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訴状、北の国へ

 名古屋から出すエクスパック500が翌日到着しない、北の国。人口よりも乳牛の数がおおいその町に小さな裁判所があります。

 釧路地裁管内の裁判所に、少額訴訟を起こすことになりました。もちろん労働事案です。

 例によって労働基準法第114条の附加金の請求が訴訟物の価額に算入されるのか、さらに予納郵券の組み合わせを裁判所に尋ねます。予納郵券については『券種の組み合わせは問わないが、とにかく1050円×4組』という…いままでに聞いたこともないような柔軟な回答が帰ってきます。50円切手84枚納付したら嫌われるんでしょうか(冗談です)

 附加金については、少し戸惑った気配が伝わってきます。しばし保留の間があいて、調査のうえ折り返すとのこと。15時前に電話を入れていたのに16時を回っても返事が来ません…どうしよう?

 夕方までに集配郵便局に差し出せなければ到着がさらに一日遅れます。ままよ、とばかりに訴訟物の価額と貼用印紙額欄をそれぞれ空欄で出力し、三部そろえてエクスパックの封筒を閉じた3分後に市外局番01●●の電話!

 見てるのか?どこから見てるのか?と苦笑しながら電話に出れば、まぁ許せる返事が返ってきました。曰く、『附加金は訴訟物の価額に入りません』と。その独立簡裁だけの見解がこんなに遅いはずはないので、おそらくは釧路地裁管内はそうなんだろうな、と推測します。請求額20万円弱、さらに同額の附加金請求をつけたその訴状に必要な印紙代は、2000円となりました。

 さぁこれで筆者が知る限り、附加金を訴訟物の価額に入れるのは名古屋地裁管内各裁判所と大阪地裁堺支部(平成19年時点。大阪地裁本庁は不算入)だけという状況です。このほか福岡・奈良・横浜・東京・さいたま各地裁では附加金は訴訟物の価額に入りませんので、名古屋地裁管内だけがちょっと特殊ということになります。


このことは、たとえば100万円の時間外労働割増賃金未払い事案において司法書士が代理して訴訟を起こす場合、名古屋では附加金請求ができない(訴訟物の価額200万円となり、晴れて地裁労働部デビューになってしまう。当事務所ではめでたいことと認識されるが代理権を生かしたい諸先生には致命的となる)のに対し、東京や大阪なら大丈夫、ということになります。司法書士の簡裁代理権を論じるうえでもっとも恐ろしい不平等の一つであるはずですが、本県においてそうしたトピックスに接したことはないということは…まさかだーれも困ってないってことなんでしょうか? 

閑話休題。


 かくして当事務所における最遠距離依頼人of The Year(苦笑)の座をほぼ確実なものとされたこのお客さま、書類作成開始にあたっては当事務所規程どおりに請求額の4%、債権回収完了時に回収額の7~14%の料金をいただく契約になっています。

 つまり附加金請求が通らなければ、僕がもらえるお金は最大で3万5千円。

 ところで。

 実はまだ、少額訴訟で当事者尋問をやった事案をみたことがありません。そもそも少額訴訟として依頼を受けることがほとんどないことと、被告側が嫌がらせ的に通常訴訟へ移行の申述をしてくるのが理由です。

 しかし。

 見たことがない現象が発生したときには交通費自腹で見に行く、という服務規程があるこの事務所で、もしこの事案がそのまま当事者尋問になだれ込むようなら…?調べによれば

  • 名古屋から苫小牧まではフェリーで往復22500円(B寝台使用時)。
  • 苫小牧-札幌-釧路は高速バスを用いると往復12540円。

 よって釧路までなら35040円。すでにこの時点で赤字確定なんですが、目的の裁判所へはさらにバスで(笑 以下略)。でもこれ万一被告が出頭して少額訴訟のまま審理されるということなら、行ってみようと思っています。行きたいような行きたくないような…複雑な心境です。

 さてさて昨年度最遠距離依頼人にしておそらく最年少読者の一人である南の国の友紀さんからコメントをいただきました。ありがとうございます。ところで、少し見ないあいだに友紀さんは、『本をたくさん読む人』の文章に書き味が近づいているように思えました。僕としてはコメントの内容よりもその変化のほうが嬉しいと思っています。

 ただ、この事務所では債務整理のお客さまをなりふりかまわずかき集めることもそうした事務所から依頼の紹介を受けることも、今はもうしていないんです。我が国における近代的裁判制度の歴史からすればほとんど赤ん坊に近い司法書士による簡裁代理権制度は、導入後まったく偶然に過払いバブルに遭遇したおかげでいささか歪んだ成長をとげつつあるのかもしれません。この数年間は本当なら弁護士相手にひるまず訴訟代理をやって経験を蓄積すべきところを、手っ取り早い金儲けに走る方法を知ってしまったのではないか、という恐れを抱いて業界の現状を眺めています。

 その歪みが破断する寸前がいまのテレビコマーシャルや車内広告の氾濫なのではないかと見ています。お住まいの県でも東京や大阪の司法書士・弁護士事務所のテレビコマーシャルがいくつか流れていましたね。ただ困ったことにはそうした事務所の広告やウェブサイトはどうしても、この事務所のそれより目に入りやすく見栄えもよい(爆笑)

 たとえばウェブサイト構築のテクニックとして、『依頼人に(なかば無理矢理に)業務への感想や担当者への感謝を手書きで書かせて収集し、公開する』という手法があります。おちついて画像をみているとわかる(書式が統一されていたり、正直なお客さまが『書いてと言われたので書いた』などとしているものもある!)のですが、困っていれば、あるいは自殺寸前なら、そうした子供だましならぬ大人だましの手練手管を真っ当なウェブサイトと区別しろと言う方が無理です。

 そして、広告やウェブサイトで集めたい楽して儲かる依頼=大手金融業者相手の多額な過払い案件、は着実に減っているから楽して儲けたい嗜好の人達はより一層営業活動を強化しより洗練された(だまし方として、かもね)方向に向かって競争していくことになります。こうなると、どうあっても儲からなくなる限界まで競争参加者はみんなでエスカレートしていくことになりますから、ここしばらくの間はとにかく商売熱心な事務所の集客能力だけが、その事務所のサービスの品質とは全然関係なく拡大を続けると見ています。そうした事務所のいくつかは、友紀さんの言葉を悪い意味で使えば『正義の味方的に』みえてしまうでしょう。

 誰が正義の味方なのか、は何が正義なのか、を考えないと語れないし、それはこの商売を続ければ続けるほどわからなくなってくる、ということで実は使いたくないし言われたくはない(別に気を悪くしているわけではありませんよ)言葉なんです。

 たとえば多重債務者に家を貸している人がいるとして、多重債務者が破産すれば未払い家賃債権が吹っ飛ぶ、ということがあります。

  •  ではこの多重債務者を破産させるのは、世の債務整理依頼誘致型安直ウェブサイトや下のわかりやすい題名の本が声高に主張するように債務者の当然の権利なんでしょうか?
  •  家賃を滞納されている家主さんが実は年金生活者で、この収入が重要な生活の糧のひとつだとしたら?

この本をおすすめする趣旨ではありません

 僕だったらもし家主側から依頼を受けたら、労働事案と変わらない知恵と労力を投じてこの多重債務者を追い込みます。ではこれは正義に反するのかどうか?

 考えていけばいくほど難しいんですね。でも考えることは止めたくないと思っていますし、多重債務者救済をうたいながら営利事業に邁進するくらいなら年金相談とファイナンシャルプランニングに専念したほうがまだ胸を張って生きて行けそうです。そうしたことも、一度失敗して営利事業型の事務所とくっつく寸前まで行かないとわからなかったのだから、我ながら困ったものです。もっと悪いのは債務者側でも債権者側でもまともな仕事ができないヘタレな奴でして、上記の事例のもとになった現実の事案では家賃債務者は破産せず商工ローン業者に過払い金返還請求訴訟を起こしていたのですが、その訴状を作成し原告を指導していた司法書士はなかなか●●な奴でして、口頭弁論ごとに被告代理人弁護士から和解金を数十万円単位で値切られていく様を青ざめながら傍聴していたことを思い出します。でもそのセンセイ、ウェブサイトを見るかぎりでは正義の味方的でしたよ。

 そうした現状下においてさしあたっては『誰もが裁判手続きを、費用的にも品質的にも適切なかたちで利用できる世の中を目指すこと』あたりまでは万人が認識を共有できる正義だろう、と思っていますので…つい着手金1万円未満で訴状作ったりしてしまうんですが、経験になるからといって自腹でどこへでも傍聴に行ってしまう、などということをしてしまうと経営上は打撃なわけで、僕に対する賃金債権をお持ちの補助者さまからすればちょっと心配になってしまうかもしれません。よってこうした出張を、正義とは言わないまでも強い正当性を主張しながら実施することはできません。そうした経営上は間抜けな儲からない行為を日常的に行うことはたぶん、正しいこととは言えないはずです。目の前にいるお客さまの様子と自分の懐具合と六法全書と…あとは敵対当事者がどれだけ気に入らない奴か、を悶々と考慮しながら何をどれだけやるかを決めている、それをときには正義の味方と言う人もいれば上から目線で見る奴もある、というところでしょうか。

 ただ、このコメントを見た僕の事務所の素敵な補助者さまの言によれば、友紀さんは素敵なお客さまだそうですよ。僕もこれには同意します。

 何が正しくて何がそうでないのか、を僕が考え続けるにあたって補助者さまは実に貴重な存在なんですが、友紀さんもなにかいい考えがでたら教えてくださいよ。もちろんお客さまをご紹介いただくのもいいんですがね(笑)

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コメント

鈴木さんあんまり堅く深く考え過ぎですよ。確かに人の一つの行動を片方から見れば『正義の味方的行動』でもう片方から見れば 『悪意の善偽者』かもしれませんが、鈴木さんが私に教えてくださった沢山の事、母を助けて下さったことは私の目から見たら『正義の味方鈴木慎太郎様』でありドラえもん、仮面ライダー、スーパーマン、ウルトラマン、アクション仮面にアンパンマン的存在です。でも、相手方被告NCから見たら正義の味方じゃないですね(笑)

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