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本人訴訟の反対尋問を考える その3

これは9月13日付 本人訴訟の反対尋問を考える その2の続きです。

さて前回までの記事では反対尋問の目的・やってはいけないことを眺めてきました。では具体的に何をどうすればよいか、をできるかぎり説明していきましょう。

ところで、本人訴訟をおこなうひとが専門家に明らかに優越しうる要素があります。

それは、その訴訟に投入できる時間が文字通り採算を度外視して大量に確保できることです。弁護士でも司法書士でも、結局のところ彼らからすればお客さまの事件は、彼が扱う複数の事件の一つに過ぎません。納得いくまで資料の精査と尋問の計画と依頼人との打ち合わせに時間を投入する、ということはなかなかできないものです。これに対して自分で訴訟をやっているならば、文字通り自分の気が済むまで好きなだけ時間を使えます。

ではこの時間、どう使うのか?簡単に言えば、いま手元にある書類の検討です。

そう一言で言えば、意外と地味かもしれません。少なくともドラマティックな逆転劇や、証人がやり込められたりする情景の期待はするだけ野暮な妄想です。

5.すべてを疑え! -まずは陳述書から-

 証人尋問または当事者尋問の直前時点で、手元にはどんな書類が集積されているでしょうか?当事務所で一般的な労働訴訟のように、請求額が数十万円でも使用者側にはしっかりと訴訟代理人がついている場合には、出廷する証言者の『陳述書』が書証として出てきているはずです。事案により、二ページから十数ページになるこの陳述書、敵対側の当事者からであれば向こうにとって(真偽はともかく)都合のいいことが羅列してあるはずです。そのうちいくつかはあなたからみて真実に反していたり、あるいはウソに見えたりするかもしれません。一部では一致していることも多々あります。

 まずここでは、その記載内容にいちいち目くじらをたてるのはやめましょう。胃に穴があくだけです。さしあたり、この陳述書をよく読んで

  •  彼らが主張したい、物語がどんなものなのか

 をよく把握しておく必要があります。さらに具体的には、

  •  そうした物語を語ることで、彼らになにかいいことがあるのか

 を敵対側の身になって考えることができれば、なおよいでしょう。

 お客さまに面と向かって言うことはほとんどないのですが、実のところお客さまが言うことばかりが真実と一致している、というわけでもないのです。場合によっては敵対側の陳述のなかに一抹の真実が混じっていることがあり、当事者から敵対当事者の陳述をみたときに、陳述が食い違っている点を敵側のウソだと決めつけることで得られるものはなにもありません。むしろこちらの記憶と違う理由を冷静に考えて、そうした陳述がでてきた理由を探索したいところです。場合によっては相手の・あるいは双方の記憶違いということもありますからね。自分のアタマだけが確かではない、というのは作業にあたってつねに留意しておかねばなりません。

 さてここからは人海戦術です。まず敵側の陳述書を中心にしてそこに書いてあることと

  1. 相手側が出した、ほかの書証
  2. こちらが持っているが、相手の捺印があるなど相手側が作成したことがかんたんに立証可能な書証または書類
  3. 相手側作成の、答弁書・準備書面など裁判書類
  4. 物理法則・気象現象・報道された事件・歴史上の事実・地理的な位置関係・官公署への登録など、こちら側で資料を調達でき、その真正さを疑う余地がない情報
  5. 普通の人が共有できそうな常識

これらと矛盾が生じないかを、片っ端からチェックするのです。これは結構苦痛な作業ですが、時に恐るべき攻撃力を反対尋問者に与えます。さらに、上記1~3の相手側の手になる各書類についても、それらを中心にして同様の検討作業を繰り返してみるべきです。

 特に、敵側に能力的に問題がある代理人がついている場合、先週提出した当事者の陳述書と半年前に提出されている準備書面が、おなじ代理人の手をへて作られたにもかかわらず全然違うことが書かれていて整合がとれない、ということはしばしば発生します。

 こういう点は、訴訟で争っている部分であれば容赦なく反対尋問で襲いますし、仮にそうでなくても尋問の冒頭にいきなり敵の矛盾を叩いて動揺させるネタとして使えます。

 敵側が出してきた答弁書と証人尋問での陳述は一致するが、過去に自ら作成した書類とは大矛盾を起こす、ということもあります。僕自身が過去に、雇い主である土地家屋調査士・行政書士を訴えた訴訟では、敵側の主張では僕を解雇した事実はなく、自己都合退職であった、とのことでした。

 これに対して僕は、その訴訟の1年8ヶ月前に解雇された時点で雇い主が発行した、離職理由を解雇とする離職票(公文書ですので、上記2に相当)を持っていましたので当然これをぶつければよい、ということになります。

 人はある程度前のことを、あまり厳密には覚えていないようなのです。僕は解雇から訴訟提起までの期間が結構長かったのですが、それがこちらにプラスに働いた例といえましょう。ただ、こうした間違いは敵側にしっかりした弁護士がついていれば容易に防げたはずです。自ら作成し提出した離職票の控えは会社側にも保存されている可能性があり、その記載事項の確認を求めていればよかったのですから。

 ここでは、手前味噌ですが『その専門分野に通じた人』の協力を受けて資料を精査することの重要さも示すことができるでしょう。法学部を出て司法試験に受かって中小都市で普通に事務所を持っていれば、離職票の実物なんか見たことない、という訴訟代理人が存在していても不思議ではありません。もし使用者側が、自分が残した『解雇の痕跡』を精査できたならば、当然にこの離職票をこちらが持ってる可能性には気づくことができ、その存在に適合するウソを作って出してくることも不可能ではないのです。

 陳述書でもない紙切れに、敵の向こうずねを蹴飛ばす手がかりが隠れていることもあります。その効果は、事案によりまさに暴力的です。

-以下の説明は、実際の事案を一般化のうえ改変しています-

 不倫による慰謝料請求の被告事件、つまり慰謝料を請求されている側で反対尋問対策をしたことがあります。

 慰謝料を請求している原告は『夫に浮気された妻』。当然ながら、不貞な行為があった時点でいかに自分と夫の夫婦仲がよいかを強調するのが彼らの主尋問の目的です。こちらは慰謝料減額のために、夫婦関係の破綻を主張したいところ。

 原告側は、甲第10号証として旅行の申込書を出してきました。つまり夫婦二人で旅行の申し込みをしており、一緒に行くほど仲がよかったんだ、と言いたいようです。こちらの依頼人は、その時点で夫婦仲は壊れており、旅行になど行くはずがない、と言います。真実がどこにあるかは、僕にはわかりません。申込書を書いたのは原告である妻のようですが、その申込書の記載をよく見ると、そうした旅行会社もパックツアーも実在はするようです(当然そこまで調べます)。でも?

 ・・・夫の誕生日が全然ちがいます!そこで。

 当事者尋問の日。こちらは最初、漫然と反対尋問に入ります。

反対尋問者:(素人っぽく棒読みで)甲第10号証はご夫婦で旅行に行ったというものですね?

原告:ええ、そうです。

反対尋問者:(無表情で事務的に)この申込書は、旦那さんのぶんも含めてあなたが書いたんですか?

原告:はい、私が書いて手配して、旅行中も何から何まで夫の世話をして夫も喜んでくれて…

反対尋問者 目線で傍聴席の僕へ:(かかりましたね)

僕:(どうぞ、おやんなさい)

反対尋問者:つまりとてもご夫婦の仲がよかった、と?

原告:(自分がいかに献身的で、夫はよき夫だったかを滔々と語る)

反対尋問者:では甲第10号証の旦那さんの誕生日の日付をみてください!あなたが書いたのは昭和35年10月5日となってますが、甲第3号証戸籍謄本では旦那さんの誕生日は昭和33年8月12日ですよね?そんなに仲がいいはずのご夫婦が、相手の誕生日を覚えていないものなんですか?

---------------------------

この後の原告さんがどうなったかには言及しません。ただきっと、彼女にも人を訴えることの恐ろしさは伝わったと思います。これは、相手側が出した書証と、こちら側も持っている戸籍謄本の記載(夫の誕生日)が全然違っていることを利用して、敵側の陳述の信憑性を破壊するかさもなくば証人を動揺させることを狙って放った反対尋問ですが、少なくとも後者の目的では成功を収めたようです。

即座に提出可能なかたちでなくても、科学上の知見と実は全然食いちがう事実については、ハッタリ半分で叩いてみることもできます。

 ジュースをこぼして部屋を汚したことによる損害賠償請求被告事件での反対尋問対策。敵はどうやらチンピラまがいの半端者。でも小金は持ってるようで、いちおう訴訟代理人をつけています。敵がつくってきた、第三者の陳述書で

 汚した物件には、夜にもアリがたかってきた。それを原告と被告と第三者で駆除した

 という記載がでてきました。つまり損害の大きさを強調したいわけです。

 さーてさて。アリの生態に関する研究によれば、アリは一般的に昼行性(昼間に行動する)の生物なんだそうです。ただし、気温の高い時期には一時的に、夜行性に転換することもあるのだと。よってこんな尋問計画をたてました。

反対尋問者:甲第3号証は●●さんの陳述書ですが…『午後10時頃部屋にきて、私とあなたと●●さんとでアリをつぶしていた』ということですね。覚えはありますか?

原告:覚えています。

反対尋問者:では昼も夜もアリが入ってくるんでしょうか?

原告:もちろんそうです。いまも一日中アリがたかって困ります!

反対尋問者:ところであなたは、アリが昼間にのみ行動する昼行性という性質を持っていることをご存じですか?

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 これなんかは冷静にウソを言ってくれれば、こちらは引用文献を所持していないためそれ以上突っ込めなかったのですが、あわれな原告は結構見苦しい姿をさらしてくれたようで。一時的に夜行性に転換するというところをもし敵が知った場合にそなえて、「夜も昼もアリがくるのか」という設問にしてあります。これだと、アリが昼行性なら「夜アリを見た」のが真実と相違、夜行性なら「昼にアリを見た」のが真実と相違、という線で陳述の信憑性を弾劾できるのではないか、と。

 さて上記のアリの例などは、さらりと言われれば『そんなもんか』と見過ごしかねないものだと思います。「私は、深夜にアリがたくさん歩いているのを見ました」と言われて、そりゃねーよ、と即座に突っ込める人がどれだけいるもんでしょう?僕も実は知らなかったのです。

 すべてを疑え、と冒頭で言ったのを徹底的にやってみたらこうなったのですが、さすがに賃貸住宅の原状回復請求訴訟でアリの生態を持ち出して反撃されるとは誰も思わないでしょうね(笑)

 あとは、そうやって見つけ出した突っ込みどころをどう使うか、が肝心です。これは正解がない世界ですが、わりと成功しやすい事例を中心に説明していきましょう。


 ところで。

 この反対尋問というもの、まさに経験が命なんですが、それを考えると司法書士の簡裁代理権が制度化された直後に債務整理&過払い金返還という一大業務分野ができちゃったことで、実は司法書士職能が業界として反対尋問の経験を蓄積するのを数年以上遅らせてしまっているのではないか、と少々不安です。ま、僕のようにお行儀の悪い人間が心配することでもないんですけどね。でも僕にとっては尋問の傍聴は、とても大事な時間で、こればかりは交通費こっち負担でも出かけたいところです。

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