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少し気になる懲戒事例

 今月号の月報司法書士はいつもより懲戒処分の公表記事が多いように見えます。そのうちの債務整理をめぐって戒告をうけた事例のなかで、懲戒処分の事実および理由にこんな一節がありました。


  • 被処分者は、140万円を超える地裁案件について、裁判書類作成業務として処理しているにもかかわらず、代理業務と同様の基準による成功報酬等を請求している。
  • 被処分者は、140万円を超える地裁案件について、裁判書類作成業務として処理しているにもかかわらず、代理業務と同様の基準による成功報酬等を請求した点については、一般的な業務内容を踏まえて社会通念に照らせば不適切な取扱いであると認められる。

『月報司法書士447号 P.106~107』


 さてこの部分、司法書士業界における過払いバブル崩壊につながる破壊力を秘めているとも思えます。回収額の一定割合(事務所によっては、さらに債務を減額した金額の一定割合)を任意整理でなく裁判書類作成によって過払い金を回収したときでも同じように請求している事務所は多々あるはずですから。僕のところのように、裁判書類作成業務と比較されるべき『代理業務』が存在しない事務所であっても、成功報酬制を取る報酬設定を持っている関係上、潜在的には懲戒されうると考えねばいけません。

 債務整理を主たる業務としている諸先生方には一定の混乱を巻き起こすんだろうな、という関心はさておいて、この事務所の主たる業務である労働問題についてはどうでしょう?上記の引用をみると、『一般的な業務内容を踏まえて』不適切な取扱い、というところに手がかりがある気がします。

 ここでの一般的な業務内容、というのを、司法書士業界での報酬額基準が生きていた時代の一般的な裁判書類作成=比較的簡単な事案の訴状を数枚書いて、一回あたり数万円の報酬を得る、と考えていいならば、確かに訴状本文と添付の計算書せいぜい合計十枚弱であっさり完全勝訴判決が取れ(特に論点がない場合)、その請求認容金額がたとえば150万円で、司法書士が成功報酬として25%で消費税込40万円弱(場合によっては、さらに債務の減額に関する報酬として数万~十数万といったところでしょうか)程度の報酬を取ったら…

 なるほど、そりゃ変な気がします。昔の報酬額基準で報酬設定をすれば、どうみても10万円程度になってしまいますから。この懲戒事例では処分された司法書士が請求した報酬額が、夫婦合計530万円余!ですので、まぁ僕の事務所の昨年の売上の半分以上という高額(笑)であることも、回収額や債務額に対する一定のパーセンテージでお金を請求してしまうことの不当性を強めたのかもしれません。

 さてではこの事務所の仕事に照らして考えてみます。一般的なご依頼像としては

  •  請求額100万円程度
  •  20ヶ月程度の割増賃金未払い
  •  敵には弁護士が着く
  •  口頭弁論期日三回程度は全力で殴り合う
  •  和解額は80万円程度

 こんな感じでしょうか。かんたんに、各裁判書類の正本および副本2通作成は1ページあたり6千円、このほか一件について1万円の基本報酬を取ってみるとすると

 訴状 本文10枚添付計算書22枚 

 計32枚×6000円+1万円=20万2000円

 第1~第3準備書面 平均一件6枚と超少なめに仮定して(実際には一件10ページを超える準備書面がホイホイ出る)

 (6枚×6000円+1万円)×3件=13万8000円

 合計34万円。純理論的にはこういったお金の取り方なら『一般的な業務内容を踏まえて』も『社会通念に照らして』も特に不当性がないということになるでしょう。これぞまさしく、古式ゆかしい報酬額基準の適用形態として標準的です。

 取れたらいいよね、そんなにさ(憮然)

 もちろん当事務所の日常がこんなに素晴らしいはずもなく、どこかに行くことを一切無視しても上記の事案なら当事務所での報酬設定は、

 書類作成開始の際に請求額の5%程度

 100万円×5%=5万円

 和解成立後、お客さまがお金を受け取った際にその額の10%程度

 80万円×10%=8万円

 以上合計、13万円。これだけです。

 さてそうするとこれは懲戒相当なのか?もし世の中がそのようなものであるならば、僕は胸を張って司法書士を廃業していいはずですが、情緒的なものはさておきなんらかの論理構成を考えねばなりません。

 有力な考え方としては、

  1.  本来あるべき、書類の枚数での報酬計算
  2.  1.での計算額が過大になる場合にのみ許される、請求額や回収額に応じた報酬計算

 の二つを提示し、安い方を採用している(そのことによって、少額事案での依頼のしやすさを実現している)、というものではないかと思います。これだと、安すぎる報酬の設定による依頼の不当誘致、という問題は残るものの、報酬が過大になって糾弾されることは絶対なくなります。僕が司法書士会や法務局に呼ばれても、偉い人達がさぞ困ることでしょう(笑)

 なんのことはない、当事務所における一般的な請求金額と作業量でみるかぎり、たとえ成功報酬を請求してもそれは『標準的な報酬より減額して請求される、後払いの一種』になってしまうということでしょうか。ただ、この点について当事務所の報酬額基準では、労働事案においても書類作成枚数を積算して得られた報酬額のほうが安いときにはそうする旨の規定(作成枚数が多いので発動実績は皆無)を設けていますが、これをもう少し分かりやすいものにしておく必要がありそうです。


最後にぽっぽこさん、はじめまして、コメント拝見しました。

さて労働訴訟の依頼人、依頼した弁護士さんと進行中の裁判にはちょっと後ろ向きな印象をお持ち、ということなんですねぇ。残念ながらそうした体験談は、この事務所にはないんです。ごめんなさい。なぜならここの事務所は代理人にはなれない関係上、すべての手続きが労働者自身が出頭してやらねばならず、さらに各期日ではかなり積極的に書面を出して攻めて行く関係上、和解勧試だけがだらだら続くこともないからです。コメントからでは誰に原因があるのか不明ですが(あなた自身にある、という可能性も当然私は捨てません)、お望みの情報がネットに転がってるとは考えない方がよいでしょうね。

 ただ、そうした事案を全く知らないわけではありません。公開可能な性質のものではないのですが、訴訟代理人を使う労働訴訟においては一般的にありうると考えてもよいのでしょうね。

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コメント

お返事ありがとうございます。
自分自身は証人がいる事と会社側の答弁書の矛盾点をまとめて弁護士先生に提出していたのですが、必要無いということで使わずじまいでした。
仮処分の決定では「解雇無効」との判断で賃金も支払われる様にはなったのですが、「本人が望んでないのに和解歓試がしつこいわ。それだけのためにいちいち裁判所に呼び出すなよ」とか「労働審判で和解金120万としたのに仮処分前になって180万
で説得するなら労働審判の決定はなんだったんだよ」(労働審判・仮処分ともに同じ裁判官でした)等いろいろ不満・疑問があったもので他の経験者の方はどうなのかなと思いコメントさせてもらいました。
井上薫氏の「裁判官の横着」「狂った裁判官」等を読んでみると要因の一つに人事評価があるみたいですが、裁判を受ける側からすればいい迷惑なんですが・・・。
あと先生の「申立て費用確定手続き」の記事のおかげで自分で費用計算する際大変助かりました。(弁護士の先生がやった事がないというのにも驚きましたが)
これからも先生の体験談いろいろ参考にさせてもらいます。


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