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【要経過観察】養子縁組あっせん業者代表者が始める訴状作成サービスに関する件

先ごろ完成した裁判書類には、ちょっとした工夫をほどこしました。

いったん通常通りの品質で文案を作成し、そこからスペックダウンさせて完成案としたのです。

例によって補助者さまにはご活躍いただいています。

『どうやったら(この書類が)素人っぽく見られるか?』についての意見を求め、できれば「敵対当事者が落涙して非を改めアッと言う間に請求が実現できるような書面にしてほしい」と頼んだのですが、彼女即答して曰く

-(下書きに)書かれてる通りにしかできません-

…あ、ごめんなさい。要求過剰でした(泣)

そんなあれやこれやの作業を経てやっとできあがるのが裁判書類だと思っていたのですが、いよいよ来るべきものがきたようです。表題の件。

当ブログの継続的読者の方はご存じかもしれませんが、僕はクラウドソーシングの『ランサーズ』に出てくる案件を長期的に観察しています。週末に入ってきたのがこのメールです。

Photo

法教育のチラシは別にどうでもいいとして(各県弁護士会が発注者である募集、同サイトでは時折見ます)、問題なのは上から2番目。直接リンクを貼っておきます。

メールを見た瞬間に想像できた内容通りだったのですが、ご同業の皆さまにはこのアプリ、簡裁で配っている定型訴状をテンプレート化してデータを入力させ訴状を完成させよう、というものだそうです。

実現すれば日本初、『このアプリが活躍するころには街中から弁護士事務所がつぶれて消えていくことになるでしょう。』(上記URL内の説明から引用)と豪語する発注者、いったい何者かと検索したら結構有名な…炎上歴をお持ちの方です。

もう少しこの人の名前で調べます。tsr-van2の企業情報を当たると…裁判沙汰になってる国際結婚仲介団体にも関係があるようで。とりあえずそういう社会起業家の方だ、ということがわかりました。

ランサーズでの評価が5段階の3.6、つまり若干低い(ネットオークションのそれと同様、まともに業務を進めていれば普通は『5』をつけて貰えるに決まっている)のも気になりました。調べます。

3年ほど前に『養子縁組のマッチングアプリ』の募集を中途で終了させた経歴が平均値を引き下げている、とわかりました。

なるほど、この人はたぶん、事務所内に司法書士がいないのに登記は自分でできるという情報商材を売る非司法書士みたいな人だ(笑)

言い換えると、若干の正当性を主張しつつ秩序破壊的な経済活動に邁進して恥じないタイプ。五分の理があることは認めますが、嫌いですよもちろん

ただ、この発注者が実用化するサービスで他の事業所がどんどん潰れていくことになるだろう、と言ってる以上はこの人自身のサービスも潰れて全然かまわない、そうした自由な=と言って悪ければ無秩序な競争は好きそうです。

弁護士法やら個人情報保護法やらの壁を乗り越えてこのサービスがローンチした(←あ、IT業界ふうに言ってみました)近未来をちょっと想像してみます。早けりゃ来年初頭から、らしいですよ。

このサービスそのものは利用者から直接費用を取ることをあまり想定しておらず、開設したウェブサイトへのWeb広告の掲載を主たるマネタイズ方法と想定するようです。

弁護士に案件を紹介して紹介料を取る、と読める文章も企画書には書いてありますが弁護士法違反なんで、これはさすがに弁護士のほうが乗ってこないでしょう。そんなこと書いちゃダメです(失笑)

そうすると。

このサービス、依頼回避手段にはなるかもしれません。明らかに関わりたくないし他事務所に回して迷惑かけるのもイヤだし法テラスは利用済み、といった案件の持って行き先がそこになる、と。人間が動かしてないサービスなら、どれだけ試行錯誤しても迷惑する人がいないことになります。

上位互換のあの人達の法律相談で出てくる投げやりな「司法書士さんに訴状書いてもらったら?」という助言のさらに下の階層に「そういえば訴状を自動で作るウェブサイトがあるみたいだからそこで作ってみたら」という助言がある…ようになるかもしれません。

その意味では完成も存続もしてほしいようなサービスですが、そもそもサービスへのアクセスを集める手段を欠いている気がします。

完成したシステムは入力データと出力物が常に一対一で対応する(入力値に対して、出力値はランダムな変動はしない)ものだし入力データは非常に限られているので、ちょっとしたプログラムができる人と司法書士または弁護士が手を組めば同じものが比較的簡単に(すぐに・安価に)できる点は発注者も自覚している弱みです。

この点、面白いのは○○士ドットコムのようなヒマ○○士滞留サイト、いえ法情報提供サイトが同様なサービスを実装して公開することでしょうか。

で、そのサービスからこぼれ落ちた人をヒマな○○士がケアして相談料収入につなげればいいはずで、これなら絶対成功するパターンになります。

上記いずれにもならずに独自性を保った場合…これは情報弱者だけが使うサービスになるだろう、と僕は見ています。

ごく簡単なことですが、このサービスは「自分は自分自身(と、そのサービスの活用)で訴訟が起こせる」と思い込んだ脳天気な素人が使うものになります。

つまり、およそ訴訟には敵対当事者=被告がいて、そいつが違法合法とりまぜたありとあらゆる反撃をしかけてくる、なんて思いもしない連中がこの訴状作成サービスを使う、と。

上記の可能性に思いが至る人ならば、自分には敵がおり、開戦前から軍事顧問か参謀が必要だと理解でき、こうしたサービスからは順当に遠ざかるはずです。

言ってしまえば今回アプリ作成業者の募集が始まったこの訴状作成サービスは、ネットが使える(情報収集にスマホしか使わず、落ち着いた思索やリアルな世界での調べ物ができない)情報弱者が使うツールになると期待します。

そうであってもこのサービスの普及には期待できるのかもしれません。

結果として、被告側での事件の受託が増えるかもしれませんから。

なにしろ、『考え無しの素人がアプリで作った』と丸わかりの訴状が送られてくるわけですから…被告側に立てばいくらでもカモれるだろプロならば、と普通に考えるのは僕だけでしょうか(笑)

どうせ発注者にもさしたる考えはないかわざと隠していることは上記リンクの『依頼の目的・背景』欄記載の文章をよく読めばわかります。

この説明によれば少額訴訟の利用が進まない理由を、想定20万円以上かかると主張する弁護士費用に求めているのですが、ご同業の方なら即答できるとおりこの説明は『アプリで訴状を作る』≓裁判書類作成業務と訴訟代理を混同するもので、適切ではありません。

その点では、むしろこのレベルの説明に対してなんの質問もせず応募したオッチョコチョイのアプリ開発業者どもをマークしておくべきなのかもしれません。

この連中、要件定義があいまいな状態でシステム開発に乗り出して納期前1ヶ月間にデスマーチを繰り広げるような業者なのではないか、と勘ぐってしまいます。

上記URLのプロジェクトの募集は9月26日までだそうです。純粋に営利として行われる訴状作成サービス、というものの始まりを、ご同業の方には一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。唾棄すべきものだと僕は考えますが。

ところで。

これは純粋に技術的冗談と考えていただきたいのですが、簡裁定型訴状の賃金請求に関してだけなら僕もJavascriptで訴状作成サービスを作って公開できるよな、と思ってはいます。

日本初の称号目当てにやってみようかなー
11月までに作れりゃいいんでしょー(遠い目)

あくまでも冗談なんですが、その定型訴状からこぼれてくる案件を真っ当にケアできる仕組みとリンクさせられるならば、こうした半自動訴状作成システムは各事務所あるいは業界団体のウェブサイトに実装されていてもいいものだとは思いますよ。

いったん完成したものをパクって(あ、ヒントを得てというべきですね)ブラッシュアップするだけなら、プログラミングの心得があるご同業の先生方の技量できっと可能です。なんでしたら僕、応援します。

少なくとも、今回の発注者のような奴に参入・定着されるよりは1~2年話題を集めたあとに人柱になって終わってもらったほうがよほどいいと思うのです。


さて、Yさんにはコメントありがとうございました。新潟県会での研修をお受けいただいていたのですね。少しはお役に立てていればいいのですが…

申しわけありませんがご覧のとおり、このブログにはたまに妙な記事が出てきますので個人が特定できない程度にお名前とURLの記載を省略させていただきました。ご海容ください。

自信がないから完全成功報酬制、やっぱり提案してみたい瞬間は時折訪れるものですよね。ウェブサイトやブログに胸張って書けるものではないんですが(笑)またときどき、守秘義務に反しない範囲で実情を聞かせていただければ嬉しいです。

一方で、自信がないから…といった曖昧さを許容せずにただ費用だけで判断しようとする人、さらには今日の記事のようなサービスを正当性の衣をまとって導入しようとする人にも、ウェブのおかげで接することが増えてしまったように思えます。我々の業界を取り巻く外的環境についても、業界団体を通じた研修が必要なのかもしれません。そうした研修ほど、研修後の懇親会のほうが楽しくなりそうな気もしています。

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