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労働契約の債務不履行解除を研究してみる件

簡裁代理権をとって数年たちましたが…さて。

まさか女性の服のたたみ方で悩むとは思いませんでした。

こんなときに助力がほしい補助者さま(もちろん女性)の出勤日まで待てない作業です。

ごくたまに使う裁判外代理権を、今回は退職時の手続きの監視および実行に使うことにしました。返還すべき貸与品のなかにそうしたものがあり、

…代理権取得どころか事務所始まって以来の作業になった、と(苦笑)

一連の手続きが穏便に進めばそれでよく、そうでなければそれなりに対応する(ええ、それなりに)、そんな作業ですので当然着手金もお値打ちになっております。成功報酬に至っては設定せず、そうであってもかまわないのは別に儲かるご依頼をお受けしたあとだから、という状況です。

請求額の多くないご依頼を他県からどうしても受けたいとき、不動産登記のご依頼と抱き合わせにしてもらえれば交通費の負担なく受託可能にする…そういった仕組みがあってもいいかもしれません。


お話し変わって、表題の件。

ここ一週間で、なぜかおなじ業種で働く人からの労働相談を3件扱うことになりました。

「●●●士って社会の敵なんじゃないですかね。人を数字でしかみないくせに中途半端な法律知識振りかざして、すぐ弁護士だの社労士だのを動員して(労働者に)おかしなことして」と思わず相談室で不穏当なつぶやきを発してみたところです。

そうしたどうしようもない事務所の就業規則の一つが、またどうしようもない退職規定を設けていたのです。

要約。

  • 使用者は一方的に労働者を解雇できる。
  • 労働者は、使用者の許可がなければ退職できない

…許可がなければ退職できない。なるほど?

おそらくそこは「風とともに去りぬ」みたいな世界で、きっと補助者さんたちはプランテーションで綿花の収穫とかやってるに違いありません。記帳代行その他の事務作業が主たる業務であるはずはない、と信じています。

そんな現代版奴隷契約(あ、言っちゃった)を体現する就業規則なんですが、これは単に

  • 「労働者側は、『合意退職したいならば』使用者の許可を求める必要がある」
  • 「労働者側が一方的に雇用契約を解除したい場合の規定は、単に設けられてないだけ。そうした退職を禁止する趣旨ではない

と解釈してあげれば、この欲望むき出しな就業規則の運用も風と共に去りぬの世界から蟹工船か女工哀史の世界ぐらいまでアップデートされるのかもしれません。文明開化の音がしそうです。

期間の定めのない、あとは奴隷制を容認する規定もない雇用契約下での労働者側からの契約解除は民法627条に規定があります。一般常識レベルでは、2週間前に言えよ、というあれです。

別にこの規定だけが使えるわけではない、という議論が広まらないのはなぜなんでしょう?零細事務所の多くに労働基準法が事実上適用されてない(あ、言っちゃった)ことは常識として、民法の規定を見る限り債務不履行に基づく法定解除権を根拠に雇用契約を解除してもいいはずです。

僕の事務所にくる労働相談で一番ありがちなのは賃金不払いです。これなんかは期間を定めて(約定支払日を過ぎた状態での催告なら、あまり猶予期間を設けずに催告して)支払いがなければ債務不履行解除で辞めちゃってOK、そう考えてもいいのではないか、と思えてなりません(雇用保険の特定受給資格者に該当させるために、あえて2ヶ月待ってみるというのももちろんあり得る選択肢ですが)。

ちょっとひねって、継続的なパワーハラスメントはどうなんでしょう?21世紀の、しかも裁判所に持ち込んだ場合の労働法体系のもとでは安全配慮義務違反、つまり債務不履行がある、という評価にはなってます。そうすると?

ちょっとした問題発言を上司が発するごとに「やめてください」と一応つぶやいて=つまり債務不履行を是正するよう催告して、それでもパワハラが続くなら債務不履行解除を宣言するのはあり得るか、をちょっと検討してみたいと思っているところです。

要するに、職場にあるさまざまな継続的問題を理由にして労働者が即時に職場から遁走しうるか、ということではあるのですが。

もう一つ、期待(先行)のサービス、公開の件

「(経営が)うまくいっているときは、一番重要なビジネスに力を入れたほうが良いかもしれないのに、会社は手を広げすぎていることが多い。逆に問題があるときは、収入源を増やすほうが正しいかもしれないのに、一つのことに集中しすぎてしまう」(フリーク・ヴァーミューレン 『ヤバい経営学』64頁)

年度末から4月を過ぎて依頼減少気味の不動産登記、施策のためにコンテンツのリライトを集中的におこなった週末に読んだ本です(苦笑)

「一番重要なビジネスだけに(それで会社が生き延びられるように祈りながら)集中するよりも、新たな収益源を探し、作り出すことに力を注ぐべきだ」(同書同頁)

それがなかなかできないのが世の中小零細企業なんだけどさ、と打鍵に疲れた腕をさすって、散歩に出ます。

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執務室から見える川の堤防を大きく回って、普通に歩けば10分のスーパーまで40分かけて晩ご飯を買いに。

散歩中に骨子を整理した新しいページを、先ほどウェブサイトに追加しました。先日の記事で少し触れた、主に雇用保険を想定した審査請求業務の案内です。

…新たな収益源になるといいのですが

いえ、新たな収益源になるまで事務所がもてばいいのですが…祈りますか(苦笑)

新たなページの追加ではありますが、ご依頼があるたびに対応していた業務ではあります。これを含めて、今までは社労士の業務をあまりアピールしてはいなかったのを少しずつ掘り起こしていくのもいいのかもしれません。

『雇用保険 審査請求』といった検索キーワードでは、いまのところ有力な競合になる同業者さんのページは出てきません。主に役所その他の情報が出てくるので、たぶん『雇用保険 審査請求 費用』などと検索されたとたんにいい順位で出てくるはずだ、と期待はしています。

ただ、検索エンジン対策としてページの下部に『雇用保険・健康保険 審査請求に関するお尋ね』として質問回答形式の情報を加えました。閲覧者への情報提供の形式はとっていますが、検索されたい言葉をたくさん盛り込むためだというのは当然このブログのなかでだけ言っていいことです。

できればこのページ『雇用保険 審査請求』で上位10位以内に出てくることが理想です。

雇用保険・健康保険 被保険者資格取得/喪失に関する審査請求受託の件

これまで積極的にアピールしてこなかった上記の社会保険労務士業務について、来月早々に新しいページを作ろうと思います。

まず検索エンジンに引っかかるように、もっともらしいタイトルを設定したブログの記事を出してみるのは、素直に検索されるものなのかを試すためです。いまのところ「雇用保険 被保険者資格 審査請求」といったキーワードでは社労士さんのページはあまりヒットせず、依頼費用を探せるウェブサイトの発見はさらに困難です。

ある程度景気がよくなってもこの面で取り残される方がいそうだ、と最近同時に複数の相談をもらって気づいたのが、このサービスの標榜を開始することにした直接の理由です。

昔からある問題意識としては開業の…というより社労士受験のさらに前、僕がどうしようもない調査士行政書士事務所に入ってしまったとき、従業員一名とはいえフルタイムなのに雇用保険になど入れてもらえなかった、という個人的怨恨じみたもの(笑)もあったりはします。

例によって、儲からなさそうです。

主に想定しているのは非正規従業員の雇用保険被保険者資格取得から懈怠している・取得していても気分次第で手続きをサボる=パートさんを雇用保険に入れない出さない告げない、そんなパターンです。

審査請求が通っても3ヶ月分二十数万円の雇用保険失業給付が出るだけ、といったところでしょうか。

もう一つは零細企業の正社員にしばしば見られる嫌がらせの定番、離職の理由に見解の相違(ウソ、とおっしゃる方もいます)がみられる、そういうパターンへの対抗です。

どうしようもない事業主が労働者を指して「あいつは懲戒解雇にしてやった」と職安の窓口で言い放つだけで離職理由に関する異議申立に対して調査不能になるような世界に安住している職安も職安なんですが、こうした妨害の排除には基本的に労働審判手続申立を併用することになろうかと考えています。

あちらの手続きで懲戒解雇の無効を確認してから審査請求のほうに結果を持ってくる、そんなかたちにならざるを得ないかな、と。

こちらも儲からなさそうです。上記の想定では給付制限期間ががなくなるほか、僕のところで一般的な在職期間10年以下の相談では60~90日ぶんの給付が増えればいいな、と。

こちらはどうでしょう。基本手当の日額上限にも影響されますから、30~70万円程度の増加があればいいな、といったところでしょうか。

なるほど、これは障害年金に取り組んだほうが(以下、品位を害しかねないので自粛)

もう一つは社会保険の被保険者資格です。

入社時に1ヶ月分遅らせ、退社時に1ヶ月分早め、差額の2ヶ月分をポッケに入れた、という会社を見たことがあります。

…これなんかは審査請求というより、請求額数万円ではありますが不当利得返還請求訴訟を起こすかもしれません。

冗談はさておいて。得られる成果がこのくらい、ということで例によって報酬設定が難しいところです。

審査請求本体で2~5万円程度、事業主側の妨害を除去するために労働審判手続きを要するならさらに5万円程度を加えるくらいが限界でしょうか。一部を成果実現時の後払いにする必要は当然ありそう、というよりそうしないと誰も相手にしてくれなさそうです。

問題はこの相談が、司法書士ができる法律相談=民事法律扶助制度による法律相談援助の利用を可とするか否か、です。

労災保険を巡っては、思いっきり蹴られた記憶があります。

この部分はしばらくあいまいにして、あれこれ試してみたほうがいいかもしれません。

10月の数字(裁判所の数字を少し)

今週風邪になってよかった、と言ってみる。

来週、出張だから(苦笑)

ここ一週間ほど睡眠多め仕事少なめに過ごしておりました。いっそ敵側代理人に感染しますように、と邪念を込めて(←ウソ)残業代請求訴訟の準備書面を一つ送り出したのが月曜日、ようやく空咳もなくなってきたのは昨日、水曜日のことです。

相談室から見える東の丘が、いつの間にやら秋らしい色になってきました。

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さて、数字をとおして労働紛争をめぐる諸制度の実情をのぞいてみるお話、今日は裁判所のそれを見てみましょう。

データの出所は当事務所、つまり僕と補助者さまが例年この時期に調べている開廷表調査です。調査方針は別のブログの記事に書きました。簡単にいうと『名古屋の地裁・簡裁・高裁の開廷表から、労働関係訴訟とわかる事件名等を毎年一定期間ピックアップしてみた』というもの。

この生データが7年前から251件ありまして、表計算ソフトのデータベース機能をあれこれ使って件数を整理してみます。

そんな本記事で想定する読者は…かなり少ないはずです。具体的には

『裁判手続の利用を視野においた労働相談を行う方』(そんな読者いないって?)


では。まず件数の推移。直近3年では簡裁横ばい、地裁減少、のようです。

以下は10月の調査で発見できた件数ですが、平成27年だけ調査期間2週間、26・28年は1ヶ月です。27年の件数をおおざっぱに二倍していただければ傾向が見えるでしょうか。

_____簡裁  地裁

  • 26年 9件 24件
  • 27年 6件 11件 (調査期間2週間)
  • 28年 9件 16件

決して小さな裁判所ではない名古屋簡裁でも一ヶ月に労働関係訴訟が10件ない、ただこの傾向は変わってない、と認識しておけばよさそうです。地裁の減少は気になりますね。

事件名を読む限り、簡裁では特定の類型の事件が増えた・減ったということではないようです。

数年まえの士業向けコンサル業者のセミナーで見かけた残業代バブル(笑)はどこへ行ったでしょうか?

少なくとも残業代のみを請求しているとわかる事件名はここ3年で簡裁は0件、地裁は7件。件数の推移は

  • 26年 5件
  • 27年 1件(調査期間2週間)
  • 28年 1件

…残業代バブルは、無かったのです。少なくとも名古屋では。

ここ数年で生えてきた『残業代請求専門』の同業者事務所を僕がこのブログで笑いのネタとしてしか扱わないのは、連中が上記の通り事件数の傾向とは関係なく、単にまとまった請求が立ちそうな分野だけ切り出したいのが見え見えだから、です。まさに過払いのときとおなじ、ということで。


どんな事件が多く係属しているか、その関心は高いはずですが、地裁・高裁でその調査は困難です。

訴訟代理人が複数の請求をまとめたうえで事件名として一番主になりそうなものをつけてしまうため、事件名のみで集計したこの調査は『主な事件の類型』でしかありません。そう思ってください。

ここからは、過去7年分のデータを使います。

事件名からみる主な類型 簡裁(全56件)

  • 賃金または給料 45件
  • 解雇予告手当 7件
  • 残業代 2件

簡裁での労働事件は8割方が賃金請求だ、と考えればよいでしょう。

したがって、実務家としてはこの分野がわかれば簡裁労働事件は8割方対処できる、と
(↑会社側準備書面によくある詭弁です!)

賃金請求については、簡裁備え付けの定型訴状の事件名とおなじ『未払賃金』が31件あります。定型訴状の利用が相当数あると推測します。

上記の結果は、訴額が少ないという理由だけで残業代請求訴訟を簡裁に持ち込みたくないよな、という思惑を裏付けるものでもあります。残業代に限らず、労働関係で変わった分野・非定型的な請求の訴訟を簡裁に持ち込むのは避けたいな、と。

裁判官側の経験にも注目すれば、そう言わざるをえません。ただし地方の独立簡裁で、最寄りの地裁支部から填補されてくる裁判官が簡裁にいるような場合には逆に安心だったりします。

事件名からみる主な類型 地裁(全134件)

  • 地位確認 39件
  • 賃金または給料 27件
  • 残業代 22件
  • 退職金 7件
  • 解雇予告手当 3件
  • 解雇を除く懲戒処分の無効確認 3件
  • 損害賠償 26件

3割強が地位確認=解雇や雇い止めの無効を主張するもの、あとは賃金・残業代・損害賠償が20%程度を占めている、ということなのですが、なぜか残業代だけがここ2年間で減っています。

一部の事件類型で重複が生じています。このほか5件、企業側原告、労働側被告とするものがありました。


本人訴訟

地裁・高裁では代理人の有無がわかります。代理人欄に記載がないものを本人訴訟と考えてみましょう。

地裁本人訴訟(全134件)

  • 原告が労働者側で、代理人がいないもの 21件
  • 被告が使用者側で、代理人がいないもの 26件

少々意外な印象を受けたのですが、労働者側が訴えを起こし使用者側が受けて立つ労働訴訟では、使用者側に代理人がつかないものが労働者側より少し多いようです。

高裁本人訴訟(全44件)

_______________労働者側 使用者側

  • 控訴人で代理人がいないもの   8件  1件
  • 被控訴人で代理人がいないもの  1件  3件

地裁の、つまり第一審での割合でそのまま上がってきているわけではありません。

控訴人=つまり地裁の判決に不服がある、はっきり言ってしまえば負けた側で労働側本人訴訟が顕著に多い、と読むなら当事務所のような本人訴訟支援型の事務所には好ましいデータではない、ということになるのですが…

もう一つ、別の読み方があります。

事件名からしてあきらかに妙ちきりんな、当然ながら代理人がついていない訴訟、というのを地裁でちょくちょく見かけます。

こういう請求をかける人は、たいていの場合実務家の助言をきかなかったり解任したりして孤立状態で本人訴訟を進め、和解もできず、順当に敗北します。

その敗北を認められずに控訴してさらに負ける人、というのも傍聴で見かけるものでして、こうした『ダメな集団』も高裁での観測結果に混じっていると僕は推測します。

地裁本人訴訟の原告でご自分の正しさを確信してらっしゃるような方にはちょっと気をつけて読んでほしいデータですが、そういう人はだいたいこんな細かい検討なんかしません(笑)

ひょっとしたら、第一審の使用者被告側で本人訴訟が多く見えるのは、企業が破綻しているなどで欠席判決が出る訴訟があるからかもしれません。

このデータはちょっとショッキングではありますが、これを根拠にして労働者側が上手に負けを認められず経営側がいくらかましだ、とは言い切れないとは思います。立場上、そう思いたいです。

…あ、でも。

僕のところの本人訴訟は上記のデータと全然違うので、それを売りにしてみるとか(笑)


冗談はさておいて。もう一つ不思議なデータがあります。『損害賠償請求』訴訟の行方、とでもいうべきでしょうか。

地裁の労働訴訟でこの名前の訴訟は、労災での安全配慮義務違反や最近ではパワハラ等の慰謝料の請求など、さまざまな非定型的な請求を含むものです。この件数なんですが

『損害賠償請求』を含む訴訟の件数

  • 地裁 26件(うち、損害賠償 24件)
  • 高裁 4件(うち、損害賠償 1件)

カッコ内に入れたのは、正しく『損害賠償請求』だけが事件名であるもの。損害賠償請求等、とか、地位確認および損害賠償請求とするようなものは地裁2件高裁3件あったと考えてください。

地裁では2割程度を占める類型であるはずの『損害賠償請求』事件が控訴される件数・割合が妙に少ないように思えます。

判決に納得して終わったのか和解で押しつぶされて消えたのか、それは推測すらできませんがこの類型の労働訴訟では控訴される実情が顕著に少ない、ということは覚えておいていいかもしれません。

司法書士からみた『あっせん』の数字

急ぎの相談やら呑気な出張やらで延び延びになっていた三つ前の記事でお知らせしていた『制度の数字』を考えてみる企画、その一件目をお送りします。

今回は都道府県労働局があつかう『あっせん』の数字をみてみましょう。
労基署経由でなんとなく推奨されてしまう(相談者が制度の存在に触れやすい)ことと申立が無料であるという点で大きなメリットを持つように見えるこの制度、実際にはどのように機能しているのでしょうか?

よりはっきり言ってしまえば、この申立によって取れる解決金に、相場のようなものはあるのでしょうか?

そうした数字を読み取る手がかりになるのが以前の記事で指摘した、労働政策研究・研修機構の報告書『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』です。

これは在野の研究者には絶対できない研究で、4つの労働局・4つの地方裁判所で2012年(平成24年)に終結したあっせん申立と労働審判・通常訴訟の全件の記録について、請求額と内容・申立人の賃金額・解決金等を統計化したものです。
労働審判・通常訴訟については、金銭以外の請求=地位確認請求に代表される事案のみを調査の対象としており、通常訴訟は和解が成立したものだけが調査対象です。

ごくかんたんに要約すると、『不当解雇事案でいくら取れるか』まぁそういった、相談室レベルで直面する関心に対して一番まともなデータを提供しうる統計だと考えましょう。この報告書自体が、平成24年の事件を調査して平成27年に出されていますのでこれより新しい研究の存在は現時点で期待できません。

では、その数字をまず同報告書86~87ページから読み取ってみましょう。各制度における、解決金の中央値(平均値ではなく、データを小から大にむかって並べた真ん中の値)は

  • あっせん 15万6400円
  • 労働審判 110万0000円
  • 通常訴訟和解 230万1357円

もうこの先詳しく考える必要がないくらいの大差ですが(苦笑)

これは、あっせんの制度がチープなだけだというより『無料・本人申立・短期での終結(不成立を含む終結)』といった一応の使いやすさを持つ関係で『女性・非正規・低賃金』の属性を持つ労働者が利用している、という面があります。

申立人の賃金月額の中央値は

  • あっせん 19万1000円
  • 労働審判 26万4222円
  • 通常訴訟和解 30万0894円

となっており、制度が重厚長大であるほど利用者の月収も高い、ということができます。

※まぁ、労働審判やら通常訴訟を本人訴訟でやる人はまだ1割未満にとどまっている点、一方であっせんを選ぶ人は8割以上が代理人をつけない(後述)を比べれば、労働審判と通常訴訟には『弁護士の利用とその費用』が事実上、あたりまえのものとして織り込まれていると考えなければなりません。

言ってしまえば『金が出せる奴が出したなりの結果にたどり着く』そういうものだ、という身もふたもない現実があります。

逆にこのことは、会社側の不当性が高い事案でしかも正社員の方があえて『あっせん』を選ぶメリットは、入り口の入りやすさ=本人申立が中心の実情があり申立手数料がかからないこと、以外にはほぼないことを示します。

-あ、今日の記事は社労士さんからするとかなり目障りなものに仕上がっています-

上記の解決金を、申立人の賃金月額との比で示したもののほうが相場感としてはわかりやすくなります。中央値は

  • あっせん 賃金月額の1.1ヶ月分
  • 労働審判 同 4.4ヶ月分
  • 通常訴訟和解 同 6.8ヶ月分

賃金月額との比率で見ても、あっせんと労働審判との間には大きな断絶があります。

もちろん通常訴訟にしたほうが高い解決金額に至る可能性がありますが、ほとんどの解雇事案で復職不可な実情を考慮すると、解決まで年単位で引っ張ってせいぜい数ヶ月分の積み増しをゲットすることがいいことかどうかは不明、ではあります。着手金を2回払った場合、労働審判への異議を経て通常訴訟に巻き込まれた労働者は上記の増額分の多くを代理人の費用で費消させられる可能性もあるでしょう。

ちょっと不純な考え方をすると、上記の数値を見れば不当解雇への対処として、一件あたり2~3ヶ月で終われるわりに解決金もまぁまぁ取れる労働審判は、職業代理人からするとオイシイ方針選択になるのはあまりにも明らかなのです(苦笑)

どうしてこんなに差があくのか、特にあっせん対労働審判で。

この部分は推測にとどまりますが、研究者によれば「相手方に逃げられるリスク」(87ページ)のぶんだけ金額がさがる=あっせんの場合はかんたんに不合意で終了できるため、多めな請求を突きつけたって逃げられるだけだという現実をみればその場で妥協せざるを得なくなる一方、労働審判や訴訟は最終的に判決につながるため、こうした逃げられるリスクが低い、ということが挙げられています。

これはおそらく現時点では正しい推測で、今後は別の要素が入ってくると僕は考えます。

過ぎ去りし過払いバブル全盛期の、中小金融業者の対応を考えてみましょう。

彼らの場合は追求されれば逃げられない立場にありながら、不屈の闘志でとにかく値切り、ヘタレな代理人からはかなり好条件な和解(過払い債権の放棄や支払時期の繰り延べ)を勝ち取っていたはずです。

つまり、手続きと代理人の能力・態度に関する実情がある程度広まった時点で、『ヘタレな敵対当事者からは値切る』という振る舞いが一般化した場合、当事者や代理人の意志が弱いことが相手に伝わりやすい事案や手続きではより解決金額が下がってくる、ということになるでしょう。

つまり、過払いバブル崩壊のあとでこの市場に参入したことが見え見えの全国系大手法人が代理人になる労働審判の解決金がまず下がる、とそういう予報です(笑)

冗談はさておいて。上記のような水準の解決金という実情はあるとして、申立の際に求めている金額はどのようになっているのでしょうか。請求額の中央値(同報告書37~38・40ページ)は、金額と月収に対する比率で

  • あっせん 60万円(3.3ヶ月分)
  • 労働審判 260万円(9.9ヶ月分)
  • 通常訴訟和解 528万6333円(16.7ヶ月分)

ただこの数値、労働審判と通常訴訟では注意する必要があります。研究者がここに気づいていなかった可能性があるのですが、両手続きの申立の価額の算定にあたって金銭に換算できないものは制度上、160万円とみなすことになります。

ですので、これら二つの申立で不当解雇を争おうとした場合、申立書に記載される申立の価額の最低額はかならず160万円になります。一方であっせんでは、単に申立人がほしい金額を申立書に書ける、という点での差も混じっていると考えなければなりません。

ちなみに、この調査ではあっせんについて解決金額300万円以上の事例がない一方、請求額として300万~2000万円以上は約12%ある、とされています。申立書に書いてみるだけならタダですから別にどうということもありませんが、非現実的だと考えねばなりません。

上記に加えて、2012年の調査ではあっせんの申立が合意成立となった(つまり、申立人側からみてなんらかの目的を達した)のは38%、相手方が不参加とした=門前払いになったものが39%、参加はあったが不合意になったのが16%ということで実に6割以上は申立人側からみて何ら得るところなく終わっている、そうした実情があります。(同報告書24ページ)

…そんなわけで、ここ数年あっせん申立の利用をおすすめせずに来た当事務所ではありますが。

ひょっとしたら、ちょっと違う接し方があるかもしれない、と思えてきたのです。

僕はこれまで、司法書士は法律相談で正社員の不当解雇事案を扱えないと思ってきました。理由としては、司法書士の法律相談の範囲は簡裁での手続きに限定されているところ、地位確認請求は金銭換算不可=地裁事案→したがって法律相談不可、であると。

実際に、不当解雇事案で労働者側の究極の目的は「復職なんざするつもりもないが解決金はほしい」という場合、労働審判で地位確認請求(申立の価額は最低160万円)を一応して、実情をわかりきった裁判所側から解決金の提案が来るのを待つ(つまり、労働審判手続申立書には『解決金をくれ』なんて書かない)というのがそこそこの解決金をそこそこの費用と期間で実現する最も確実な方針になります。つまり『司法書士が法律相談できる範囲でない』と。

たとえ、最終的には解決金30万円がほしいだけである月収8万円のパートさんの不当解雇事案でもそうだ、と。

これに対して、あっせんの申立ではどうなんでしょう?

こちらには申立手数料という概念がありません。したがって申立の価額がどうこう、という規定がないことに注意する必要があります。

では、実際に申立書上で請求されている金額はというと、あっせんでは平均値が約170万、第3四分位数が150万円とされています。

ぶっ飛んだ請求をするごく少数人のおかげで平均が異常に高いのですが、この連中を無視すれば申立件数の約75%は150万円以下の金銭上の請求におさまっている、のです。


…140万円の上限に拘束されてるどこかの士業が…という言い方はやめましょう。

申し立て方針を『あっせん』における金銭請求に限定する限り、不当解雇事案の相談も司法書士が扱える、ということになりかねません。

※これはあくまで私見です。この見解によることを推奨するものでもありません。


つまるところ、あっせんに関与できるのは特定社労士だけじゃない…のではないか、そういう考えに至ったわけです。

別にこう言ったって、そりゃ特定社労士さんたちは気分が悪いでしょうがさしたる実害もない、というデータもあります。

あっせんでの、社労士代理人の関与率(同報告書31ページ)。

  • 労働者側 0.6%
  • 使用者側 5.3%
  • 労使双方 0.1%

だったら労働側で参入したって別にいいでしょう、それだけ空いてるなら(遠い目)弁護士の関与率もおなじくらいです。

巷にある特定社労士のウェブサイトを上記のような観点からみるとまたかなり寒い実情が見えてくる、ということになりかねません。実際にはあっせんの手続きに、ほとんど関与してない、ということになるわけですから。

正直言ってこの部分にも、衝撃をうけました。特に労働側、少なすぎ(笑)

ただ、あっせん申立への司法書士の参入があり得るとしても、解決金の少なさは関与の形態に大きく影響を与えると考えます。

この申立で得られる解決金はせいぜいが十万円台~数十万円が実情だと考えると、代理人になるより、あっせん申立書だけシンプルに作ってあげる、というのが妥当なのではないでしょうか。どうせ詳細精密な申立書をつくったって、会社側が不参加にすれば一巻の終わり、ですからね。

より野心的に考えれば、法律相談援助のついで(簡易援助)で作れる程度のものでもいいかもしれません。これも一つの極論ですが、法律扶助の相談3回やるあいだに本人が申立書を完成させてしまう、という程度のものでもよいように思えます。

上記のとおり身もふたもない実情=数字を受け入れたうえで、そこそこの費用負担(というより、法律相談援助を連打して申立書の作成を支援するなら労働者側の費用ゼロ)で低レベルな解決が得られるか試せるならそれでいい、というならこのあっせんという申立は、実は司法書士に向いてるのかもしれません。

別に社労士が悪い、というわけではないのですが、あっせんにおける解決金の低さを前提とすると、彼らが公費で無料相談ができないのは致命的な使い勝手の悪さにつながらざるを得ないと思うのです。

残念ながら、この制度への関与が社労士業界に広まることは今後もないでしょう。

社労士があっせん代理で完全成功報酬制の報酬体系をとることも、当然あり得ない(解決金が低いということは、報酬も当然低い→やる気しない、という判断は当然でしょう)し、最低着手金3万円…でも、厳しそうです。

なにしろ申立の6割以上が申立書の中身の善し悪しにかかわらず蹴散らされてることは、すでに統計上あきらかなのですから。

むしろこの点をよく説明して受任しないと、相談過誤責任を問われると考えます。

しかし、実情としてはあっせんの申立を推奨するウェブサイトに、上記の大弱点をちゃんと指摘しているところはほとんど無いようです。これは誠実ではありません。

そんなわけで、世の中が大きく変わって社労士が民事法律扶助みたいな制度にタッチできない限り、あっせんの支援には司法書士が向いていそうだし、そうやって社労士業界の領域に割り込んだって良心の呵責を感じる必要もないだろう、と考えた次第です。

自分でも…実に意外に思える結論でしたが。

制度の数字(または、労働紛争における不都合な真実)の把握と共有に関する件

先日、謝絶にした問い合わせ。労働者側からです。

  • 入社後まもなく解雇になった、と。
  • ついては会社に●00万円ほど請求できると考えてるがどうか、と。

倒れそうになるのを我慢して「当事務所ではそうした相談で10万円を超えて請求を実現した事例がありません」とだけ返信したことであります。
テキストメールだったので上記の部分を赤い字や四倍角にできなかったのが残念です。

どうしてこんなファンタジーを着想できたのか、あれこれ検索したらいくつかのウェブサイトがヒットしてきました。『不当解雇 慰謝料 相場』でググった最上位(本記事公開現在)に出てくるそのサイトでは、曰く『不当解雇の一般的な慰謝料は50万~100万』であると。

倒れそうになるのを我慢しないと読めないそのウェブサイト、実は当事務所の給料未払に関するコンテンツを丸ごとパクったうえに、理解できなかったらしい部分だけ削除して意味不明な文章に仕上げて公開した前歴があります。

おそらくはクラウドソーシングか何かで素人が書いた(か、パクった)ゴミのようなコンテンツをたくさん買い集め、ろくすっぽ編集も校閲もせずに公開している…が、情報量は多いからコンテンツマーケティングの役には十分立ってるわけです。

で、そのWebマーケティング会社、労働問題のほかにも離婚・相続税・交通事故・相続・刑事事件・債権回収・債務整理といった分野でそうしたゴミコンテンツを順調に増やしています。各所で間違いだらけの。同業者の皆様には、間違い探しと思って見ると楽しめるかもしれません。

で、そんなサイトでもアクセスさえ集めることができれば、自力でコンテンツを持てない士業の方が広告を出稿する、それらのサイトはそういうつくりです。

見方を変えると、労働者側代理人がそのサイトに出稿してるのを見た場合、そいつの能力をある程度疑っていいのではないか、むしろそうした方向で役に立つウェブサイトなのかもしれません。

さて、では実際にはどうか、というと。結構な本が昨年出ました。すでに当事務所のもう一つのブログでは昨年紹介しており、ほぼ一年経ったところでこちらでもご紹介しましょう。

過去10年の判例雑誌に収録された440件の事案を整理したという同書によれば、収録されている89件の解雇事案で慰謝料請求が一部でも通ったものは33件。

そう、たとえ5万円でも10万円でも、一部請求認容、と考える…プロの用語で『請求が認容された』のが、33件です。

  • 慰謝料の相場は50万から100万♪無料相談はサイト掲載の優秀な弁護士へ!という見た目は綺麗なウェブサイトと
  • 慰謝料請求?3分の2が蹴散らされてますが何か?と有料相談で遠い目をしながら参考文献を投げ出す代書人と

どっちを信じたくなるかといえば…そりゃ断然、前者です(苦笑)

なんだか当事務所が流行らない構造的な理由にもたどりついてしまっていますが、それはさておいて。

もう少し、信頼のおける統計や研究から、定量的な数字を示して相談者の誤解や幻想を打破する態勢を整えたほうがよさそうです。

ブログでは、これまでにも検察統計から『労基法違反で書類送検されたって3分の2は不起訴』などと身もふたもない情報を記事にしたりしていましたが、これはお話のネタにとどめるのではなく、労働者の意思決定に影響を与える情報として扱わないといけないような気がしてきました。

当事務所のウェブサイトには毎日、『給料未払 刑事告訴』などというキーワードで検索してくる方がいるのです。

それ無理。違うから。

と彼らが正しく把握するようなコンテンツを持ちたいな、と考えています。きっとこうしたファンタジー(給料不払い状態を作った経営者を警察がしょっ引いてくれるような)を妄想している人、おそらくはこうした都合のいい妄想が吹き飛ばされて現実に直面するタイミングが悪ければ、そこで泣き寝入りに走りかねません。送信フォームからの問い合わせの段階で、そうした方もときおり謝絶にしています。

あ、やっぱり当事務所が流行らない構造的な理由にもたどりついてしまっていますが、それはさておいて。

手始めに、労働政策研究・研修機構が出してる報告書を借りてきました。PDFでも手に入れることができるそれは、『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』です。

次回の記事ではここから、興味深い数字をいくつか選んでみようと思います。その数字が誰にとって不都合な真実であるかはさておき、自分でもちょっと意外な結論にたどり着くことができました。

その一件のシェア(開廷表調査1週間目)

ここ2年ほど、名古屋簡易裁判所における労働関係訴訟(事件名からそれとわかる、労働紛争に関する訴訟)は一週間あたり2件程度にとどまっています。同じ事業主が被告になる事案が同時期に出てくれば件数ベースでは若干増える、そんな感じ。

今年も開廷表調査をはじめました。その1週間目は、簡裁では2件の未払賃金請求訴訟を確認したのみです。で、その2件の被告が同じ。そうすると?

件数ベースではおおざっぱに年間100件、事業主の数を基準にすればもう少し少ないこうした事案があるとすれば、新たな1件の提訴で1%のシェアが獲得できることになるわけで(笑)

先頃めずらしく僕が訴訟代理人になる訴状を簡裁に出してきた僕としては、そうしたことを考えずにはいられません。きっと登記事件数のシェアが絶望的に低いことへの反動です。

一方で、ブラック企業がこれだけ社会問題化してきたのに簡裁民事訴訟という分野ではもう全然事件数の増加に影響していない…ひょっとしたら、簡裁民事訴訟全体の件数の減少とペースを併せて収縮しているかもしれない、そんな現実にちょっと焦る、そんな状況ではあります。

極論ですが、社労士が労働事件の簡裁代理ができるようになったらここが増える、なんてもう全然考えてません。あっせん申し立てに関する関与状況の統計データを見てれば代理人になれる有資格者を増やせば代理人をつけて申し立てられる事件が自動的に増えるわけじゃないことはよくわかります。

一昨年ごろまで九州北部で問題になってた、社労士による労働審判手続申し立ての『サポート』みたいに、合法であれ非合法であれ関与したけりゃ関与してしまう、という一面を一部の社労士が持ってるとすれば、そうした社労士が簡裁民事訴訟のサポートを大々的に扱わないのは連中にとっても美味しくない市場だからに決まってます。

誰々を何々の手続きで新しく代理人にできるようにすれば云々、という論理構成だけならすでに●●書士が使って破綻してる、と労働関係訴訟に限っては言えるでしょう。

もっとひどいのかもしれません。
ひょっとしたら、10年前よりも人は民事紛争の解決を訴訟やら(地裁以上の審級では、訴訟と半自動的にくっついてくる)弁護士やらによって行うことを避けるようになってしまっているのでしょうか?ここ数年の訴訟事件数の減少は、もう過払いバブルの終焉だけでは説明できない気がします。

少なくとも、過払いバブルの時期にあれだけ訴訟があった=一般の消費者が訴訟や訴訟代理人と関わる機会を持ったことは、まさに一過性の現象で終わったようにも思えてなりません。

ひょっとしたら裁判所や訴訟に関与する職業の人たち(僕も含めて)は、バブルに踊る過程でこうした利用者から悪印象を持たれた、とか?

…であれば司法書士も弁護士も、溶け崩れる市場の上でむなしいポジショントークのぶつけ合いをしてる、ということになってしまいます。元裁判官側からこの可能性について指摘が出てきている(紛争解決手段としての民事訴訟が、市民から選好されない傾向が出てきている)ことにもう一度注目しなければいけません。

実は地裁でも、労働関係訴訟の期日が開廷表に出ない=傍聴可能な期日が設定されない日が2日出てきています。地裁以上の審級では労働訴訟の件数は減ってきた、ということかもしれません。名古屋ほどの大都市にあっても、裁判所にぷらっとでかけてこうした訴訟の傍聴やってくる、ということができない、と考えたほうがいいでしょう。

いまのところ地裁では水曜日に合議事件の、木・金曜日に単独事件の期日が入りそう、ということでこれはもう3週間調べて傍聴の要領を説明するコンテンツに反映させる予定です。一般企業が被告になる訴訟(労災補償等の不支給処分取消など、国が被告になる訴訟を除いた労働関係訴訟)は今週、ニュースになった1件を含んで6件の期日が入っていました。

うち2件が、原告本人訴訟。被告には代理人がついています。原告側に代理人あり/被告側本人訴訟なのは1件。

こうした割合の変化にも興味があります。

ただ、当事務所にくるお問い合わせを見ているかぎり本人訴訟とそれを希望する人のレベルはこのところ二極分化が激しく、労働事件・そうでない事件にかかわらず関与をためらわれるほうが多くなってきた印象があります。

これは、労働訴訟にあっても多すぎる情報とそれをちゃんと自分のものにできる人なのかどうかに影響されているはずです。

今夏から僕のところでも経営側での関与をウェブ上で標榜する方向に舵をきったため、原告側=労働側で仕掛ける訴訟の内容を研究して、どんな態度をとるか決められます。応援するにせよ問題視するにせよ、ある程度まとまった件数の訴訟記録を閲覧してみたいところです。

労働側でも経営側でもいいから、少しは健全に労働関係本人訴訟が育つようになにかできないか…とか言いながら。

いろんな人の検閲に備えて『司法書士は地裁裁判書類の作成において、独自の法的判断で書類を作れないこと』をお断りしておくページをどんどん増やしているヘタレな自分がいます(苦笑)

自分のデータが入らないように(第8次開廷表調査準備の件)

明日から10月。過ごしやすくお天気のいい季節がやってきます。

だから、というわけではありませんが例年この時期に、名古屋簡裁・地裁・高裁の開廷表調査をしています。第8次となる今年は、調査期間を一ヶ月とることにしました。偶数次の調査で1ヶ月~4週間、奇数次の調査では2週間のパターンができてきています。

さてこの調査、とってもアナログな手法でおこないます。用もないのに毎日裁判所に通い、裁判所ロビーに出てる開廷表から労働関係事件を探し、見つけたら事件番号&当事者名with代理人名をメモってくる、というもの。

…お馬鹿なことでも続けてみるもので、訴訟記録が破棄されてないここ5年分だけでもコンスタントに100件を大きく超えるデータを集積できています。これをアップデートするのがいつもの目的。

加えて昨年は…残業代バブルは実はなかった(笑)ということを確認する、という目的もありました。

今年の関心は、簡裁訴訟代理(特に労働事件)への弁護士の進出状況です。

司法統計によればあの人たち、簡裁訴訟全体では司法書士と違って関与の件数を減らしていません。なにやら下値抵抗力が強い相場を見ているようです。

司法書士の訴訟代理件数はここ数年、ほぼ過払い訴訟の消長に従って伸びたり縮んだりしてるようにみえるのに。

…あの人たちが意外とまじめだったのか、単に地裁以上の活躍の場が狭まってるだけなのかは不明です。ただ、割合によれば20%ほどのシェアは持っている、ということで、簡裁で10件の訴訟記録を閲覧したら1件出てくる可能性は相当高い、と思えます。

※簡裁の開廷表には代理人名が出ないため、代理人の有無を知りたければ時間を合わせて傍聴に行くか、訴訟記録を閲覧するしかありません

そんなわけで、まずは件数が集まらないと閲覧にも適しないのですが、代理人の就任状況にも興味があります。例年名古屋簡裁では、1週間あたり2~3件くらいしか労働関係訴訟が検出できないのでこの件数そのものがどう変わっているか、も興味深いところです。

ところで。こうしたデータそのものは他庁での開廷表から引いてきたものと合わせて250件ほどあるわけですよ。

事務所としての関与件数が多い代理人ランキングはすぐできるのですが、これは実際にその訴訟を担当してる方と単にボスとして一番上に名前があるから開廷表に名前が載ってるだけの方が違うはずなのであまり意味がありません。

手持ちのデータにしたがって閲覧できる訴訟記録を全件閲覧かけたら、事務所あるいは代理人ごとの勝訴率が出せるのでしょうが…これは世の中によっぽど恨みがある時でなければ公開してはいけない不都合な真実、いえ研究テーマです。

あとはこれ、裁判所外の公開データと突合するとどうなるんだろう?

たとえば登記情報提供サービスの法人のデータをつかって

  • 賃金請求訴訟の被告になった企業の5年生存率

とか出せるんでしょうか(汗)業界団体の名簿と突合すれば、訴訟代理人のも(だからそれはダメだって)

世の中には定期的に会社設立→給料不払い→会社休眠または廃業を繰り返す方もいるようです。調査費用がふんだんに使えるなら、被告になった会社の登記情報を片っ端から取得して代表者名を調べ、それをつかって東京商工リサーチのtsr-van2で代表者名から企業を検索することでこうした廃業リピーターと彼らが次々に設立した会社も見えてくるかもしれません。

そうした何に使えるかわからないデータに自分のお客さまの案件を入れたくないという(←勝手な)理由もありまして、今回の調査期間は10月3日~31日としています。

そう、順当に行くと11月に口頭弁論期日がくる案件が僕のところにひとつあるのです。

特定受給資格者へのグラデーション

昨日・今日、名古屋はいいお天気になりました。法務局に登記済の書類を取りに行き、県立図書館に本を返す途中で裁判所に立ち寄ってみます。

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司法書士が個人を訴えてる報酬請求事件の口頭弁論期日が、簡裁で設定されています。

傍聴してみたくなりましたが見ないふりをするべきだとは思います。

でもその事務所、大阪にあってヤミ金対応に注力しておられる…ずいぶん強気な写真が印象的なウェブサイトをお持ちのあの事務所さんです。ウェブ担を兼任する僕としては作りたくない傾向のサイトを持っておられるその先生、戦う対象が県外の、しかも元顧客に向いちゃった経緯にはちょっと興味がありますね(苦笑)

報酬なら持参債務になるはずだから、事務所最寄りの簡裁に引っ張り寄せて提訴することは当然できたはずなのにそれをしない理由に、特に関心があります。

あえてこれをやる場合もあります。元依頼人がなんらかのタイミングで転居し、これを理由に報酬の請求を免れられると誤信しているような場合に

  • 転居してもちゃんと住所調べられるし、提訴して訴訟を維持できるから

ということをわかりやすく示すために原則通り、被告の住所地に提訴するのは悪くありません。依頼受託の際に契約書をちゃんと作っていれば、その契約書で(債権保全のため)元依頼人の住民票を取ることはふつうにできます。

裏技というほどのこともないのですが、相手が住民票記載の住所地に住んでいないが別のどこかへ郵便物の転送はかかってるみたいだ、ということもあります。

この場合、何らか特別送達がかかる法的手続きをとったあと、その送達記録を自分で閲覧すれば相手の居所(正確には、そいつが届け出た郵便物転送先)は分かります。●●士照会なんかしなくたって(笑)

前置きが長すぎました(こちらのほうが参考になる、という方もいらっしゃるかもしれませんが)。

今日は本来の目的と異なる使い方ができる手続きとしての、労働審判の話をするつもりだったのです。

先日のお客さまからの報告。特定受給資格者になることができた、とのことです。

つまり、ふつうに退職届を出して自己都合で退職しながら給付制限がかからず、解雇とおなじ給付日数の雇用保険失業給付を受けられる立場になられた、と。まぁ、おめでとうというべきです。

特定受給資格者になることができた理由はよくある長時間労働です。一般的には退職前の3ヶ月間、45時間の時間外労働が発生していることが特定受給資格者に該当する理由の一つとされています。

さらに通達では賃金計算期間で上記の月を区切ること、有給休暇を取ったなどで必然的に残業が無い期間を持つ場合はこの期間を評価から外すことなどが定められています。

あと、時間外労働は法定時間外労働のことだ、とも。

今回、お客さまにとって最大の問題は、契約所定の時間外だが1日8時間に満たない労働時間=法内残業を含めて月45時間の時間外労働時間を確保しているが、法定時間外労働だけでは月45時間に満たない月が3ヶ月中、1ヶ月あることでした。

これについて、まず残業代そのものは労働審判手続申立で支払を求めます。

平行して職安には、念のために離職理由に異議を出しておいてもらいます。当初は退職理由が自己都合であったが、実際には時間外労働過多が理由である、と。

どこかの地裁の労働審判(ええ、どことはいいません/たとえば東京地裁も一期日で終わるのが好きそうですし、大阪はもうちょっと柔軟ですが一期日で終わる可能性を常に探ってます)が決まって一期日で終わりたがる実情は、今回はプラスに作用します。

職安での離職理由を巡る判断が保留(頓挫とか対処不能などという言葉を用いるべきではないでしょう。それを見込んで行動してますから)されているあいだに、先に労働審判での結論が何か出る、というより出せるためです。

今回は労働審判で、会社は時間外労働時間数のだいたいを認めて労働者は金額面では譲歩、それと会社側が職安に対して、離職理由については労働審判手続申立書添付の時間外労働時間の計算表(って、僕が作ったやつ)を提出して特定受給資格者に該当するか否かの判断を職安にゆだねる、という合意(調停)が成立しました。

こうした合意を成立させるべき法的根拠はありません。言ってしまえば、その場のノリと勢い、言ったもん勝ちの世界です。

ですが上記の通り、離職理由変更をめぐって会社側に雇用保険手続きに協力させる合意が…成り立ちました。

その後。

職安でもなにか不思議なことがあったようで、あえて内容をぼかしますがこの方は特定受給資格者にしてしまう、という判断がでたのだそうです。

これは毎回狙って実現できるわけではありません。もちろん、法定時間外労働時間が本当に45時間超過しており、これが連続3ヶ月揃っていれば使用者側が何を言っても労働審判を経て確実に特定受給資格者の立場にたどり着けます。

今回は『法定時間外労働が45時間に達しない月がある』場合でも大丈夫だった、というところが特殊です。

このほか、雇用保険被保険者の資格の得喪や離職理由を巡る紛争と労働審判とは結構相性がいい、そんな印象を持っています。

くだらない理由でできもしない懲戒解雇をしたと言い張る馬鹿な社長を蹴散らすだけならまさに一回の期日でなんとかなり、そうしたくだらない理由が見えているなら(お客さまにその旨告げるかどうかはさておいて)解雇無効の判断が出ることに、なんの心配もいりません。司法書士としては内心で解雇の成否を見切って粛々と書類作成を受託すればよいだけのことです。

会社によってはたまにごまかす退職日(過早に離職したことにし、主に社会保険料支払義務を免れる)を、勤務記録などから正しい退職日に数日だけずらすことも労働審判で可能です。どうしても健保の任意継続被保険者になりたいとか、ぎりぎりで雇用保険被保険者期間を満たさない可能性がある人をなんとかするのにも労働審判が使えます。

こうした情報を整理してコンテンツにしたいなぁ、と思っているのですが時間がない、というのは僕が無能な証拠です。

いっそ事業者向けのコンサルティングフィーをふんだくれないかなぁ、50万も取れれば一ヶ月執筆に専念できるのに(笑)、などと思いつつ、今日もやってきた古い悪い友人からの相談メールを眺めています。


※つぎの東京出張は6月22・23日です。22日の出張相談枠はふさがりました。23日は午後に一件、国会図書館で対応可能です。

当事務所では労働紛争・裁判書類作成・労働保険および社会保険・失敗しそうなマンション投資とその手じまい方等のご相談を、司法書士・社労士・ファイナンシャルプランナーとして…お待ちしております。初回の出張相談は事業者側であっても2時間税込み5400円です。

昔は過払い、いま残業代請求、そんな事務所の見抜き方

今日は当ブログにたまたまたどり着いた、残業代請求その他労働紛争の相談先をお探しの方々にお話ししましょう。

同時に、一部の同業者さんが気を悪くされるであろう記事ですが…事務所の方向性を迷走させると痕跡は残るもの、そんな話です。

さて、過払いバブル崩壊後の業務分野の一つとして司法書士やら弁護士が未払い残業代請求の分野に参入しだしたのはここ3~4年のことです。

依頼先を探す側がそうした新規参入事務所をふるいにかける方法は、まずウェブサイトを落ち着いて眺めることです。労働紛争ではまさに残業代請求しか扱っていない、それ以外の紛争類型に言及するページがないというのが典型的で、そうした事務所では残業代請求は労働者の権利だと権利意識をあおりながら基本給の未払いに対してどうするかの説明が皆無だったりします。

そうした事務所が5年前に何をやって儲けようとしていたかを推測することは、過去のウェブサイトの閲覧から可能です。

これを実現するのがインターネット・アーカイブで(Wikipediaの説明)、その事務所のドメインを入力すれば過去のウェブサイトの内容とその変化を見ることができます。

…で。

はっきり言ってしまえば、いま事務所のトップページに残業代云々といってる名古屋市内の士業の事務所の大部分(司法書士に限れば9割以上でしょう)は、5年前にはそんなトピックス一行も扱ってなかった、ということも実はわかってしまう、まぁそういうことになります。

ためしにインターネット・アーカイブで『daishoyasan.jp』を入れて検索してみます。

僕のサイトの記録は2005年末から不定期に保存されており、補助者さまがいまだに懐かしがる(下記のサイトの方が現行のサイトよりトップページの一覧性、ひいてはサイト全体の可用性に優れていた、と)5年前のトップページでは

Photo

つい最近事務所の文字情報からあらかた消し去った『無料法律相談』の文字がファーストビューに入るよう配慮されていたことがわかります。

ええ、僕にも節操はないのですが(苦笑)、それでも給料未払い事案を扱っていたことはわかる、というわけです。

他の事務所さんの来歴も、当然知ることができます。

労働紛争では比較的コンテンツ量が多く、同業者さんなら誰でも知ってる全国系大手事務所のウェブサイト成立時期をみてみましょう。

2

ここは成立後約3年であれだけのサイトを作って依頼誘致に成功しているわけです。一般消費者の方に対して、これをいい悪いとはいいません。

それは過払いの時と同じです。きれいなサイト、繰り返し流されるCM、きらびやかな大事務所が好きな人は依頼して…成功すればいいですね(遠い目)、というだけです。

官報がオンライン全文検索できるようになって破産歴が昭和20年代から丸わかりになってしまったときも恐ろしい世の中がきたものだと思ったのですが、事務所経営上はむしろこちらのほうが厄介かもしれませんね。

実はこの一年で、少し気になっていた同業者さんのブログが相次いで消えました。

お一人は死亡された、もう一人は廃業後の情報がはいってこない、という状況です。

そうした、今は直接見られないサイトやコンテンツであってもURLがわかっていれば読み直すことができるかもしれない、そうしたお話でもあります。

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