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記録閲覧二題 その1『誰がための但し書き』

今日から二回にわたって、裁判所における訴訟記録の閲覧で知ったことをお話してみようと思います。自分とは関係ない他の事件の記録を見てみる、というのは結構参考になるものです。当初は二つのネタを一日分の記事で書こうと思ったのですが、分量が増えたので二日分にさせてください。


 特急電車で2時間の甲地方裁判所にでかけたのは、いま書類作成にあたっているのと同様の裁判例がそこにあるから。ある職種の就労者について、労働者にあたるかどうかを争ったその先例の訴訟記録を見れば、就労実態をめぐってこれからどれだけ議論を深める必要があるかがわかると思ったのです。

 第一審の訴状から上告受理申立まで4時間余をかけて閲覧したところ、結局『おんなじ主張の繰り返し』という印象を受けてしまいました。その職種の就労者がその事業場でどんなふうに働いているのかという議論は、深まらないまま。当事者本人の尋問や陳述書でも、そこに力が注がれた形跡が見いだせません。

 まぁ逆に考えれば、その程度でもなんとかできるというわけでまずは一安心です。ところでその訴訟記録、オンラインのデータベースで閲覧できた労働者側一部勝訴の第一審と比べて、控訴審判決でさらに2割ほど労働者側が負けています。

 記録をよくよく見ると、認容額が削れてしまった理由は解雇予告手当の算定方法にありました。

 その事案では、日給制で週3回勤務の労働者の即時解雇について解雇予告手当、即ち30日分の平均賃金の請求がなされています。ここで平均賃金の計算を、労働基準法第12条第1項但し書きの適用ありとして同項第1号による最低保障額で行っています。

 第一審ではこれが丸ごと認容されたのに対し、被告側が控訴。甲高等裁判所の控訴審判決では、30日分の平均賃金支払義務は認めたものの本件事案では労基法12条1項但し書きの適用なしとして同条本文で計算を行った限度で認容しました。

 その理由を説いて曰く、同項但し書きは日給制労働者が平均賃金算定期間に病気などで欠勤したりして計算額が減少した場合に、算定される平均賃金が減って労働者が不利益を被らないよう一定限度で保護するためのもので、もともと所定労働日数が少ない本件事案ではこの規定をつかって労働者を保護する必要がない、と。

 ただ、労基法12条の字面だけ読んでると控訴審判決の結論にはたどり着けません。労基署レベルでは労基法12条1項但し書きの適用ありという指導がなされているようです。

 具体的に考えてみましょう。以下の条件の労働契約A、Bにおいて、今年8月1日付けで即時解雇されたときの平均賃金額はいくらになるでしょうか?賃金計算期間は毎月末日締め切りとします。平均賃金は5月1日から7月31日まで92日間で計算されます。

労働契約A

  • 所定就労日は毎週月・水・金曜日
  • 各日8時間勤務で日給8千円

この場合、カレンダーに当てはめると出勤日数39日、賃金支給総額は8千円×39日=312000円。

ちなみに、毎月13~4回の勤務があって、10万4千~11万2千円くらいの収入があることになりますよね。普通のひとなら、『この勤務先で通常どおり働いたら、月収は11万円±α』と認識するはずです。

で、労基法12条本則で平均賃金を計算すると

  • 312000円÷92日=3391.304円

これを労基法12条1項1号の最低保証額と比べると、算定期間中の賃金総額を実際の労働日数で割って60%をかけてあげればよいので

  • 312000円÷39日×60%=4800円

こうなってしまいます。したがって上記の最低保証額4800円を採用すると、この30日分は144000円(1)。東京都下の複数の労基署が、パート労働者にこの方法で平均賃金額を計算するよう指導しています。たしかに法律の条文だけみてるとこれでよいように思え、現に地裁レベルではこれで通っています。

 でもこれがおかしいことは、次の労働契約Bを想定して比べると明らかです。

 労働契約B

  • 所定就労日は毎週月曜~土曜日
  • 各日4時間勤務で日給4千円

週の労働時間が24時間、就労1時間あたり1000円であることは労働契約Aとおなじですね。これをカレンダーに当てはめると出勤日数79日、賃金支給総額は4千円×79日=316000円。

これを、労基法12条1項本則によって平均賃金を計算すると

316000円÷92日=3434.782円

念のため同条1項1号によって最低保証額を計算すると、

316000円÷79日×60%=2400円ですので、この場合は労基法12条1項本則で最低賃金額がきまります。この30日分は

3434.782円×30日=103043円(2)


さて、いま労働契約Aにおける平均賃金の30日分、即ち即時解雇した場合の解雇予告手当額144000円(1)と労働契約Bにおける解雇予告手当額103043円(2)をくらべてみます。

4万円を超える差がありますね。

でも労働契約ABは働き方に差があるだけで、時給で換算した賃金額は同じです。違いは週3日出勤するか6日出勤するか、それだけ。

それで解雇予告手当が4万違ったら、そりゃあきらかに不平等だろ、気づけよ!

って都下某労基署に言ったらいけないんでしょうか?

もちろん労働者としては、なんとなく請求額が増えてしまうため誤った助言でも従ってしまいたい気分になるとは思うのですが、それは違うと思います。上記の労働契約Aにおいても労基法12条1項本文によって平均賃金額を確定し、3391.304円×30日分=101757円とするのが、働き方の実情に沿います。

そして僕もいままでは漠然と『条文がそうなってる以上そんなもんか、でもおかしいよな』と思ってきたのですが…同条1項但し書きで平均賃金を計算する事案にいままで出会わなかったのは単にラッキーなだけだったわけで(大汗)


さて、次回予告です。乙地方裁判所でたまたま見つけたその訴訟、被告は『労働組合』。記録閲覧で明かされたその組合の内幕とは?

題して『誰がための合同労組』

残念ながらその労組の名前は出せませんが、当事務所での相談レベルでは遠慮無く実名表示で…というより、その労組への加入だけは阻止しますよ、僕なら!

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