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先取特権について調べているあなたへ

 このブログへのアクセス状況を見ていると、一日に一件や二件はすごいキーワードで検索してくる人がいらっしゃいます。失礼ながら今日一番ウケたのは

 司法書士は先生と呼ぶべきか

 どーぞ、ご勝手に(失笑)一体なぜそんなことを調べねばならないのかには興味がありますが。

 さてもう一件は

 先取特権の存在を証する文書 水道

 隣県の某町のドメインからのアクセスです。ということは水道料債権について日用品供給にもとづく一般先取特権を行使するおつもりで?

 たしかに民法第310条を見る限りでは自然人に対する過去6ヶ月ぶんの水道料債権は先取特権で担保されそうな気がします。強いて強制執行(たとえば、その債務者の銀行預金の差押命令申立)に持ち込みたければ…担保権の存在を証する文書としては

  •  その町の水道供給約款(水道供給単価)
  •  対象となる家の水道メーターの検針記録(水道供給量)
  •  水道供給開始時の開栓要請に関する書類または水道料の引き落とし・集金に関する記録(水道供給契約の締結)

 ぐらいでよいように思えます。

 ただ、そうやって検索された担当者さんの熱意をくさすわけではありませんが、たぶんそんなことをまじめに考える人はいないでしょうね(嘆息)

 さて先取特権と言うと当ブログでは、雇用関係の先取特権(民法第308条)に関して検索をかけてくる方も結構いらっしゃいます。

 ただね。そのへんに転がってるウェブサイトで『労働者の給料は先取特権で保護されています』なんて言説は現実から月と地球ほど離れているのは言うまでもない(企業破綻時には租税債権はじめ、さらに優先する債権がどんどん割り込んでくるため)として、最近気になるのは検索者の皆さんが先取特権の実行=すなわち差押の申立を考えているらしいことです。

 断言できますが、それに必要な資料はウェブでは揃いません。

 理由です。

  •  まずその申立件数自体が思わず笑ってしまうほど少ないです。以前、名古屋地裁にこの申立(雇用関係の先取特権にもとづく債権差押命令申立)を行った際には事件番号が(ナ)第9●号となりました。12月も中旬で90番台、ということで地裁・簡裁における通常訴訟の数十分の一から百分の一強の申請件数しかありません。ちなみに大阪地裁に2~3月にかけて申立をおこなった際には30番台・40番台の事件番号をもらいました。つまり一年では200件程度と推測できます。
  •  ですので必然的に、やったことがある奴も泣きたくなるほど少ないということになります。極めて順当に、それができるお方=大抵の場合、労働者側の弁護士、にたどり着ける労働者も少ないままです。
  •  さらにその申立に際してそろえなければならない資料(書証)が必ずしも一定でない(同一の会社に同時期に違う労働者について申立てても異なる!)ため、市販の様式集も全然あてになりません。つまるところ、『やったことがある奴』のところにしか正確な情報がない、その状態がいつまでも続く、ということになります。

 さてさて市販の本やウェブサイトを探しても、手に入るのは適当に書かれた債権差押命令申立書の書式だけで、実は添付書類を適切に調製することに大部分の苦労が集中する、という状況は僕が以前この申立をおこなったときから3年ほど、ほとんど変わっていないようです。

 弁護士・司法書士を使わずに雇用関係の一般先取特権にもとづく差押命令申立をご検討の皆さんには、まぁあきらめろとまではいいません(たまたま簡単にできるものだって、ないとは言いません)から、せめてウェブサイトをさまよい続けることだけは直ちにやめることを強くお勧めします。

 この申立について一番現実的で役に立つ情報源は、日本労働弁護団が出している『季刊 労働者の権利』の10年ほど前の記事にしかありませんので、まずそれを探してください。大都市の市立図書館あるいは県立図書館には所蔵があると思います。名古屋近辺にお住まいの方は、勤労会館にある労働図書資料室をお使いになるのもいいでしょう。季刊労働者の権利の、

  • 第227号(1998年10月)『先取特権はもっともっと使える』
  • 第217号(1996年10月)『迅速な労働債権の確保のために先取特権をもっと活用しよう』

 の二つの論説を参照してみてください。あきらめるにしろやってみるにしろ、すべてはそれからでよいと思います。

 ところで僕は国会図書館で、先取特権を論題とする単行本・雑誌記事を定期的にウォッチしているのですが、雇用関係の先取特権を巡るもので上記二記事を超えて有用なものがここ十年世にでてない、というのが…切ないですよねぇ。一応僕のところでは相談に応じますし場合によっては申立を決行しうるのですが、書証をチェックして十分だと確信でき、かつ差押がヒットする財産がないならば…ダメだと言わざるを得ないのです。ごめんなさいね。

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