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あまり嬉しくない勝訴のはなし

  • 「被告の主張。訴状記載の請求の原因第1から第5までを、それぞれ認める」

 お経と化した裁判官の声が、対処能力を失った原告代理人=僕の耳を左から右へ通りすぎていきます。名古屋から北へ1000kmほどの街にある、小さな簡易裁判所のラウンドテーブル法廷。聞こえる裁判官の声が少々弾んで聞こえるのは、気のせいでしょうか。

 呆然として見やる窓の外は、どんよりとした雲が垂れ込めています。裁判官による読経はなおも続きます。

  • 「訴状第6の付加金については争う、と。ではこれで弁論を終結します。判決言い渡しは7月●日、13時…」

…是非もなし。一言の声さえ、裁判官には届けられません。敵対側が僕のつくった訴状記載の請求を全部認めてしまっているという実務上の理由もさることながら、僕はこの口頭弁論期日を、法廷からの電話で事実上聞いているためです。

こうして、僕が簡裁訴訟代理人として会社側弁護士を相手取った初めての労働訴訟は、勝訴判決を得ることが約束されたのですが…嬉しくありません。今日はそんな話です。


ひょんなことから受任した、北の国での労働訴訟。労働基準法第114条の付加金込みですと請求額が140万円を超える事案なんですが、どうやら札幌高裁管内では付加金を訴訟物の価額に算入しないようです。名古屋とは異なるローカルルールのおかげで、僕はそのご依頼を簡裁訴訟代理人としてお受けすることができました。

訴えを起こした当初は貧相な社長と脂ぎった責任者が本人訴訟で迎え撃ってきたその訴訟、数回の期日を経て前回から、弁護士が会社側訴訟代理人に着きました。ようやく読める準備書面が出てきた、と僕は喜んで反論の第三準備書面を出し、今日は電話会議による弁論準備手続きの日だったのです。おそらくこれで次回は証拠調べだな、と出張手段の皮算用をしながら電話に出たのもつかの間、裁判官が驚天動地の一言を言い放ちます。

  • 「被告代理人から、被告は請求原因をすべて認めるという発言がありました」

…は?なんですと?往来ですれ違った美女からいきなりプロポーズされた気分がします。悪い気はしませんが迷惑です!

電話に向かって、思わず間抜けな問いかけをしてしまいます。

「ええとでは、いつの期日で認めるんです?」

ここから僕は、裁判官の強引全能さを見せつけられます。彼が矢継ぎ早にやったのは

  1. 今回の電話会議期日を、直ちに終了する
  2. 裁判所に出頭している被告代理人には、今日これから口頭弁論期日が始まる旨を口頭で告知する
  3. その後直ちに、口頭弁論期日を開く。被告代理人は出席、原告代理人は欠席ということで。
  4. 原告代理人たる僕は欠席だが、準備書面をあらかじめ提出しているのでこれを擬制陳述させる。
  5. 電話会議をしていたために法廷と僕の事務所は電話でつながっているが、裁判所は弁論準備手続の終了に際してその電話を切らないため僕は弁論準備手続の終了後直ちに始まる口頭弁論期日の進行を、事実上聞くことはできる。(ただ、発言はできない。電話会議で口頭弁論は開けないため)
  6. 原告側が欠席した口頭弁論期日において被告が原告の請求を認めることは、事前に準備書面の提出がなくても被告が勝手にできる(という立場を裁判所は採る模様。新たな主張ではないからか?)
  7. 被告が原告の請求を認めたのが口頭弁論期日である以上、裁判所はこれに応じて弁論の終結を宣言し、判決言い渡しの期日を定めることもできる

以上の行程により、来月には欠席判決程度の淡泊な判決を出して、裁判所は仕事を終えることができる、と!

  • 口頭弁論を電話で聞いた訴訟代理人、ってのが日本にどれだけいるのかわかりません!
  • そんなことができるなんて聞いたこともありません!

でも、世の中そういうもん、らしいです。恐るべし裁判所(苦笑)

 かくして僕は、事務所の窓の向こうに流れる天白川を眺めながら、完全に蚊帳の外に置かれた状態で自分が勝訴していくさまを電話で聞かされる、という不思議な立場に置かれることになったのです。

 被告に弁護士がついてたった2回の期日で全面的に負けを認めてくるに至ったのはどんな理由があるのか、これはまさに謎であります。会社側に生じた事態や動機がどうあれ、勝ちは勝ち、しかも職業代理人相手に全面勝訴するのは初めて(というより、代理人を相手取る訴訟が初めて)ですのでこの勝利を喜ぶべきかもしれません。証拠調べに至る前に、十分な準備書面を出して敵側が折れてくるようにする、という点では理想的な勝ち方でもあります。

でも、あまり嬉しくありません。

  • 証拠調べに備えて、お客さまの陳述書だけで十●枚書いたのに。
  • 陳述書作成準備のために、自腹で出張だってしたのに。
  • そして訴状から第三までの準備書面の作成量は、いつもながら●十枚にのぼるのに。

それらが…対席判決に向かって地道に重ねていた努力が、あのろくでもない経営者達に無駄にさせられた気分がするんです。あ~あ。


こんな日は風呂入って一杯飲んで寝るべ、とばかりに夕方からお風呂屋さんに出かけました。

帰ってくると、支部長先生の事務所から着信履歴が残っています。

何か一つ、やっかいごとを逃れることができた、と思えばいいのでしょうか。コールバックはしないと決めて、ヱビスビールのプルタブを引き上げたところです。

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