戸籍いじりはあなたもできる その1
11:20 高速バス『からつ号』車内にて
このブログを同業者の方、あるいは司法書士事務所の補助者さんたちが見たら、思うかもしれません。
なんでこの馬鹿、戸籍謄本集めに名古屋から唐津までいくんだ?と。
お説ごもっとも。僕も単純な事案では郵送申請します。
友好的な事務所が近くにあれば、そこに依頼するのもいいでしょう。そんなものが県庁所在地から1時間も2時間もかかるような片田舎にあるならば。
と、いうわけで。言い訳もかねて考えてみましょう。
法定相続人の順位は民法で決まっています。ここで実務上の最大の問題は
○その相続人たちがどこにいるか
の把握に尽きます。『そんなのわかるに決まってんじゃん』と思ってしまう方。呑気でいいですねぇ(ため息)
たとえば、考えてくださいよ。
●一見平和そうな夫婦。
→平和そうなのは見かけだけで(って物騒な…)夫婦どちらかが配偶者の親の養子に入っていたりします。結婚と同時に養子縁組を行った結果、銀婚式が来る頃にはそんなの忘れている、と。
この場合、配偶者の親(つまり養親)が債務超過で死んだら、その債務を相続することになってしまいます。
反対に財産があったらあったで、実の兄弟からすれば養子のおかげで分け前が減って『じゃま』。
もう一ひねり行きましょう。
●一見平和そうな夫婦+子供だが、実は入籍してない、遺言もない、子供はいるけど認知してない、とか。
あたらしい男女関係のスタイルだ、などという考え方もあるのですが、結構なのは当人たちが生きてるあいだだけ、かもしれません。せめて遺言はしておけよ、と言いたいところです。
僕に言わせれば、入籍しないことを漫然と選んでいるだけならかなり困った人、です。ただ、内縁関係には優しい面もある社会保障制度の申し子たる社会保険労務士としては、この面での手当も考えますが。そもそも何をもって内縁と言うべきか、というのは強烈にむずかしいところですし。
この例でもし男のほうが死んだ場合、現時点でのパートナーやその子供にはまったく相続権なし、ということになってしまいます。なにも手当をしておかなければ、ね。
●離婚歴があるひと。
結婚歴そのものがない僕から見ればちょっと理解しがたいのですが、世の中には『複数回結婚できる』つまり結婚と離婚を繰り返せる芸の持ち主(としか、僕には思えん)もいます。
放り出した(あるいは、逃げ出した)前婚の奥さんとのあいだに子供がいる、ということもよくあって、知らない人たちを交えて遺産分割協議などしなければいけません。自然と司法書士があいだに入ることを要請されて、こちらは鬱になります。
なお離婚歴がある人の子供に、その離婚歴を正確に伝えていない、というパターンがあったりして、これもいけません。告知の仕方が難しいことになります。相続ではなく年金でそんな事案がありました。
●親が死亡しており子供もいないが、兄弟は、いるひと
兄弟が相続人になるパターンです。ケチをつければきりがないのですが、これはこれで厄介。
まず戦中戦後の多産な時期に生まれたお方たち。兄弟6人、なんてざらにいます。
これが厄介なのは、死亡者→その親→その兄弟全員、と戸籍を拾わねばならず、死亡者は仙台に、実家は青森に、兄弟は東京と大阪にいる、というのもあり得る展開です。
※ちなみに当事務所がある名古屋では、九州から出てきている中高年の人によく会うのですが、これらはかならず、出生時の本籍地たる九州へ戸籍を郵送あるいは出頭で請求する必要があります。絶対に。
さて、いくら厄介だ厄介だといっても、最終的になんらか財産が(お金になるものが)あるならいいでしょう。
問題なのは債務を残して死なれた場合です。
もちろん、『相続しない』ことは可能です。相続を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の手続きを行えば。限定承認もできなくはないでしょう。
お・こ・な・え・ば、の話です。ここで問題をはらんでくるのです。親の死に目にあえた子供とそうでない子供の間に、一種の不平等が発生しうると考えます。
説例です。夫・妻・長男・次男の家庭で、夫が死亡した、としましょう。
長男と妻は夫の最期を見取りましたが、次男は家をとびだして連絡不能、なら?
しかも夫は多重債務者で、ATMで貸出残高の照会をかけたら6社に500万の借金があった、見るべき財産は100万円の貯金のほかにない、そんな状況だったら?
まず、限定承認=相続財産の限度で死亡した夫の債務を返済し、残りの債務があっても相続しない、この選択肢が消えます。限定承認は法定相続人全員一致でないとできませんから。
相続放棄はどうでしょう?これは一応可能です。相続がはじまったことを知ったあと3ヶ月以内なら。
ならばこの例で長男と妻は相続放棄するのが適切か?ここでもう一ひねり、があります。
単に貸金業者のATMで残高を採っただけなら債務があるように見えますが、近頃はやりの過払い利息があるかもしれません。利息制限法に則って引き直しの計算をしたら、実は過払い金返還請求権、という財産を相続できるのかも。
でも、その計算をするには取引履歴を業者から取り寄せねばならず、なかにはこの開示に1〜2ヶ月かけてくれるところもあります。
すると。仮に死亡後ただちに取引履歴の開示を請求できたとしても(これはごく幸運な例です)、この例における長男と妻が相続放棄をするか否かはかなりな賭け、になってきます。
逆に、所在不明で連絡不能の次男は、たとえば開示請求後結論がでたあとに連絡がつけば、その時点から3ヶ月以内に相続放棄するか否かをきめればよいわけですから、次男に限っては相続するのが財産か債務なのかが見えている、ということになります。
〜連絡がつかないでどこかに行っていた放蕩息子のほうが得をする、という結論です。この例で、最初に夫の死亡を知ってしまった長男&妻が被る事実上の不平等を減らすには、開示請求から所在不明の次男の探索を最速でおこなうことが肝要です。
この説例はあくまで例にすぎませんが、あるパターンでこれにはまっています。これが、僕が800kmの距離を超えて、海の向こうにひろがる街へ−唐津へ来た理由です。
頭をかかえた代書やさんを乗せて、バスはまもなく唐津市街へはいります。
« 今日は『なかたに号』で天神へ | トップページ | 旅の終わりは、仕事の始まり »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 初めての小名浜・久しぶりの横浜(南東北~関東への出張日程が決まりました)(2025.01.21)
- 筋肉痛と腰痛と共に身につける、新案件のワークフロー(2025.01.03)
- 本年最後の誤断(年末年始にゆっくりできると思う方が間違ってた、と大晦日の21時過ぎに気づいた件)(2024.12.31)
- クリスマスイブの夜に行くところ(happy holidaysの不存在確認に関する件)(2024.12.24)
- 憲法など無きものと思え(上告理由としては)(2024.12.08)
コメント