労働相談の見本 (ある意味での)
※おことわり
この記事は、来週に控えた社会保険労務士の試験をお受けになる方のお茶うけに書いてます。労働相談の何たるか、の一つの理想論あるいは極論として、頭の体操ついでに読み流してください。
ではまずこちらの、質問と回答(OKWave)をごらんください。当ウェブサイトのコンテンツ『ひとりで できるもん!?内容証明』の一ページにリンクが設定されていますが、僕が答えたのではありません。というよりは
僕ならこうは答えませんが(呆)
というはなし、です。ええ、少々あきれてますよワタクシ。
さて、労働者側からみた労働紛争への対処、に関して当事務所は、結構豊富なコンテンツを持っています。これは、営業活動なんかせずに良質のコンテンツを執筆公開することで、検索エンジン経由でお客さまを誘致することを事務所創立当初から狙っているためです。
すると、当然ながらアクセスの増大に比例して『意図しない訪問者・質問者・リンク設定者』が出てきます。簡単に言えば、検索に失敗した人、自分に都合よく書類を作ると思いこむ依頼人、意図を誤解して、あるいは歪曲して引用しながらリンクを付ける人、などなど。
そのなかでも圧倒的破壊力を持ち文字通り最悪の中の最悪なのが、このOKWaveからのリンク設定なのです。当ウェブサイトが昨年、独自ドメイン取得を行ったのは、実は『特定のウェブサイトからのアクセスを拒否できる設定が可能なホスティングサービスに引っ越すためのついで』に過ぎません。そして、そのきっかけになったのがOKWaveからの大量の不良来訪者に業務を妨害されたこと、です。
ここからくる連中のなにがひどいかって、もともとOKWaveのサイト丸ごと『匿名で他人にタダでものを聞いてなんとかしようと思ってる連中』の集まりだから当然といえば当然なのですが、リンクを設定された先の当ウェブサイトでもそれが当然だと思っています。うっかり断ると逆ギレして掲示板を荒らしたり回答不能なメールをしこたま送りつけてきたりなさる。
なかでも強烈にひどいのは、当時この事務所にもあった『無料の相談』を利用して僕にはタダで答えさせて、その回答をOKWaveの回答にそのまま出して自分は回答者として振るまい、しっかりPointをせしめる、なんて横着者にであったこともあります。そんな連中に事務所を潰されかけたのが昨年5月ごろだったでしょうか。その後昨年9月に、これまでのURLを捨てて独自ドメインに移り、1年の平和な時を経て。
またやられました。こんどは解雇予告手当の請求書の書き方、だそうです。
最初にアクセス解析をたどってこの質問と回答にたどり着いたとき、僕は愕然としました。
これが専門家の回答かよ
と。まぁこのさいなので、ブログのネタにさせてもらいます。ただ利用されて終わるほど、こちらもお人好しではありません。
さてこの呑気な質問と安易な回答ですが、素人さんは一見すると「これでいいんじゃないの?」と思うかも知れません。女は解雇予告手当の請求を文書でするにはどうすればいいかと問うています。男はこのリンクを見て書けと言ってます。似合いの二人じゃないか、と。
ハイ。もし当事務所でこんな回答する補助者が出てきたら、即刻クビにします。
理由です。
1.できないことをやれと言っています。
まず回答文冒頭をご覧下さい。本件請求書の作成にあたっては『法違反であることを証明して請求する必要が』あると言っています。どうやらこの回答者、第一球からビーンボールをぶん投げるタイプの御仁です。退場してほしいです。
いったいどうやったら、紛争当事者が紛争発生後に作る紙ッペラに過ぎない催告書(連中は請求書と言ってますが)で、質問者が本件解雇を『証明』できんのかよコラ、と言わねばなりません。さらに言えばそうした証明うんぬんが必要なのは訴訟なりあっせんなりの手続きに移行したあとでよく、請求者が催告書内で根拠条文を摘示するかどうかとは全く別に事実と請求権は存在しますから、わざわざ労基法というコトバを持ち出してあげる必要は『ない』という見解をとっても実は間違いにはなりません。極言すれば単に「いきなり首にされたから給料1ヶ月分カネ払え」と言ったって、解雇の事実と金員の請求とはリンクした形で伝わります。これが一点。
2.質問のレベルの低さを補完しません。
聞いてくる方は素人なんだから、肝心なことを聞いても答えてもいないその内容をどうこういうことはしますまい(明らかに常識に欠けるものは、当事務所でも無視しますが)。ただこの回答では、回答者が『平均賃金の30日分の請求をする。(改行)というあたりは必須でしょう。』と述べてます。
ここで首をかしげるか怒り出すかできなかった社労士受験生の方、もしおいでなら、今から来年の受験を目指されるといいでしょう。
よーく考えてください。質問者は「ワタシ即時解雇されました」なんて一言も言ってません。そんな奴にわざわざ30日分の請求をかけろと言い切る根拠は皆無です。リンク先になった当ウェブサイトのコンテンツでも、「解雇予告手当の正確な計算は」必須だと述べているのですが、この回答者は肝心なこの部分を読めなかったようです。
したがってここでの正解は、淡泊な回答にとどめるなら平均賃金の○日分という記述そのものをしないか、理想的には「実際に解雇になった日と解雇言い渡しの日」を聞いて算出方法を教えるか算出してあげること、です。
3.何が解決なのか、を見ようとしません。
聞かれたことには答えました~ハイ結構です~という態度で当事者ともご満足、ならばいいのかもしれませんが、少なくとも当事務所ではこんな『病気は診るが患者は見ない』的言動はとりません。
そもそもこの質問者がなにがしたいのか、を問うたならまず「催告書の完成」などではなく、(その催告によって支払われるところの)「解雇予告手当相当額の金員の受け取り」であるはずです。これは十中の九まで間違いないところでしょう。すると。ここから先は紛争経験者ならではの世界ですが…
現時点における戦術行動として『文書による催告』は戦略的に至当であるか?
という視点での検討は、言ってみれば依頼人の傭兵兼参謀長たるべき専門家にとって必須のはずです。この催告書の到達によって解雇予告手当の請求意思は会社側に伝わりますから、たとえば予想される反撃として
- 離職票が未交付ならば、離職理由の記載を『自己都合』と偽る。
- または離職票そのものを交付しない。
- 最終支払期の給料を渡さない(労働側への揺さぶりとして、会社側が取りうる戦術です。汚いけど有効)
- 社内で口裏合わせをして労基署対策に走る。
- 倒産予定なので、そのまんま放置。
等々が考えられるのですが、これらの可能性をなんら顧慮することなく漫然と文書で請求をかけても、よほどお人好しを相手取った場合でなければ効果などありません。むしろ自分のお客を地雷原に誘導することになってしまう。社長側は法律どころか常識にも反する行動を取り放題に取れ、こちらはそうでない、という作戦上の制限を前提におけば、単に文書での催告だけしか、というより質問者が聞いてきたことに対する回答しか考えないのは、専門家としてはあきらかに不適切、です。
ついでに言えば、この回答者の言にしたがって漫然と請求をかけ、適当にあしらわれたあとでこの相談者が『なぁんだ 専門家に言われたとおりやったってダメなら、専門家に聞いたってムダじゃん』などと思われたら、専門家の看板を掲げてるこっちも迷惑ってもんです。こちとらお客さまがたに法律と法制度と法律専門職能を信じて頂いて、初めて日々のご飯が食べられるんですからね。
4.参照先の設定も安易です。
さてこのステキな回答者様が当ウェブサイトを発見してくださった過程はアクセス解析で把握しています。時系列で見ます。
- 8月16日22時35分 本件質問公開開始
- 8月17日0時7分 当ウェブサイトに『解雇予告手当 請求書』で検索してきたアクセス発生
- 同日0時10分 本件回答公開開始
この22時35分から0時7分までは、たまたま回答者がリンクを設定したページに他にアクセスがなかったのではっきり見えたのですが、要はこの回答者、適当にググって3位に出てきた僕のコンテンツをざっと見て(その間約3分弱)ちゃっちゃとコメントして公開した、ということのようです。
僕は専門家のはしくれとして、この安易さを軽蔑します。
少なくとも当事務所では、こんな品質の相談なんかやってません。
と、ひとしきり怒って見せたところで笑ってしまうような落ちが付くのですよ。
実はこの回答公開後、すぐにこのリンクをたどってアクセスがありました。2件です。
回答の文面からみてもわかるように『日付が変わったばかりの深夜』にこの質問者本人も回答を見ているはずです。一方でこちらのアクセス解析によれば、回答者が検索をかけてきた0時7分以降朝6時までのアクセスは、リンクを設定されたページへは上記2件だけ。
そのうち1件の来訪者は、2週間前に自力で検索エンジン経由でズバリ、このページにたどり着いていたのです。
検索ワードもそのまんま
『解雇予告手当 請求書』
断言はできないのですが、もし質問者がこいつだったら…
質問者と回答者のレベルは、さまざまな意味でみごとに均衡しているのかもしれません(苦笑)
最後に繰り返しますが、
当事務所では『聞かれたことだけ答えてよしとするような』相談は、やってませんよ。
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