そんな目で見つめないで
そのまなざしを、たとえるならば。
- 想いあってはいるけれどなかなか一線を越えられない若い男女が
- たまたまその日のお酒を過ごして
- 終電の時刻に遅れてしまい、タクシーもない街角で
- 交差点の向こうに、ホテルの明かりが見えて
- 女性のほうから、今晩どうするか尋ねられる…
そんな、と言ったら言い過ぎでしょうか?
曰くありげな目線が、原告代理人席から飛んできます。傍聴席の僕に向かって!
今日で結審するこの裁判、僕は被告側の司法書士、なんですけどね(笑)
裁判官が原告代理人に、弁論終結に際して和解を勧試したときの彼の反応が、上記のもの。とっさに『僕を』見た原告代理人とたっぷり2秒ほどみつめ合ったかと思いましたが、さて壮年男性にあんなに熱く見つめられるとは、思ってもみませんでした。あんまり結構なものではないな、というのが正直なところです。
この訴訟、昨年の提訴以来原告側がまともな和解案を持ってない関係で、いよいよ判決言い渡しになってしまうのですが、現時点で裁判官はまず原告側に、三百数十万からなる金銭的請求を『支払ゼロ』で和解するよう水を向けている、と言う状況。判決の内容も、推して知るべし、と言ったところです。どちらかというと原告本人の柔軟性に問題があるためここまでもつれた、という感があり、今回などは僕のお客さまである被告本人よりむしろ原告代理人のほうが背筋がよく伸びて、なんだか吹っ切れたような態度で…僕に妙なまなざしをぶん投げて来る、というのが印象的でした。
ことほど左様に、というべきでしょうか。一方で先週、この一年半続いてきたある労働訴訟の判決が言い渡されて(こちらは原告側)その判決正本を、お客さまから入手しました。こちらは、就業規則記載の規定をひっくり返そうとしたこちらの主張を認めず、普通の事務所なら請求するであろう最低限のラインの請求+附加金請求の認容という線に落ち着いたのですが、これなんかは和解勧試を蹴りまくった僕のお客さま=原告へのある意味批判になってるのか?と、訴訟費用の負担割合を見つめて考え込んでしまいます。
今回の判決で負けた部分は、
- サービス残業が恒常化している東証一部上場企業某支店にあって、その労働者に対するフレックスタイム制の無効を主張しうるか否か
- この会社にあって、出勤実績から算出される適切な割増賃金に満たない定額制の時間外手当について、基本給の一種と見るか時間外賃金に充当しうるものと評価するか
と言った、まぁ誰がやっても非常に難しい判断が迫られる部分ではあったのです。僕は行けると思ったからそのように訴状を書き準備書面を出して訴訟の維持にあたったのですが、それは及びませんでした。その反面で、休憩時間についてはこちらの記録どおりの主張が通っている、ということで、労働者が任意に記載した記録に基づいて労働時間は認定されている、という事例にはなりました。これだって和解ならともかく判決で主張を通すのは結構難しく、名古屋人なら誰でも知ってる大企業を向こうにまわし弁護士が被告代理人についた状態でここまでやれれば、いまの僕としてはこれが限界なのですが、当のお客さまはどうおっしゃるやら。具体的にはこの事案、元本としての未払賃金約70万円の請求に対して認容額31万円強、附加金請求約66万円の請求に対して認容額31万円強、の判決となりました。金額だけ見れば引き分けなのですが、さっさと和解していればあるいはもっといい結果が見られたのではないか、という思いもあり、裁判官から再三再四にわたってなされた和解勧試を蹴りまくったお客さまに対して、はっきり言えばかなり強烈な反感もあるので、僕から見ればこの判決、いろんな意味で『ちょうどいい』ように思えるのです。よのなかそんなに甘くない、と言ってるような気がして。
司法書士としての創業3年5箇月にしてようやく得られた、当事務所初の附加金請求認容判決のお知らせおよび、当ブログ501件目の記事がこんなもので大変恐縮なのですが、何事も初体験で気持ちよくなりすぎると、あとがおかしくなってしまうような気がします。
それよりはほどほどに失敗、あるいは敗北、あるいは反省する部分があったほうが…あとあと謙虚になれるように思えるのですが、どんなもんでしょう?
僕が本人訴訟を行うお客さまに参考文献として勧めるのは『孫子』なんですが、ちゃんと書いてあるではありませんか。
百戰百勝、非善之善者也、不戰而屈人之兵、善之善者也
と。訴訟をやって必ず完全に勝つのが素晴らしいか、と言えばそうでなく、できうるならば訴訟になるまえにほどほどに折れて解決できるのが最上なのだ、と言われれば、確かにその通り、と承らざるを得ませんよ。
・・・わたし、今晩はいささか酔ってます。ふん!
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