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訴訟費用額確定処分をご存じですか?

昨日は結局、日付が変わったあとに名鉄鳴海まで帰って来れました。一応無事に(失笑)。

今日は久しぶりに、情報提供系の記事を書いてみようと思います。これは平成18年11月13日付『訴訟費用の話をしましょう』および同月14日付『続 訴訟費用の話をしましょう』の続きになるものです。

 さて、先行する二つの記事で、本人訴訟を行う人が負担した『実費』=(弁護士や司法書士への報酬を含まない)狭い意味での訴訟費用を回収するための申立てである『訴訟費用額確定処分』を求める申立てを実際やったという話をあまり聞かないこと、よって当然ながらこれに関する情報も、(インターネット・書籍問わず)あまり多くはないこと・この申立を受託すると公言する事務所が見受けられないことへの問題意識を持っていると書いたのですが、当事務所では先月ようやく訴訟費用額確定の申立てを完結することができました。

この事例をふまえて、今日から二回にわけて訴訟費用額確定の申立書の作り方を本人訴訟ができる普通のひと向けに説明してみたいと思います。


1.本稿の閲覧に適する人

 この記事は以下の条件を全部満たす人向けに書かれています。たぶんこれ以外の人が読んでも無駄です。

  1.  確定判決を得ていること(通常訴訟か少額訴訟かは不問)
  2.  判決主文中で、訴訟費用は敵対当事者側の負担とすることが示されていること(あなたが原告なら、『訴訟費用は被告の負担とする』と判決主文に書いてあること)
  3.  訴訟費用の負担を命じられた敵対側が破産・民事再生等の法的整理に入っておらず、差し押さえるべき財産が把握できること

とまぁ結構虫のいいことが書いてありますが、これから実行を目指す訴訟費用額確定の申立も、郵便切手を予納する実費や書類作成の手間がかかります。人によっては裁判所で書類を閲覧する必要があるでしょう。ですので『仕掛けたら成功する=強制執行によってお金を回収できる』ビジョンがないならば手続そのものが無意味だ、ということです。ただし、実際に訴訟費用を回収するのが目的でなく、別になんらかの思惑をもって手続を行うことが大事だ、というならばそれも確かに発想としてはあり、でしょう。

 なお、訴訟が和解で終わった場合なら大抵は『訴訟費用は各自の負担とする』という条項が入っており、費用を相手に請求できません。また、判決でも『訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その二を被告の負担とする』というような主文が出てくることがあります。この場合には、原被告それぞれの訴訟費用を計算したあと裁判所が示した負担率を掛けて相手に請求できる金額を算出し、相殺して残りがあれば請求できるのですが、それだけやる手間を投入してペイするかどうか慎重に計算する必要があります。


2.手続を行うことが推奨できる人

 上記の要件を満たしていることが必要ですが、では『訴訟費用額確定の申立をしたほうがいい人』はいるのでしょうか?考え方にもよるのですが、いると考えています。たとえば

 ・裁判所への出頭回数が多かった人

 簡易裁判所の訴訟では書類さえ出せば期日に出頭することを必ずしも要しないので、場合によっては被告側はどうでもいいような書面だけ出して欠席しまくり、原告側は遅々として進まない訴訟にいらつきながらもとにかく出席している、ということはあるかもしれません。こうした不均衡が顕著な場合は、訴訟費用が完全に相手側負担でなくても請求を掛けてみたほうがいいかもしれません。また、現行法上当事者の出頭は、期日がたとえ5分で終わっても一回あたり3950円の日当として計算できるため、訴訟費用が相手側の負担ならとにかくこの分も請求したい、という発想は悪くないと思います。

 ・遠方から裁判所への出頭を強いられた人

 当然ながら訴訟の期日が進んでいるあいだに裁判所に行く交通費はすべて自腹なのですが、勝ってしまえば『所定の額を』請求できます。この金額に満足できるかどうかは難しいですが、たとえば大阪から東京の裁判所に何度も出頭してようやく勝った、というような場合には日当が請求できることより自腹を切って出した交通費を補償して欲しい、という要求がまさるかもしれません。

 ・請求金額そのものが少ない人

 先ほど示したように、当事者が期日一回のために裁判所に出頭することによる日当は3950円です。これは請求額にかかわらずおなじなのだから、10万円の請求で完全勝訴しても1000万円の請求で完全勝訴しても、そのために10回裁判所に出頭したら日当は39500円になるのは同じ、です。そうすると、この両者にとって『例示の日当分39500円』の価値は心理的に同じなのかどうか、はかなり難しいものがあります。少額な請求でも、あえて訴訟を起こして回収に努力する人にとっては、一回4000円に満たない日当でもいたずらに捨てるのは惜しい…はずだ、と僕は思います。

 ・細かい請求を捨てられる人

 上で言ってることと逆じゃないか、と思われるかもしれませんが、これも一つの見識です。つまり、請求としてひどくわかりやすい部分のみを抽出して簡単に申立書を作り、あとの部分は捨ててしまう(放棄する)という考え方です。これは単純にひな形を見るだけではわからないのですが、別に『自分の権利を行使しない・過少に行使する』ことは全然かまいません。よって訴訟費用のうち、たとえば収入印紙代だけ請求しておしまいにする、という申立をしてもかまいません。ただ、二度と請求ができなくなることさえ承知して、文句を言わなければ

 そうすると申立書作成は当然ながらひどく楽ちんになってしまい、手間を嫌って申立を全くしないよりは好ましいコストパフォーマンスを得ることができる、それも考え方としてはあり得ます。実務的にもいいことはあって、相手方が訴訟費用を全部負担する場合で、記録上明らかなもののみに基づいて訴訟費用を請求する場合には、相手方に異議があるかどうか催告する必要が無くいきなり訴訟費用額確定処分が出ますので、送達のための切手代を一回分減らすことができますし時間も速くなります。

 ~じつは僕の場合、下記のとおり『地図で測った』距離によって交通費を計算し計上したために、書記官氏が相手方への催告を要する事案と判断し、一手間増えたことを申し添えます。そうまでして守りたかった交通費は500円に満たないもので、掛けた切手代は1040円(失笑)。事例収集のための申立でもあったので今回は構いませんが、切るべきところは切って、わかりやすい部分だけ請求することは確かに大事なのです。

・そのほか鑑定人を呼んだ場合・証人をたくさん呼び日当や交通費を予納した場合・相手側が多人数で特別送達の費用がかさんだ場合、などでは、訴訟費用まできっちり請求するのも悪くないでしょう。これを読んでいる人にはいないと思いますが、ひどく請求額の多い訴訟を起こしてしまい訴え提起の際に多額の収入印紙を貼った人、というのも一応は回収に動くべきかと。ただ、あくまでも『相手側の財産を把握しており、強制執行すれば確保できる』ことが必要条件ですが。


3.じゃ、『訴訟費用額確定処分』って何よ?

 ・・・訴訟費用額確定をする処分です、と言ってもお話にならないのですが、たとえばAさんがB会社に100万円の賃金支払い請求訴訟(いま流行の過払い金請求訴訟でもいいですが)を起こし、100万円の給付判決をもらって『訴訟費用は被告の負担とする』と主文に書かれてあったとします。ならその訴訟費用というぶんのお金を、被告側が自発的に原告側に払ってくれる、などということはまずありません

 ですが、所要の申立をして手続を終えれば『強制執行によって』その訴訟費用を回収することができます。この点では、訴訟費用額確定処分は判決と同じように、『強制執行をスタートさせることが可能な書類』=債務名義になります。よって当然ながら、判決で支払が命じられた金額の支払がない場合には、『判決によって強制執行するのと同時に』訴訟費用額確定処分記載の金額についても、債権差押(給料やら銀行預金・売掛金など)や動産・不動産差押の申立によって請求する(請求債権目録に記載する)ことが可能です。もちろん、なにか金銭の支払いを請求する訴訟を起こされて『原告の請求棄却・訴訟費用は原告負担』の判決が確定した=原告完全敗訴になった場合の被告側、は、訴訟費用額のみを強制執行によって原告側から回収することができます。

さてそうすると、訴訟費用は強制執行によって相手から回収できる、のですが、ならばそれなりの慎重さで決定されないとまずい、ということで裁判所書記官に対して申立を行い、判決によって訴訟費用の『負担割合』が決められているのを受けて『負担金額』を決めるのが訴訟費用額確定処分、という感じに理解すればよいでしょう。基本的には

  • 訴訟費用のうち、相手におっつけることができる『金額』を決めるもので
  • それをネタに強制執行できるが
  • 申し立てないと始まらず、若干カネがかかる
  • 当然ながら、弁護士や司法書士に払った報酬は、ここでは最初っから訴訟費用とは言ってない。

ことを頭にいれておけばよいでしょう。


4.訴訟費用額確定処分申立準備

さて、今日は実際の手続前の説明を済ませて、次回は申立書を作る説明をします。その前に準備が必要です。もしこの記事を読んでいる人がすでに確定判決を得た人なら次のことをはっきりさせておいてください。

  • こちらが裁判所に出した書類一式引っ張り出してください。件数をカウントします。当然ながら、訴状には貼用印紙額・取得した商業登記事項証明書の通数も書いてあるはずです。
  • 口頭弁論・弁論準備期日などで裁判所に出頭した日をすべて書き出してください。わからなければ裁判所で調書を閲覧します。
  • 特に重量が重たい書類を出した心当たりがある人は、その送達に予納郵券をいくら使ったのか、念のため裁判所で確認してもかまいません。ただ、少なめに請求するぶんには別にだれも文句を言わないので、裁判所に行く用事がある人は併せて送達に使った郵券額をチェックしておくとよいでしょう。

  • 交通費を請求したい人だけでよいのですが、以下の検討をしておいてください。

ご自分の住所地を管轄する『簡易裁判所』と、実際に訴訟で出頭した『裁判所の所在地を管轄する、簡易裁判所』が同じかどうか調べてください。出頭した裁判所が簡裁か地裁(はたまた高裁・ありえないけど最高裁)かは、ここでは関係ありません。


4-1.もし両者が同じなら、訴状記載の住所地から実際に出頭した裁判所庁舎までの直線距離を測ります。市街の道路地図など、なるべく大縮尺のものが測定にはよいでしょう。ここでもし、距離が500メートル以内ならば交通費は請求できません。500メートルを超える場合は問題があります。ここでは原則で『一回(往復で)300円』の定額制になっています。

・・・と、すると。極論ですが、

東京都小笠原村を管轄する簡易裁判所は、霞ヶ関の東京簡易裁判所です。東京都特別区を管轄するのも、同じく東京簡易裁判所。

ですので小笠原村にお住まいの原告さんが千代田区の会社を相手取って東京簡裁に出訴し、たとえば三回の口頭弁論期日に出頭して訴訟費用被告負担の判決を得た場合、交通費としては『300×3=900円』が請求できる、ということになります。

あくまでも、原則では

ただし

  1. 出頭のための旅行が通常の経路・方法によるものであって
  2. それと、費用額を明らかにする文書が提出できた場合には

実費を請求できることになっています。つまり上記の設例では、父島-竹島桟橋間の小笠原海運二等船室片道22570円×2、つまり往復45140円の請求は、『実際つかった領収書があれば』することができる、でしょう。なければ300円です(笑)原則通り。

なお、『通常の方法』とは何か、は場合によって、かなり難しい判断を要すると思います。たとえば司法書士代理人が同区間を出張する場合、平成14年廃止前の司法書士報酬額基準では『船は特等を使う』と決まっていましたので、父島-竹芝桟橋間特等運賃片道56490円を請求できそうな気がします。

そこまで行かなくても、複数の交通機関を使える場合、たとえば東京-名古屋間ではどうなのか、高速バスに甘んじるのか新幹線グリーン車が使えるのか、これは正直言って『わかりません』。ただ後日のため、とにかく証拠だけは残しておく必要があります。領収書が一番確実ですが、最近ではICカード式の乗車券カードの利用履歴・磁気カードの券面印字も文書にあたります。とにかく証拠は保存しておきましょう。


4-2.自分の住所地を管轄する簡裁と、実際に出頭した裁判所所在地を管轄する簡裁が『ちがう』場合を考えます。刈谷の人が名古屋に行った場合もそうですし、熊本の人が仙台に行った場合もそうです。

 この場合は、まず両方の『簡易裁判所庁舎』の直線距離を測ります。

 どうやってだっ!

と叫んだ人が複数いるはずです(お友達になりましょう!)。

この辺についてはなにも詳しい規定はありません。石垣簡易裁判所(沖縄県)から稚内簡易裁判所(北海道)に出頭する時の直線距離、ともなると地球の丸さを考慮するかどうかで少しは違ってきそうですがとにかく決まってません(笑)標高600メートル弱あるはずの松本簡易裁判所から数メートル程度のはずの東京簡易裁判所までの標高差はどうするの、などというのもたぶん、誰も考えてはいないはずです。・・・おそらくは、地図上に物差しを当てて、適当にそれらしく測定すればよいのではないでしょうか。僕は片道16kmの距離を5万分の1の地図を使って物差しで測り、それを提出して申立を通しました。

ただし、国土地理院のウェブサイトに二点間の緯度経度から距離を出すページがありますから、まず2万5千分の1の地図を使って庁舎の場所を特定し、両者の緯度経度を出して距離を算出する、というのは悪くない発想だと思います。東京-大阪とか、石垣-稚内のような長距離ならむしろこちらを使った方が正確な値がでそうです。なお、ここでは単位がキロメートルごとになっていますので、999m以下の端数をどうするか、も難しいと言えば難しいのですが、切り捨ててしまうならば常に、間違いはありません。


最後に、本稿執筆の参考文献は司法協会発行・最高裁判所事務総局民事局監修『民事訴訟費用等に関する執務資料』です。国会図書館でOPACの検索をかけたのですが、ヒットしませんでした。何となく立ち読みできる本ではないのですが、東京地裁の地下にも最近おいてないようです。

 この本の14ページに、設例として東京簡裁と松本簡裁の直線距離を『172キロメートル』とする記述があるのですが、これをどうやって測ったか、が正解になりますね。

 続きの記事は28日付『訴訟費用額の確定の申立書を作ってみましょう』です。では、今日はこれまで。


2015.04.18 追記

訴訟費用と訴訟訴訟額確定処分の申立書作成については本人訴訟を完遂された方を中心に関心を持つ方があり、当ブログのいくつかの記事がお役に立っているようです。

東京~大阪間の裁判所を対象に、このたび訴訟費用額確定処分申立書作成だけを受託するサービスをはじめました。

訴訟費用額確定処分申立書作成のページ

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