよりいい、という人もいるでしょうから。もしあっせんを扱う自主勉強会があるなら、是非拝見したいものです。交通費自腹で(失笑)

県労働委員会、素敵なしごとじゃあり ませんか。僕はそう思いますよ!

2020.12.01修正

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コメント

お返事?ありがとうございます!
労働局のあっせんは、同じ入れ物に監督署がある手前、イロイロ制約がある、という話を聞きますし、労働局で不調になって県労委に流れてきた事案などをみると、労働局の対応では不満だったんだろうな、とお察しすることもあります。何でもアリの労委は、結構凄いな!(自画自賛)と思います。
自主勉強会ではあっせんそのものを研究することはないですが、過去に、公務員の労働関係をめぐる問題(特に臨時嘱託職員)について、少し報告をさせてもらったことがあります。

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