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本人訴訟の反対尋問を考える その2

これは9月8日付本人訴訟の反対尋問を考える その1の続きです。

さてさて今週一件、その反対尋問を実施したお客さまがおられました。残念ながら僕は傍聴できなかったのですが、終了後の彼の連絡によれば

楽しかった

とのこと(苦笑)

この訴訟、期日続行となったため尋問調書がつくられます。楽しみにするとしましょう。

そこでいったいなにが起きたのか?なにができるのか?を考えていくとします。

1.そもそも反対尋問とは?

民事訴訟法の正確な定義からは少し離れます。反対尋問っていったい何か、というと、

こちらが呼んでいない証人あるいは敵対側当事者に、敵対側の当事者あるいは訴訟代理人からなされる尋問(主尋問)のあとで、証言した人に対してその証言の信憑性を減少させるか当方有利の証言を引き出すために、こちらからおこなうことができる尋問

と考えておけばよいと思います。ただし、こちら側に有利な証言を引き出すこと自体は主たる目的とはなりません。あくまで証人を呼び出したのは敵対側であって、その敵対側がその尋問によって立証したいことがらを離れて無制限に何か聞けるわけではないのです。これをわかっていないと、自分では肝心な尋問と思ってるところで敵対側の訴訟代理人から異議が出て足下をすくわれることもありますし、裁判官から制止がかかることもあります。

2.では反対尋問で何をめざすべきか?

 前項では反対尋問は、敵対側の証人・当事者(本論では、敵性証人といいます)の証言の信憑性を減少させるか、あわよくばこちらに有利な証言を引き出すことが目的、と言いました。

 このうち現実的に可能なのは、だいたい前者=信憑性の減少あるいは破壊です。

 ただし、請求額が少額な労働訴訟に出てくる訴訟代理人は時として非常に間抜けなため、さしたる打ち合わせもせず予備知識も与えずに自分の顧客を反対尋問にさらすことがままあります。粗雑な代理人と粗雑な社長がコンビを組んだときによく発生する事故の一つです。ただし、これは天佑に恵まれている必要があり、狙って実施することはきわめて困難です。さらにいえば、信憑性を減少させることとこちらに有利な証言をとることは同時に狙うことも難しいです。両者を同時に狙って実現してしまった場合、『こちらに有利なこともしゃべったが、全体として信頼できないやつだ』という評価を第三者(裁判官)に与えることになってしまいます。

 話をもどします。では、さしあたって敵性証人の証言の信憑性を減少させるにはどうしたらいいのでしょう?

3.より怪しい証言の実現のために -人のふりみて我がふりなおせ-

 こちらと立場が対立しており、好き放題に(あなたが認識している真実とはちがう)事実の描写をしゃべりまくる他人に対して、なにを聞いたらそのお話の信用性を破壊できるでしょうか?

 あなたウソついてるでしょう!あなたは××だといってますが、本当は●●なんですから?なぜそんなウソをつくんですか!?

 などと指をつきつけて叫んでみるのは、馬防柵を備えた鉄砲隊に騎馬隊で突撃するのとおなじくらい雄壮で馬鹿で無駄です。気持ちイイのはやってる本人だけで、そうした法廷では法壇では裁判長が居眠りしており反対側当事者席では訴訟代理人が眠気をこらえており傍聴席では代書人がお客さまに『これは悪い見本』というメモを回している、というような光景が展開されていることが多いです。

 そんな調書にも尋問にも接しましたが、やっぱりそうした反対尋問者はたいていどうしようもない尋問ごっこに憂き身をやつしており、そしてなによりほとんどの場合、その反対尋問者は第一審で負けています。

 この『第一審で負けている』というのが、皆さんが反対尋問を準備する際の留意事項の一つです。もし真剣に反対尋問を準備しているならば、どこか高等裁判所の本庁(支部ではない)がある町に出かけて、高等裁判所の証拠調べのうち

  1.  控訴人に訴訟代理人がついておらず(本人訴訟で)
  2.  開廷表に弁論でなく証拠調べと書いてあり
  3.  開廷予定時間が1~2時間程度と長い

 そんな期日があるならば、ぜひ傍聴してみることをおすすめします。運がよければ平日の半日をさいて他人の裁判をきいただけの収穫が得られることがあります。ところで上記三点の性質をもつ訴訟というのは

  • 控訴人が控訴している、ということは、まさに控訴人が第一審で負けたことを意味しているわけですが、第一審で『敗訴の判決を得た』ということは、なんらか事情があって和解に失敗した可能性が大きく、その中には控訴人が和解という落としどころを見いだせなかったか、さもなくばパーソナリティに問題があるか、ごくまれに訴訟を起こし維持するのがご趣味であるがゆえに和解に至らない、ということも期待できる
  • 控訴人に訴訟代理人がついていない、ということは、自らの意志で代理人をつけることを拒否したほか『受任してくれる人がいない=誰にも相手にされていない=請求あるいは控訴人の人格に何か問題がある』という事案もあり、やはり控訴人に問題があることが期待できる
  • これは基礎的なことですが、開廷表に証拠調べと書いてあり開廷時間が長いということは、なんらか理由があって控訴審においてもしっかり時間をとって証人尋問が行われるものである

 以上によって、ある程度ヘタな素人が生半可な知識や経験をもって、おかしな反対尋問をやってくれることが少しは期待しやすい事案というのは控訴人本人訴訟の証拠調べ、ということになります。こうしたセレクトをすると、名古屋高裁にあっても、時としてぞっとするほどひどい尋問をお客さまに見せることがままあります。

 この想定自体がひどく贅沢なんですが、これが簡裁の本人訴訟だと単にまともな人が粛々とあたりさわりのないことを聞いておしまい、ということが多々あり、地裁第一審の本人訴訟も件数は相当あるものの玉石混淆で見分けがつきにくく、なかなか『ヘタな尋問』を狙って傍聴しにくいのです。そこでの尋問がいかに失敗しているか!をまずよくみること、そしてその轍をふまないことが重要です。

 当然ながら上手な・あるいは普通の尋問、というのもみておく必要はありますが、これはべつに『なにかのついで』でかまいません。尋問自体が成功しているかどうかの判定は時に難しいし、予備知識なく傍聴してあきらかにわかるような反対尋問側の勝利、というのはそれ自体が珍しいのです。みられるとは期待しないことです。これは、適当な地裁本庁あるいは支部にでかけて、双方に訴訟代理人がついている訴訟を適当に傍聴すればそれでよいでしょう。大都会の裁判所でなければ、労働訴訟でしかも証拠調べまで行く訴訟はそんなに多くなく、したがって傍聴の機会もあまりありませんので、事実関係や価値判断ががなるべく対立していそうな類型の訴訟(交通事故とか建物明け渡しとか)を傍聴するのがよいかと思います。

4.いったい何が悪いのか?

 もし幸運にも、誰かヘタな反対尋問をみることができたとして、いったいその人の何をみればよいのでしょうか。これを考えてみます。これから反対尋問の計画をたてるにあたっては、そうした不適切な行為を、ともかく避けなければいけません。

 第一 とにかく相手の言うことをウソだと言わねば気が済まない

 これは単純に困ったやつ、なんですが本当に実在します。テレビドラマの登場人物じゃあるまいし、法廷でそんなこと言ったって証人は怒るか心を閉ざすかするうえに上から見ている裁判官の価値判断は決して反対尋問者に傾かず、言ってプラスの効果は何一つ発生しません。よほどはっきりと明らかな虚偽の証言が出てきたときならばともかく、そういうときにはウソだという言葉をつかって糾弾する必要そのものが消滅しており、やはり無駄です。

 ちなみに当事務所での打ち合わせにおいても、僕はお客さまに『相手がなにを言っても、根拠なくウソだと決めつけてはならない』旨を徹底させています。…が、これは僕が人格的にすぐれているわけではなくて、性格の悪さをそれとわからないように最大限発揮させようとするとそうなる、という面もあります。

 第二 相手の論理に自分の論理で反撃したい

 これは無益です。残業代請求訴訟の被告会社側から課長が出てきて『原告さんに残業を指示した覚えはありません』と言っているところに原告労働者が反対尋問で『あなたはウソをついている!』というのは、上記の通りただの間抜けで論外です。では反対尋問で『あなたは残業を指示したでしょう?』と聞くのはどうか、なんですが、こちらは単に言った言わないの水掛け論で終わるだけです。まず間違いなく、こうしたものの聞き方は無駄です。同様に、自分の価値判断を押しつけるのも無駄です。無駄であるどころか、証人に余計にしゃべらせて証人の陳述を補強するチャンスをくれてやることになりかねません。危険です。

 さらに専門職の証人に対して『あなたは専門家なんでしょう?だったら●●するものでしょう?なぜしなかったのですか?』などと聞くのは、その●●がよほどの基本的な事項であれば格別、実際に争いごとに関わるような微妙な点ではほとんど役に立ちません。かえって反対尋問者がご都合主義的な人物であることを暴露するだけです。よって打ち合わせの際には、これも避けるように指導しています。

 ただし。間抜けな素人のふりをして、わざと無益に見えるこのタイプの質問をぶつけて敵に余計にしゃべらせ、実は重要な証拠や指摘していなかった矛盾をつきつけてどうにもならないところに追い込んでしまう、という作戦計画が実行可能なときにはこうした質問を行わせることもあります。

 第三 相手の陳述や主張を把握していない

 これがすごいのは…

 時として訴訟代理人にこのレベルのお方が出現することです!

 いったい何かというと、わかりやすい例えで言えば『永田町さんが霞ヶ関さんにお金を渡したのをみました』と言った証人に『あなたは霞ヶ関さんが有楽町さんにお金を渡したそうですが…』と尋問に入るプロの反対尋問者をみたことがあります。

 当然ながら、尋問そのものが当然に破綻します。ですが当然ながら、入念な準備によって回避できます。そんなやつ本当にいるのかよ、とお思いかもしれませんが、いわゆる『伝言ゲーム』でデータがいかにゆがんでいくか、を考えれば、ありえないことではないと思いませんか?

 第四 証拠提出のタイミングが適切でない

 これもテレビや映画の悪しき影響なんでしょうか?素人の反対尋問者には、敵性証人からなにか決定的(に、みえる)供述をとったあとで、それを弾劾する書証をその場で提出してドラマティックに逆転をはかりたい、という行動をとる人もいます。

 が、期待するだけの破壊力が、その書証にありません(脱力)

 あとは、証拠説明書を添付してないとか、反対当事者側に渡す写しを取ってないとか、なんだか基礎的なところで間違っている、という人もみたことがあります。これではお話になりません。また、裁判所は一般的に、証拠の提出が遅れることを嫌うので、よほどのことがないかぎりやってはいけない作戦行動だと考えます。

 素人として避けるべき重要点はこのくらいだと思います。尋問者としてとるべき態度はまだいくつかあるのですが、それは後日お話するとしましょう。できればあと三回くらいで、計画のたてかた、基本的な戦術、成功例を説明できればと思います。

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