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事例紹介:少額で利用可能な遺産分割調停について(審判書)

前回記事に続き、中山間地域で売却価格や評価額の高くない土地の相続登記を促進するために遺産分割調停を使った事例の紹介です。この紹介にはお客さまの許可を得ています。

以下、審判書は関係者の氏名等を伏せ字にし、価格などの金額については事案の性質を失わない程度の改変をしています。改変箇所には下線を付しました。


第1 審判書

主文

1 当事者双方は,①被相続人の相続関係が別紙相続人関係図のとおりであること,
②別紙遺産目録記載の財産が被相続人の遺産であることをそれぞれ確認の上,これを次のとおり分割する。

(1)申立人は,別紙遺産目録記載の土地を単独取得する。
(2)相手方らは,いずれも遺産を取得しない。

2 当事者全員は,これまでに負担した別紙遺産目録記載の土地の固定資産税及び同土地上に存在した建物の解体費用について,他の相続人にその負担を求めないこととする。

3 当事者全員は,以上をもって,別紙遺産目録記載の被相続人の遺産に関する紛争を一切解決したものとし,本件に関し,当事者間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。

4 手続費用は各自の負担とする。

理由

1 本件申立ての趣旨は,被相続人の遺産の分割を求めるというものである。

2 本件の相続関係は,別紙相続人関係図のとおりである。

3 別紙遺産目録記載の土地(以下「本件土地」という。)が被相続人の遺産であり,その評価としては,固定資産評価額と同額の75万8104円と評価するのを相当と認める。

4 本件土地上には,かつて被相続人所有の建物が存在していたものであるところ,同建物は,老朽化が進んだこともあり,自治体の指導を受け,平成27年12月に取り壊された。その解体工事費用約130万円は,申立人,相手方d,相手方e,相手方f及び相手方gが負担している。また,本件土地の固定資産税については,現在,申立人において納付している。

5 遺産分割の方法について,申立人は,本件土地を単独取得すること,代わりに,本件土地の固定資産税及び本件土地上に存在した建物の解体費用については,他の相続人に分担を求めないことを希望している。他方で,相手方らは,いずれも本件調停期日に出頭しないが,当裁判所に提出された回答書によれば,いずれも遺産の取得を希望せず,自己の相続分は放棄したいと述べている。

6 以上の事情によれば,申立人の希望するとおり,申立人に本件土地を取得させ,相手方らは遺産を取得しないとの内容により,被相続人の遺産を分割し,併せて,本件土地の固定資産税及び本件土地上に存在した建物の解体費用の負担についても,現在の負担者から他の相続人に対して負担を求めないとの形で清算することが相当である。このようにしても,申立人以外に本件土地の取得を希望する者がいないこと,相手方d,相手方e,相手方f及び相手方gにおいては,本件土地の固定資産税に係る分担義務を免れ,相手方h,相手方i及び相手方Yにおいては,これに加えて建物解体費用の分担義務を免れることに照らせば,当事者間の公平を欠くことにはならない。

したがって,家事事件手続法284条1項により,主文記載の内容で調停に代わる審判をすることが相当であると認め,調停委員会を組織する家事調停委員2名の意見を聴いた上,当事者双方のために衡平を考慮し,一切の事情を考慮して,主文のとおり審判する。

日付・裁判所名・裁判官名


第2 所感

…うまく行き過ぎました(笑)

狙って実現した結果ではありますが、家庭裁判所ってところもなかなかいいな、と思わされたところです。

第3 相続登記と費用(審判書による相続登記 合計32120円

③司法書士報酬 税込合計28600円

  1. 評価証明書取得代行 3000円
  2. 所有権移転登記申請書作成 20000円
  3. 登記申請代理 3000円

④実費 合計3520円

  1.  郵送料 520円(依頼人宅への書類返送のため)
  2.  登録免許税 3000円(評価額75万8千円の0.4%の額)

調停申立を経て調停成立あるいは審判確定となった場合の相続登記はずいぶん楽です。

戸籍謄本類は登記申請時には添付不要です。つまり遺産分割調停申し立てで提出したものが返ってこなくても実害はありません。

被相続人の登記上の住所と死亡時の住所は審判書に示されているため被相続人の住民票の除票も不要、当然ながら遺産分割協議書や各相続人の印鑑証明書は一切不要、ということになっています。このため、本事例で審判確定後の相続登記における添付書類は

審判書+確定証明書(登記原因証明情報)、Xの住民票、本件土地の評価証明書、司法書士への委任状

のみとなりました。相続関係図が審判書に綴りこまれているため、相続関係説明図も不要です。祖父A→父B→依頼人Xという順で相続が発生していますが、この審判書を使えば相続登記は1回でできるのは同内容の遺産分割協議が裁判外で成立したときとおなじです。

このため相続登記の費用も安く済みました。

結果、前回記事(遺産分割調停申立書作成・添付書類収集)まで含めた相続登記完了までの実費込み総費用は11万1830円となりました。

内訳は次のとおりです。

司法書士報酬

①遺産分割調停申し立てまで 43200円
③相続登記申請 28600円

実費

②遺産分割調停申し立てまで 36510円
④相続登記申請 3520円

このうち土地価格に比例するのは④(相続登記の登録免許税。本事例では実際とは少し数値を変えており、評価額75万円余という設定で計算するとこうなります)、相手方その他の関係者数により増加するのは②(本事例では相手方7人分の予納郵券・30通の戸籍除籍謄本類を含む添付書類収集費用)です。

ただ、前回記事に出した僕が起案している『申立ての実情』はあれだけで6枚に達したので、次回以降の受託では枚数に応じて司法書士報酬を加算するかもしれません。当事務所報酬額基準でも2ページ分、1万2千円は加算可能だったようです。

僕の場合、やる気スイッチが入ってしまうと書類作成枚数カウントスイッチが切れることがたまにあるのです(苦笑)

第4 注意点と寸評

本事例は『売却価格や評価額が安い』不動産の相続を巡る紛争を『その不動産に関して投入した費用(家屋解体費用)が土地売却で期待できる売却金額を超える』状況下で解決できたものです。

ただ、本事例の考え方は管理に手間を要したり価値の低い山林が遺産分割協議不成立→相続未登記になった状況を解決するのにも有用と考えます。

上記審判書の内容を当ブログのいつもの表現で要約すると

『申立人が自腹切って赤字で終わるんだし、ほかにこの土地が欲しい人もいないみたいだし、だったら申立人がタダで相続しちゃっていいことにするから後はちゃんと売ってしまえよ』

ということになります。常識に合致する妥当な結論というほかありません。

しかし、遺産分割調停申立書を作成・代理する人によっては、土地の相続と土地上にあった建物の解体費用負担はまったく別の話だ、と判断して申立書に盛りこまない、という判断もありえます。

仮にこの土地上にあって解体された建物が、祖父Aではなく父Bが建てたものならこの遺産分割調停申立に経緯を取り込んでC側に費用負担を押しつけることはまずムリです。

今回の申立では『もともと祖父が住んだ建物なんだから祖父の遺産だ・それを町から指摘されてやむを得ず解体した以上、遺産に関して発生した費用なのだから祖父のすべての相続人が負担すべきだ(が、父以降の世代がこの家に住むことができた利益に関してはまぁ黙っておくことにしよう)』という内容だったから上記の結論になったと考えねばなりません。

※ただ、相手方に僕みたいな人がついて上記の観点で反撃されたとしても『父以降の世代が居住開始した時点で建物は十分古かったわけだから、居住によって得られる利益も少ないし、そもそもこの建物が空いたからC側が住む、という可能性もなかった』とか再反論を企てるとは思います。

いずれにせよ、僕が絶対の自信があって遺産分割調停申立書を完成させたわけではありません。

相談から申立までに内心ではあれこれ考えたが使わずに済んだ反論や論理構成は、いくつもあったのです。このことは、適当な検索エンジンからやってきてこのブログにたどり着き、同様類似の事案が見つかったと嬉しくなってしまった軽はずみな方には気をつけてほしいと思います。

司法書士の職能上の限界として僕の判断は自由に外に出せない=家裁の調停申立事案で自由に法的判断を示したり方針を推奨する法律相談ができない関係上、いろいろ考えはしていますが当事務所への依頼により適切な選択肢にすぐに楽に導く、ということもできません。

お客さまにはゆっくりお話いただいて、いまどうなっていて今後どうなったらいいか…を十分よくお話しいただく必要があり、まぁそれに何時間かはかかります。

その結果この人じゃ本人訴訟はムリ、と僕が判断すれば採算割れが明白なのに弁護士の利用を推奨することもあるかもしれません。

ただ、誰が本人訴訟に向かないか、について老若男女職歴学歴は関係ないようです。東京六大学クラスの学歴持った男女が時折ポロッと脱落していくのを見ることがあります。

そうした代書人の事務所ではありますが、今後もこうした中山間地域で価値が高くない不動産の遺産分割未了・相続未登記案件でなにかできるかもしれない(そして、それはお客さま次第だ)というお話しでした。

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