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記録閲覧二題 その2『誰がための合同労組』

 勤務先にかかわらず一人でも加入できる労働組合を、一般労組または合同労組といいます。最近では労働紛争に巻き込まれた労働者が駆け込み的にこうした労働組合に加入し、団体交渉にあたったり弁護士の紹介を受けて、いわば紛争解決の手段とわりきって利用するというかたちで合同労組と関わることもあります。

 もともと僕はこうした労働組合の利用法(失笑)には首をかしげていて、当事務所の相談にくるお客さまに合同労組を利用した人がいらっしゃるときには注意して組合の関与の状況を聞いているところです。

 乙地方裁判所の開廷表に、僕も知っているその合同労組の名前を見つけましたが、様子が変です。

  •  原告は個人名。
  •  被告は、合同労組。

 どういうことでしょう?日を改めて訴訟記録の閲覧をかけたところ、つぎのことがわかりました。

争いのない事実の概要

  1. 訴外某会社は経営不振・事業再編を理由に労働者7名を解雇した
  2. 原告労働者らはこの時点で、被告合同労組に加入
  3. 被告合同労組は団体交渉を申し入れ、解決金として各労働者につき月給の18ヶ月分を要求したが、会社の回答は6ヶ月分にとどまった
  4. 被告労働組合は県労働委員会にあっせんの申立をおこない、各労働者につき9ヶ月分を目処とする解決金として合計1500万円を被告労働組合に支払う旨のあっせん案を提示
  5. 訴外会社も被告労組もこれを受諾、会社は解決金を被告労組の預金口座に振り込んだ
  6. しかし被告労組は、受け取ったお金を原告労働者らに支払わない
  7. 原告労働者らは弁護士を選任し、被告労組に本件訴訟を起こした

往年の松田優作調に『なんじゃこりゃー!』と叫んでみたいこの事案。一言でいえば、不当解雇の解決金を労働組合が受け取ったのに労働者に払わない、だと!

※過払い金返還請求でCM打ちまくりの某事務所を連想したりもしますが。地下鉄車内に掲出してある、遠い目をした元プロ野球選手の広告がふっと頭をよぎります。

それはさておきさらに書類を閲覧すると、被告労組は代表者による本人訴訟で本件一連の紛争を迎撃しようとする様子。被告側の主張によれば

  • 労組が受け取った解決金は、労働者にではなく『労働組合に』支払われたものだ
  • そのことは県労働委員会のあっせん案が『会社は労働組合に』解決金を払うと定めていることと、別のあっせん案では『会社は、労働者および労働組合に』解決金を支払うあっせん案を提示することもあり、この対比からも明らかだ
  • したがって、労働組合が受け取った解決金を労働者とどう分配するかは、組合自治の原則に基づいて労働組合と労働者が話し合って決めるものだ
  • 被告労組においては、不当解雇で会社から取れた解決金について、その15%の金額を労働組合にカンパとして納めてもらうことになっている
  • それにも関わらず原告労働者らは被告労組の事務所に、他の労組の役員を伴って大勢で押しかけ、脅迫的な言葉を使って解決金の支払いを強要し、組合の業務を妨害した
  • そこで被告労組は、組合事務所に押しかけた原告各労働者に対して損害賠償および慰謝料を請求する訴訟および調停を逐次起こした。その数7件。

…なんだかめまいがして来ました。つまりこれは、堂々たる『労労対立』なんですね。ただ上記で組合が労働者を訴えた訴訟は、労働者一人ごとに一つの訴訟(請求額はギリギリで簡裁に収まる程度の金額)をおこしており、原告労働者側弁護団がそれらの各訴訟を乙地方裁判所に移送するよう申立をおこなったのに対して抗告を繰り返して争っているのだとか。つまるところ、よくある引き延ばしを行っているということは組合が労働者を訴えた各訴訟、初期の狙いは単なる脅しだと推測します。

 さて、僕が閲覧した訴訟は証拠調べを経ずに弁論を終結、2ヵ月ほどで判決言い渡しになる模様です。原告側の書面を見て思わず笑え、そして泣けたのは『(労働組合が受け取った解決金を労働者に払うのは)あまりにも当たり前のこと』と論じていたこと。

 どうやらこの当たり前のことがこの労組では実現できていないようだし、原告側が指摘するように駆け込み的に労組に加入して解雇事案で解決金を受け取り、それを所定の割合(ここでは15%、225万円!)を組合が請求するよう約定して組合が行動する、というのはそりゃ非弁行為だ、と言うべきでしょう。

 ただし、本件事案で労働者は純粋に被害者か、といえばそうではないと思います。いくら自分が困っているからといって単なる民間団体が無料で手をさしのべてくれることなどあるはずもなく、たかだか月間2千円程度の組合費を一年程度納めて一人200万を超える解決金をゲットできたら組合は用済み、などという態度であるならあまりにも虫がよすぎでしょう。これはあくまで推測ですが、この労働者らは常にそのときそのときの『虫のいい・楽ちんな』選択を重ねてこういう結果になったようにも思えます。単に着手金のない代理人を求めて労働組合にたどり着いてしまった、それに裏切られたから今度はようやく弁護士を使う気になった、と。結局のところ本件事案、初期段階で弁護士を選任して労働審判を申し立てていれば、無駄な団交やってる間に解決金が得られたはずなのに…おかしな寄り道のおかげで彼らがお金を手にするのは1年遅れになってしまいました。

 自分が組合のためになにか行動する意思がないのに労働組合に加入する、つまりサービスの利用者として組合員の地位を取得するというのは、僕には不純に思えます。そうした労働者から団交とあっせん代理を請け負ってカンパという報酬を得る労働組合は、これはタダの事件屋であって『電話一本であなたを笑顔にします』とかいいながら補助者に業者と交渉させてしまう過払い専門事務所とそう変わりはありません。利用者とサービス提供者がある意味、お互いに都合のいい低レベルな均衡を保っているという点では合同労組も過払い事務所も共通で、その均衡が破れたときに懲戒事案になったり民事訴訟になったりするわけです。その実情をのぞき見てしまうと、彼らの存在意義って一体何なのか頭を抱えてしまいます。

 ただ困るのはそうしたサービス提供者の実情を、表面的な広告や対外活動から知ることが極めて困難ということで、今回書類を閲覧した被告労組もしばしばプレスリリースを出して無料の労働相談会などを実施しているようです。

 さらに泣けるのはその相談会、協力する司法書士やら社労士がいるとのこと。そんな組合に協力する連中の気が知れないのですが、執行部の連中と口をきいてみて気配でわからないものなんですかね?あるいは当人はプロボノ活動気取りで気持ちよく踊っているうちに、しっかり非弁組合の営業活動に利用されているだけなのかもしれません。

 もちろん世の合同労組のなかにはこれよりさらにろくでもないものもあれば、素晴らしい活動をしているものもあるはずです。

 ですが、僕は今後も特定の労組と結託するつもりもないし、反貧困を掲げる諸団体と協力するつもりもありません。


ところでこの事案、僕ならどう処理するか…考えました。

事案の流れをみると、会社側が6ヶ月の解決金を払うと言っているのに対して団交の段階で組合がした要求は18ヶ月分、これに対してあっせん案は約9ヶ月分ということで組合の要求は単に暴利(笑)。もし各労働者が裁判所にも出頭してくれると仮定すれば書類作成で労働審判申立を支援するのが手続きとしては最速で、金額面でもあっせんとほぼ同じ水準の解決が期待でき、労働者ひとりについて書類20枚書いたって各人につき12万円、7人合計で84万円、ってことになるでしょうか。単純な解雇事案であれば、ここまで枚数を増やすこともないと思います。ただ、この事務所はあくまで『代理人にはなれない』という点が致命的です。組合やら弁護士がなにかやってくれ、私は何もしたくない、という態度の人では当然ながら、こちらも受託できません。

でもこの事案、結局弁護士を立ててしまったうえに組合側がおこした(たぶん不当な)損害賠償請求訴訟では一人100万円を超える請求がなされており、そして手間がかかるはず。たぶん結構な割合の金額を弁護士の報酬として、完全に合法的に持っていかれるはずです。

するとこの労働者たち、本件紛争の完全な解決の時点でどういう印象を持つのでしょう?あっせん申立でせっかく増やした解決金の大部分を、訴訟代理の報酬として失うわけですから、あまりいいものではないと思います。見方をかえれば、労組でさえ15%は不当解雇の金銭解決にともなって報酬を取るのだから、それよりちょっとだけ高い報酬体系を設定して全国規模でCMを打ちまくれば、弁護士法人ならいくらでも稼げるんだろうな…とも。『お金のため』と割り切れば、きわめて有望な事業分野であるはずです。不当解雇事案は。


12月12日加筆

先月、上記の訴訟の記録を確認したところ、第一審では労働組合側完全敗訴となっていました。当たり前といえばあまりにも当たり前ですが、でも組合側は控訴している模様です。

なお、この記事は何人かのマニアックな人の注目を得ているようで、引用して論評する人、リンクをつなげて他人に相談をする人が複数おられますがいずれも当事務所とは一切関係のない人たちであることを申し添えます。まぁ適当に自分の世界で遊んでいてください。

その一方で、不良労組に困らされている方からの匿名でのお便りもいただいています。この方達に対しては、本人訴訟でよければ可能な限り支援したいと考えています。

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コメント

勉強不足か、僕もよく労働組合の存在と方向性を分かりかねることが多いです。運良くあまり接触もなかったですけど。。。
とても面白い記事でした。インド人もビックリ程度に辛口ですね(^^)
被告労組の言い分は何か色々悲しいですね・・・

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